嘘の本当

よりとも

嘘の本当


子供の頃、すぐに嘘をついてしまう自分が嫌いだった。

持っていないものを持っていると言い、できないことをできると言って自分を大きく見せようとする自分が嫌いだった。

何度もそんな自分を変えたいと思ったが、変えることは出来なかった。


その日もまた嘘をついた。

私は努力家で誠実な私とは真反対の彼女に告白された。

彼女は嘘で塗り固められた私が好きなんだろう。

私は彼女のことが嫌いだった。

それは直ぐに嘘をついてしまい、弱い心しか持っていない自分とは正反対の姿で嫉妬していたから。

そして私は好きでもない彼女の告白を受けた。


彼女はよく笑い、いつも周りを笑顔にさせている。

相談を受ければ真摯に話し合い、相手のために泣くことができる心の清らかな人だ。

そして私はそんな彼女のことを好きになる。

私と彼女では全く釣り合わないのに。


だから私は今度こそ本気で自分を変えたいとそう思い、誓った。

しかし、嘘で塗り固められた私から嘘を取り除くことは難しい。

だから私は嘘を嘘ではなくそうと思った。

それはその時は嘘だったかも知れないが、その嘘を真実にできれば嘘ではなくなると考えたからだ。


だから今までついた嘘の清算をする。

小さな嘘から真実に変えていく。

本当は知らないのに知っていると嘘をついたことはそれについて徹底的に調べて理解した。

持っていないものをを持っていると嘘をついたことはその物をなるべく低いコストで集め、収集した。

そこまで出来るわけではないバスケをできると嘘をついたことは町外れの体育館で練習したり、動画を見ながらその動きだけを完璧に行えるようにした。


どうしてもできないことがあったのなら、正規の方法では無くてもどうにかして行い、あたかも正規の方法でやったように取り繕った。

そうして私のついた嘘は着実に減っていった。


そして、また私は彼女のことを嫌いになる。

それは自分のできないことを正直に吐露し、誰かに相談できる彼女を見たから。

私は誰にも相談することはできなくて、彼女には仲間がいる。

そこで、私は彼女との埋まらない差を感じた。


だから私は彼女に別れを告げようと思った。


「もう、別れよう。私は君の思っているような人じゃないんだ」

「それは直ぐに嘘をついてしまうこと?それともそれを悔やんで努力をする貴方のこと?それとも誰にも相談できなくて悩んでいる貴方のこと?

私はそんな貴方のことが好きよ?」


彼女はわかっていたのだ。

私がプライドが高く、傲慢で自己中心的なことを。

そしてその上で私のことを好きだと言ってくれた。

だけど混乱してしまった私はまた嘘をついてしまう。


「お前が嫌いだ、お前のそういうなんでも馬鹿正直に答えるところが嫌いだ。誠実であれるお前が嫌いだ。私とは違うお前が大嫌いだ」


彼女は涙を流し走っていった。

そして私は彼女を追いかけることは出来なかった。

そして私はそんな私を心から嫌いだった。

結局なにも変えられていないのだと痛感させられた。


そして、その日は家に帰った。


翌日、彼女は学校に来なかった。

あの真面目な彼女のことだからサボりではないだろうからきっと風邪をひいたのだろう。

次学校に来たらあの日とことを謝ろう。

正直に言うのは難しいかもしれないが、絶対に言おう。


次の日、彼女は学校に来なかった。

明日になったら来るだろう。


その次の日も彼女は学校に来なかった。

担任が暗い顔をして教室に入ってくる。

そして担任は彼女が一昨日交通事故で亡くなったと言った。

そして今日葬儀があると言った。


あの日、あの後彼女は交通事故にあったのだ。

私が追いかけていれば、私があんなことを言わなければ、私が、私が‥‥‥。

私の目から涙が溢れてくることはなかった。

彼女が死んだのに涙を流すことができない自分を呪った。


私は葬儀にはいかなかった。

涙を流すことができない私が行くべきではないと思ったからだ。


私はその日から学校を休んだ。

それから一月程が経過した頃、担任を経由してひとつの手紙が渡された。

それは彼女が死ぬ前に書いていた手紙だった。


『愛する貴方へ

 私が好きになった貴方は本当の貴方ではなかった。

 貴方は嘘にまみれた自分に苦悩していた。

 私は貴方の助けになりたいと、そう思った。

 貴方はまた嘘を重ねる。

 嘘を嘘で覆い隠し、真実にする。

 それでも誠実であろうとする貴方を私は好きになった。

 言葉では直接言いにくいから文字にしました。

 いつかこれを言える日が来るといいな。

いつかの私より』

それを読み終わった後、彼女が死んでも流れることのなかった涙が溢れた。

一度溢れ始めると堰を取ったように止めなく涙が溢れてくる。


私は涙で震える体を抑えながら彼女の墓に向かった。

墓には当然のように彼女の名前が刻まれていた。


清藤凛花せいどうりんか


彼女の名前を呟き、顔を上げる。

もう一度だけ会いたい。

好きだと言うことが出来なかった。

謝ることが出来なかった。

だがもう彼女はいない。


だからこそ私は前に進まないといけない。

私は墓を後にした。


次に私がここに来るときは本当に自分を変えられたときにしよう。

そして、その時は彼女の墓の前で謝ることにしよう。


私は歩きだした。

後ろを振り返ることはなかった。

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嘘の本当 よりとも @yoritomob59

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