15 多治見カンナの策略 -3-

「なんであたしが…」


 あたしを見て怖がった双子の片割れが。

 突然、家に帰ると駄々をこね始めた。


 ちーちゃんには「おまえのせいだぜ」なんて笑われるし。

 …酷すぎる。

 笑顔で自己紹介しただけなのに。



 それで、その男の子の方を、ちーちゃんが自分のルームに連れて行った。

 で、なぜか千秋ちゃんから離れない女の子の方…は。

 あたしに「食べられる」とまで言って怖がったクセに、あたしがちーちゃんについて行こうとすると嫌がって。

 結局、あたしは千秋ちゃんとしゃくと。

 三人で社食に行く事にした。


 …あーあ。

 ちーちゃんの空き時間、相手してもらおうと思ったのに…



「……」


 ふと、千秋ちゃんに抱っこされてるしゃくが、千秋ちゃんの首にしっかりと腕を回して、肩越しにあたしを見つめてる事に気付いた。


「…なあに~?しゃくちゃん。怖いお顔して~。」


 赤い唇をニッと引き上げて、あえて怖がらせるような口調で言うと。


「おまえ、大人げない。」


 千秋ちゃんが、パチンといい音が出るほどの強さで、あたしの額を叩いた。


「いたっ!!も~!!何すんのよ!!」


「大声出すな。」


「……」


 そんなあたしと千秋ちゃんのやり取りも、しゃくは無言で見つめてる。

 …何なの!!

 何だか…見張られてるみたいで気持ち悪いっ!!


 唇を尖らせて、横目でしゃくを睨む。


 あー、もうっ。

 千秋ちゃんが子供寄りなのも気に入らないっ。

 社食に行ったら、何か理由つけて逃げ出そう。


 そんな事を考えていると…


「こー!!」


 突然、しゃくが大声で誰かを呼んだ。


 …こー?


 笑顔になったしゃくの視線の先を追うと…

 …あら。

 いい男。



「アキちゃん、しゃく、おりゆよ~。」


 超笑顔になったしゃくが、千秋ちゃんにそう言うと。


「……」


 あらあら…千秋ちゃん。

 どうしたの~?その仏頂面。

 ヤキモチ?

 そんなに?


 ちょっと楽しくなったあたしは、ほんの少し笑顔でしゃくとと千秋ちゃんを見た。



「おー、サクちゃん。今日、ノン君はどうした?」


 いい男が慣れた感じでしゃくを抱き上げると…


「こー、げんきあった?」


 しゃくが、こーの頬をピタピタと触る……


 …って。

 何これ。

 すごく馴れ馴れしいって言うか…親子みたいなんですけど。



「こー、アキちゃんよー?」


 しゃくにそう言われたこーは、千秋ちゃんに。


「神さんのお兄さんですよね。初めまして。朝霧あさぎりです。」


 そう挨拶して…

 あたしにも、ほんのりな笑顔をくれた。

 …朝霧。

 て事は…Deep Redのギタリストの息子?



「ああ…お父さんには本当にお世話になってます。」


 二人の会話を何んとなーく聞きながら。

 あたしは観察を続ける。



「こー、おしおとあゆの?」


「ああ。今からお仕事。今度はノン君も一緒に会えると嬉しいな。」


「ろん、とーしゃんとおへやいったの~。しゃく、アキちゃんとおしゃなない……」


「……」


「……」


 しゃくが、あたしの紹介でもしてくれようとしたのか。

 はたまた、あたしの存在を思い出して不機嫌になったのか。


「こー、おしおとがんばえ~…はやく、おしおといって~……たべあえゆよ~…」


 内緒話のつもり?

 丸聞こえなんだけど!!


 こーは「え?」って首を傾げながら、千秋ちゃんにしゃくを手渡して。


「じゃ、また。」


 しゃくに手を振って、あたし達に会釈して歩いて行った。



「…ちょっと。食べられるってどういう事よ。」


 低い声でしゃくに言うと。


「…くちびゆオバケ…こあいよー…」


 しゃくは千秋ちゃんの胸にギュッと抱き着いて言った。


「くっ…!!」


「あはははは!!くちびるオバケ!!はははは!!」


「……」


 あまりにも、千秋ちゃんが破顔で笑うから…眉間にしわを寄せてしまう。

 ええええええええ~!?

 どうしちゃったの!?千秋ちゃん!!

 そんな…そんな事でバカ受けするなんて…!!

 千秋ちゃんらしくないわよー!!



「大丈夫。くちびるオバケ、結構優しいんだぜ?」


「…ちょっと。その呼び方やめてよ。」


「まーまー。そうやって仲良くなってけばいーだろ。」


「仲良くなれる気がしないんだけど…」



 すごく気に入らないけど…

 ちょっとさっきの雰囲気が気になって。

 あたしは、しゃくに問いかけた。


「ね~え、サクちゃん。さっきの…こー?すごく仲良しなのね。」


 自分でも気持ち悪い猫なで声。

 おえっ。て心の中で思いながらも、しゃくの様子を見てると…


「…こー、だいしゅき。」


 しゃくは、千秋ちゃんの腕の中で照れたように言った。

 それを聞いた千秋ちゃんは、もう…あからさまにムッとしてる。

 おいおい…あなた、この幼児の彼氏ですか…?



「ふうん。こーはサクちゃんの何?お友達?」


「おまえ、子供に何の探り入れてんだよ。」


 千秋ちゃんがつっけんどんに言ったけど。

 しゃくは自分のお気に入りの事を聞かれたのが嬉しかったのか。


「こーは、しゃくのおよもだちで、んっと、えっと…」


「およもだちって…」


 変な言葉に鼻で笑ってると。


「しゃくと、ろんと、こーと、かーしゃん、いっしょのおへやで、ねてたの~。」


 とんでもなく…おもしろい事を口にした。


「…え?」


 面白がってるあたしとは反対に。

 千秋ちゃんは顔面蒼白。

 …え?って。


 こっちが、え?だわ。


 千秋ちゃん…



 もしかして本気で知花さんを…!?

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