改めて失礼しますね。兄さん♪

 銀杏家はお風呂がかなり広く、昔は四人で入っても全然余裕だった。

 高校生になった今でも、三人くらいは余裕で入れるだろう。


 ーーさて、ここで言う三人の中に当然俺はいない。

 小学生までは確かに四人一緒に『きゃっきゃっ、ウフフ』の楽しい入浴だったさ。

 寧ろ通常の兄妹なら、中学生間近まで一緒にお風呂とかあり得ないだろう。


 そのことに気付き始めたのは、俺が小学六年生の夏頃だった。

 理由は単純で、夢奈の体が女性らしくなったことが原因だった。

 今や山脈となっている夢奈の胸は、当時は小山程度の大きさとなっていた。

 毎日一緒に入ってたせいなのか、そのことに気付くのが遅れてしまった。


「なぁ、夢奈」

「どうしたの兄さん? 早く体洗ってくださいよー」

「うん。でも……夢奈のおっぱい大きくなってない?」

「ん〜……そうですか?」

「なんかすごく柔らかくてマシュマロみたいだよ」

「んっ……くすぐったい、ですよ……」


 こうして俺は夢奈の発展途上の胸を、ゆっくりと念入りに洗ったもんだ。

 毎日お互いの体を洗いっこしていたのが懐かしい。

 まだ子供だった俺ではあったが、何となく恥ずかしくなってしまったのだ。


 そして小学校卒業を機に、偽妹とのお風呂も卒業したのだ。

 当然偽妹たちからは反発されたが、この時ばかりは折れなかった。


 冬頃にはさらに大きさが増していた。

 夢奈は夢奈で、俺に洗われるのが何故か快感に変わっていたという。

 その証拠に夢奈は、直接手で洗ってあげるたびに艶かしい声を上げた。

 揉みしだいてほしいとも言われた!


 それに興奮を覚えた俺は焦った。

 いくら妹でも、毎日見てる妹の裸でも、男と女であることに変わりはない。

 だから一緒のお風呂をやめたのだ。

 今だからこそ思うが、妹相手に欲情しかけていた事実に罪悪感を覚える。


 よって俺と偽妹たちが一緒に入浴する事はなくなったのだ。

 それが正しい。俺は兄として妹に欲情する訳にはいかないのだ!


「兄さん。今晩は一緒にお風呂に入りましょう!」

「夢奈よ。俺はお兄ちゃんなので妹との入浴はもうしないよ。というか今になってそれ言う?」

「今日は疲れましたよね? 私も同じです」

「それなら一人ずつ入ろうな。そうすればリラックス出来る筈だ」

「なので兄さんと洗いっこしたいんです。もちろん"素手"で!」

「何故に素手を強調した……」

「夫婦の営みにタオルやスポンジといった無粋な物は必要ありません!」

「誰が夫婦だ!」

「うあ痛ッ!」


 夢奈の頭に手刀をお見舞いした。

 これも愛情あっての折檻なので問題はない。


「バカ言ってないでさっさと入ってこい」

「バカじゃないですよ。私は本気と書いてマジですよ?」

「尚悪いわ!」

「そうだよおねぇ! ボクとおにぃが一緒に入るー!」

「にぃに。柚空は大丈夫です……」

「二人もか……」


 こうなると収集がつかなくなる。けれど勝手に解決もするのだ。


「むぅ……仕方ないですね。二人も来てしまったら兄さんの迷惑になります」

「じゃあ今日も?」

「そうです。また私たち三人で入りましょう。不本意ですが……」


 ーーと、このように解決してくれる。


 誰かに取られるくらいなら、誰も手出し出来ないようにするのがいい。

 それが偽妹たちの答えだ。


 だから今晩も、俺は一人で当たり前のように入浴する事になった。

 順番としては偽妹たちの後に入浴するようにしている。つまり偽兄妹で一番最後という訳だ。


 これにも当然理由がある。

 中学三年の頃に、たまたま俺が一番最初に入浴した事があったのだがーー。


「兄さんの残り湯で体を温めるのは私です!」

「いーやボクだよ! だっておにぃはボクのなんだからっ!」

「にぃに。にぃにの残り湯は……柚空が使っていいですか?」


 ーーと、偽妹たちの間で口論になった事があった。

 それ以来、俺は最後に入浴する事が家庭内ルールとなったのだ。


「はぁぁ……極楽極楽……」


 確かに妹との入浴も心が躍るだろう。

 けれどお互いもう高校生なのだから、その辺はわきまえないといけない。

 妹の成長は兄としては嬉しい反面、寂しくはあるがな。


「さて、そろそろ体を洗うかな」

「分かりました。では兄さんのお背中は、不肖この私が務めさせて頂きます!」

「そうだな。じゃあ頼む……訳にはいかないな!」


 立ち上がろうとしたのを、すんでのところで止めた!

 何故かは言うまでもない。


「どうやって!」

「はい? 普通に入ったんですが……兄さん気が付かなかったんですか?」

「マジで?」

「はい、マジです」


 ドアが開いたところなど見た覚えはないし、聞こえもしなかった。

 だからこそ偽妹の侵入を許したわけだが。


「というかタオルッ! タオルくらい巻きなさいッ!!」

「嫌です! 兄の前で裸体を隠す妹がどこの世界にいるというのですかっ!」

「たくさんいるよ!?」


 夢奈はその豊満なボディを隠さない。

 タオルは無粋と言っていたが、本当に巻いてこないとはーー。


「それよりも兄さん。兄さんはまず、惜しげも無く裸体を晒す妹に言うべき言葉があるのではないですか?」

「いやさっきから言ってるよ! タオル巻けとなっ!」

「そうではありません。私の成長した……正確にはまだ成長中の体をどう思いますか?」

「ど、どうって……」


 そう言われて、つい夢奈の裸体をまじまじと見つめてしまう。

 透き通るような白い肌に、女性らしく膨らんだ二つの果実。淫らという訳ではなく、寧ろ宝石の如く美しい裸体だ。


「………………」


 ーーなどと言える訳がないだろうがッ!


「いいから出て行け。だいたい成長中だからといっても、妹の裸なんてもう飽きるほど見たよ」

「むぅ……素直じゃないですね」

「何のことだかな」

「ですが、それはつまり私には欲情しないということですよね? なら何の問題もないですね!」

「そうなっちゃうのかよ……」


 妹の裸は何度も何度も見ている。だから今更興奮などしない。

 ーーなどある訳ないだろッ!!


「では、改めて失礼しますね。兄さん♪」

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