第六回 魯徽の霊は呼延顥を殺す
陳元達の死を知った劉聰は、それが
勲旧の宿将、
「皇太弟(
姜發が諸人に言う。
「そろそろ潮時というものだ。自ら退かねば陳元達の後につづくことになりかねぬ。すみやかに身を処するべきであろう」
関山たちはその言に同じ、一同して
「吾は病を得ていまだ癒えておらず、古い付き合いの諸公と身を退いて余生を楽しむわけには参りません。今や朝廷では王沈と
諸葛宣于の言葉を聞くと、一同はそれぞれの私邸に引き揚げた。
※
それより、勲旧の諸人が老病を理由に職を辞する旨の上奏を行ったものの、劉聰はいずれも許さない。
日を置いてふたたび辞表が届けられると、姜發や関山を召し出し、慰留して言う。
「河間王と陳元達は齢を重ねて頑迷になり、朕の命に度々背いた。しかし、罪したわけではなく、いずれも病を得て世を去ったのだ。大将軍は皇太弟と謀議して逆を図り、そのことは
劉聰に問われ、姜發が言う。
「陛下を疑っているわけではございません。臣らは先帝に従い、陛下とともに南に征して北を討ち、労を憚ったことはございません。かつ、今や勲功を
「卿らが老病を理由に辞職を願うとは、朕を捨てるつもりか。
「吾が弟は先の
「それほどまでに願うのであれば、背くわけにもいかぬ。これまでの艱難を労う餞別の宴を設けるゆえ、朕と歓を尽くした後に職を辞することを許そう」
劉聰がそう言うと、姜發は拝謝して退いた。
※
ついで、関山も辞職を許されるよう願い出るが、劉聰はそれも許さない。
「卿の先君(
関山はさらに言う。
「臣が二人の兄は漢室に尽忠し、相継いで世を去りました。臣の
劉聰は涙を流して言う。
「卿が孝を全うせんと欲するならば、朕はそれを許すよりあるまい。
言われて関山が応える前に関河が進み出た。
「臣が父の関防、伯父の関謹は相継いで世を去り、臣は関中への出征に従って喪に服しておりません。これは終生の悔いであり、今になっても忘れられません。また、臣の母は父を悼んで病に罹り、飲食が進まずやせ衰えております。願わくば、朝廷を退いて母の傍らに侍り、あわせて喪を終えられれば、これに過ぎる御恩はございません」
劉聰が何か言おうとする前に、関心も進み出て言う。
「臣の兄の関山は齢六十を超えて筋骨はすでに衰え、二人の
劉聰は嘆じて言う。
「関氏の一族は没した者たちであっても尊ばねばならぬ。朕が卿らの辞職を許さぬわけにはいくまい」
そう言うと、それぞれに五十斤(約30kg)の黄金を下賜した。黄臣を顧みて言う。
「卿ら兄弟もともに過ごした半生の苦労を思わず、職を捨てて朕の父子を朝廷に置き去りにするのか」
「臣は蜀より逃れて一命を取りとめ、漢室に尽忠して今日に至りました。栄華はすでに極まっており、目も耳も衰える老齢になって何事をなせましょうや。陛下が臣の数代に渡る忠義と半生の艱難を思われるならば、田宅を賜って先朝が老臣を養った恩と勲旧の者を優待した意に倣われるのが願わしく、陛下の御恩も明らかとなりましょう。老朽の身を朝廷に置いて勤労させたところでお役には立ちますまい」
黄臣の兄弟は辞職を許した関河、関山、関心、姜發らよりも年長であり、劉聰は田宅を授けて閑職に充てることを許した。
※
翌日、劉聰は
黄臣と
平陽の父老たちは見送って言う。
「漢主は奸邪の者たちの言葉を聞いて忠義の者の言葉を
その言葉が劉聰の耳に入ることはなかった。
※
この時、
人から三家の者たちが職を辞したと聞き及び、勉めて甥の
仕える者の一人が先の父老の言を聞いて伝え、聞いた呼延顥は呼延勝に言う。
「吾は引き籠っておったために三家の兄弟が職を辞したとは知らず、ともに職を辞する機を逸した。故旧の者たちが去ったにも関わらず、吾のみが栄禄を貪って世の不評を買えようか」
「仰るとおりです。今や王沈と靳準が権勢を
呼延顥と呼延勝はともに辞表を認め、その夜は
「お前の叔父は出兵にあたって吾が忠言を納れず、戦に敗れれば
▼「陰司」は冥府で生前の罪を測る神と解するのがよい。
呼延勝は夢から醒めても汗が止まらず、傍らの呼延顥は突然に立ち上がると叫んだ。
「吾は魯徽である。忠言を進めたにも関わらず、どうしてお前は吾を殺したのか。ともに
そう言うと、呼延勝の腕を掴んで離さない。
「叔父上、お気を確かに」
呼延勝がそう言うと、呼延顥は手を放したものの仰向けに倒れ伏す。それより
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