第5話 手遅れ? 否、それを決めるのはまだ早い

 25歳になった獅子王・大和は再びニートに戻っていた。

 2度目の警察沙汰ということで両親に連絡がいき、実家に連れ戻された次第である。

 荒療治として、ひとり暮らしさせたのを失敗と判断したのだろう。

 社会に迷惑をかけるくらいならと、両親は大和のニート生活を再び保障することになった。


「……はぁ」


 だが、念願のニート生活を手に入れたのに大和は退屈していた。僅かとはいえ、他者とのコミュニケーションの影響であろう。

 以前にも増して、ネット上で誰かに絡むようになった。相手の顔も年齢も性別もわからないのに――誰かの反応を欲している。


「……バイトくらいするか」


 そうして、大和はフリーターになった。

 バイトはあまり楽しくはないけども、辞めるのが面倒になってずるずると続いてしまっている。


 流されやすい性格が功を成したようだった。


 大和は毎日を惰性で生きながらも、僅かな楽しさを見出せるようになっていた。

 暑い日の冷たい炭酸にアイスクリーム、寒い日の温かいポタージュにおでん。ぼったくりと思いながらも、コンビニのジャンクフードはいい慰めだった。


 一方で今までにはないストレスもある。バイトを止める学生たちを見ていると、なんともいえない焦りが沸き上がるのだ。


 それは引き籠っていた時にはなかった時間の流れ。


 振り返って、思い出すのは中学時代とあの公園。

 もし不登校にならなかったら、もしアルセーヌの誘いを受けていたら……。


「……今更か」


 それでも、僅かな期待を抱いて大和は毎日あの公園に足を運んでいた。

 以前と違い、時間はばらばらだけど暇を見つけてはブランコに揺られる。


 ストレスの影響か、大和の見た目もだいぶ衰えが見えてきた。


 3人でいたあれから3年。もう27歳になる。結婚も就職も諦めるのは早いと言われるけど、なんとなく無理だと悟っていた。


 自分の分際を弁えて――いや、本当の意味で分際を弁えるのが遅かったのだ。


 自分は敷かれたレールを走るべき人間だった。

 それがどれだけ辛くとも、しがみ付くべきだった。


 昼間の公園で一人、ブランコに揺られる男はどう見ても不審者かもしれない。

 だけど、今の大和の顔を見て通報する人はきっといないだろう。


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愚かさのサンジョウ 安芸空希 @aki-yuu

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