特別幕 年の瀬

 とある年の瀬のこと……。


 四人の女子高生がグループ通話をしながらあれこれ予定を立てたり思い出話を展開したりしている。

「あぁ、今年はひめちゃんちムリかぁ」

 えりが残念そうにそういうと、陽愛が画面の向こうで申し訳なさそうに手を合わせた。

「ごめんね、今年はお父さんの仕事関係で、ホテルに泊まることになって……。だから、家族みんな家にいないの」

「ひめ、謝ることないよ。私たちだって、これまでご厚意に甘えてたわけだし」

 瀬里の言葉に由依もうなずいた。

「そうそう。だから今年は、久々に自分たちの家で過ごす年越しになるわけだ」

「だねぇ。にしても、ホテルで年越しってすごいね。贅沢」

「そうなんだけどぉ。なんだか、初めてだし、どんな雰囲気なのかとか、今から緊張するよ」

「ねぇねぇ、ホテルで年越しって、何着ていくの? ドレス? 着物?」

「ううん、お父さんからは、派手じゃない私服か、あるいは制服でもいいって聞いてる」

「へぇー、そうなの?」

「テレビで見るパーティのイメージが強いから、なんか、そういう服装なんじゃないかって思っちゃったね」

 四人は笑いあうと、話は年末に見るテレビ番組の話になった。

「確かにそうだね」

「あ、じゃあ陽愛。陽愛が大好きなアーティストが出場する紅白、生で見れないんじゃない?」

「そうなの! 聞いて、聞いて。今年、二回目の出場になるんだけど、今回はパフォーマンスがさらにバージョンアップするって言ってたの! しかもしかも、私が特に好きな楽曲が披露されるって言ってて! もう、オンタイムで見るのほんとに楽しみにしてたのに、本当にガッカリ」

「わかる、ほんとショックだよね」

「ホテルで年越しっていうのもなかなか体験できないことだから、楽しんでほしいとは思うけど。見れないのはやだね」

「だからね、私の分まで、みんなには見てほしい」

「え、録画して見ないの?」

 見るのは見るけど、と続けながら瀬里が陽愛に尋ねると、彼女はそういう機能もあった、と言わんばかりの、ハッとした顔をした。

「いや、そのこと頭になかったんかい」

 由依たちが笑いながら突っ込むと、陽愛は顔を両手で覆って隠した。

「やっぱり、みんなはみんなが好きなもの見て」

「いや、陽愛の推してるアーティストも見るよ」

 恥ずかしそうにしている陽愛に、由依が笑いかける。そんな由依に、えりが質問する。

「由依は今年も『子ど使』メイン?」

「んー、かな? でも、最近他のチャンネルでも面白いのやってたりするし、その時面白そうなのやってたらそっち見るかな。えりは?」

「私はネットの生配信見てるかな。ほら、去年ひめちゃんちで見てたアレ」

「あー、見てたね! 声優さんとか出てたもんね」

「うん、そうなの。今年も出るらしいから見るの。瀬里ちゃんは?」

「私はジョニーズと紅白のはしごだなぁ」

「やっぱり変わらないよね」

「変わんないね」

 好きだもんねぇ、などと言いながら四人が笑っていると、誰かの後方から遠巻きに声がした。

「あ、ごめん。そろそろご飯できるって」

 それは、えりを呼ぶ母の声だった。

「あ、なるほど! いいよ、いってらっしゃい」

「またメッセージ送るよ」

「うん! あ、初詣はみんなでいけるんだよね?」

 えりが慌てて立ち上がりながらそう訊くと、他の三人からめいめい、いけるよ、という同意の声が聞かれた。えりはそれに、「オッケー」と返すと、じゃあねと言いながら通話を終了した。


―――――――――――――――


 一方、こちらも年の瀬が迫っていた。


「ルーン。今年もこの時期になったよ」

「そうですね。もう、年末ですか……」

「いやぁ、いよいよ愉快だねぇ」

 とても嬉しそうに頬を緩ませるヒヴァナに対し、ルーンはまっすぐに目を見て口を開いた。

「……お酒がいつもより沢山飲めるからですか?」

「そうだよ?」

 ルーンの質問に即答するヒヴァナを、彼女は「矢張りですか」と、真剣なまなざしで見つめた。

「そんなに美味しいんですか。果実酒……葡萄酒と言いましたか」

「あぁ、とっても美味だよ? ワイン、ルーンも飲むかい?」

「あ――」

「やめとけ」

 是非、と答えようとしてルーンは言葉をのんだ。と、言うより遮られたので黙ったという方が正しい。ちょうど後ろからヴァイスが現れ、話に割って入ってきたからだ。

「こらこら、まだ飲める歳じゃあないだろう。お前よりも若い、健康な少女捕まえて酒の道に誘うなよ」

「いいじゃないか。飲んじゃいけない、飲ませちゃいけないって法があるわけでもないんだし」

「だからって……でも、だいたい18から20くらいの年齢を超えた者が飲み始めてるし、周りもそれくらいの子に飲ませてるじゃねぇか」

 ヴァイスの言葉に、つまんなそうな表情をするヒヴァナ。そんなヒヴァナに、男はもう一つ話をはじめた。

「それに、今年はお前も飲めないぞ」

「おや、わたしもかい?」

 ヴァイスの言葉にルーンも疑問を感じて首をかしげた。

「ヒヴァナさんも飲めない? どうしてですか?」

「それがだな。毎年、ターミナル港で花火を打ち上げてるのは知ってるよな?」

「あぁ。2日間だけ、付近の航行を制限して、盛大に催してるアレだろ? それがどうしたんだい?」

「なんと今年は、その直前に近隣諸国のお偉いさん方を乗せた船が入港してくるらしいんだ。だから、俺たちはそれに対してお出迎えしつつ、警戒しなきゃならない」

「な、なんだって」

「今年になって、珍しいですね」

「まったく、関係が危ういからって、急にご機嫌取りかよ……ってなワケで、ヒヴァナ、残念だったな。酒は、そのお偉いさんたちが去ってからだから、しばらくお預けだ」

 ヴァイスが意地悪そうに笑って見せると、ヒヴァナはずんと重い空気を背負って、恨むようなまなざしを彼に向けた。

「盛大に、比類なく不愉快だよ」

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