第六幕 ストレス解消法

 ルーンは悩んでいた……。


「ストレス解消法……?」

「はい。最近、どれだけ殺陣や体術の鍛錬をしても、心の靄が取りきれない時がありまして。それで、ヒヴァナさんに相談をしに来ました」

「なるほどねぇ……」

 ルーンは、ヒヴァナが仮眠室にいるだろうと踏み、こうして押しかけるように訪ねた。仮眠室と言っても、その部屋は個々に与えられた自室、居住スペースと言って過言ではなく、むしろある程度の頻度で、それぞれ気心の知れた仲間同士で部屋を行き来する、というのも普通にあることなので、それほど不思議な光景ではない。

「そうだねぇ。あたしの場合、1に鍛錬、2に鍛錬。3、4も鍛錬、5も鍛錬。と言うほど、鍛練漬けの人間だからねぇ。あたしじゃ、参考にならないね。すまない、ルーン」

 とても申し訳なさそうにルーンを見つめるヒヴァナ。実直なルーンは真に受けて頭を下げた。

「流石です、ヒヴァナさん。自分のこの惰弱さに、恥ずかしながら、今思い知らされました」

「そんな、ルーン。頭を上げるんだ。むしろ良かったよ、ルーンがあたしのような鍛錬バカになってなくて」

 ルーンが少しキョトンとした表情をしたが、ヒヴァナは気にせず話を続ける。

「それに、今ルーンは正しいことをしている。人は悩む生き物だ。悩んでいいんだよ。しかもこうして他者からアドバイスを聞き、自分の中で咀嚼して、考え、答えを求める。とても素晴らしい、そして正しいことじゃないか。偉いよ、ルーン」

「ヒヴァナさん……!」

「そうだ、ヴァイスにも尋ねてみるといい。きっといいアドヴァイスをくれるよ。今なら恐らく、中庭にいるだろうねぇ」

 礼を言い、深々とお辞儀をして部屋を出ていくルーンを見ながら、ヒヴァナは心の中で「悪かったかな」と思った。

(ちょっと弄りすぎたかねぇ。そもそもあたしゃ、鍛錬のために鍛錬をしに行ってるとは言い難いからねぇ。そんなことより酒の方が嬉しいしねぇ……)


 中庭に来たルーンは、早速ヴァイスを見つけた。

「赫々云々……という理由で来ました」

「ふーん、ストレス解消法、なぁ。(ヒヴァナのやつ、適当なこと言いやがって。何がいいアドヴァイスだ。て言うか、あいつ鍛錬大っ嫌いだろ)」

「ところで、ヴァイスさんは何故ここに?」

「ん? あぁ、ここはな空気が良いんだ。それこそ、この中庭に出て深呼吸すれば、ストレスだって、いくらかは晴れるってもんだ。(と言っても、俺はここに昼寝しに来たわけだが、まぁ、大きく間違ってはないよな。にしても、なんでヒヴァナにばれたんだ?)」

「そうですか。では、時折中庭に出てみます。それで、何か変わるかもしれません」

「まぁ、いいんじゃないか? ……ところで、ヒヴァナは自分のことを、鍛練バカだと言ったんだよな?」

「はい……?」

「この際、ハッキリ言っておくぞ。あいつ、そんなこと言ってるけど実際は鍛練なんか大っ嫌いだからな」

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