かわうその恩返し

水木レナ

いたずらかわうその恩返し

 昔、烏山の那珂川っちゅう、大きな川のところでな。

 まあ、そこはかわうその棲み処だった。

 かわうそは漁師が来ると、いたずら仕掛けて、魚を逃がしちまう。


 かわうそのごっそうはかに、エビ、魚。

 漁師が釣竿下げた先から、いたずらしてな。

 かわうそがみいんな追っ払っちまうだ。


 興野きょうのの腕利きの漁師、仙造ってじいさんもな、たびたび邪魔されて漁がでぎねがった。

 かわうそは無邪気に言うだ。

「じいさん、かにくれ。じいさん、かにおくれよ」


 だがな、仙造じいさんは、いつも笑っていただ。

「かわうそが楽しそうで、腹いっぺえ食ったなら、いいべかなあ」

 って。


 そんでな、ある日のこと……。

 でっかいかわうそが、身もだえして爺さんの漁舟にまとわりついてきた。

 どうしたべかと思って見ると、口んとこにでっかい釣り針が刺さってるでねえか。


 じいさんは、

「こりゃいけねえ」

 ってかわうその首をひっつかんで舟にあげた。


 そして、針を抜いて傷口をきれいに洗ってやったと。

 かわうそはうれしそうに、尻尾をうねらせながら川底に潜っていった。

 それからというもの、じいさんの舟がくると、かわうそが集まってきてな。


 あのでっかいかわうその仲間が、舟にむかって魚を追い立ててくれるのだと。

 おかげで、釣竿下ろしたそばから魚が釣れる。

 じいさんは国一番の魚とり名人になっただ。


 そんなある日、殿様が噂の仙造じいさんの漁を見物に河原へきた。

 とれたそばから魚を焼いてあげっと、殿様は喜ぶよろこぶ。

 おかげで、仙造じいさんは殿様の御用漁師ごようりょうしになっただ。


 それからも、仙造じいさんはかわうそに助けられて、毎日魚を獲って、死ぬまで豊かに暮らしたと。



 了




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