第40話勇者に伝説のアイテムはつきもの!

 街に近づくとセレネーはホウキの高度を落とし、街中を見下ろしながらゆっくりと飛んでいく。

 並ぶ建物の中、かけられている看板を確認し、宿屋と思しきベッドの看板を見つけたところでセレネーは一旦そこから少し離れた公園らしき場所へと行き、開けた場所に降り立った。


「さてと、まずは宿に行って部屋を取らないとね。ちょっと休んでから解呪してくれる乙女を探さないと――」


 セレネーがホウキから降りて歩き出そうとした時、


「今日こそは逃がさないからな、セレネー!」


 背後からイクスの怒鳴り声が響き、思わずセレネーの肩と心臓が跳ねる。


「びっっっくりしたぁ……ちょっと脅かさないでよイクス! ってか、どうしてまたいるのよ?! アタシ、アンタをブッ飛ばした方向と逆に飛んで移動したんだけど……」


「フッフッフッ、これのおかげだ」


 不敵な笑みを浮かべながらイクスは懐から金色に輝く何かを取り出す。

 無骨な指に摘ままれてプラプラと揺れるのは、小さな鳥をかたどった金属製のお守り――太陽の光を受け、角度によっては虹色の光を弾き、神々しさを漂わせていた。


「な、何よ、それは?」


「これはなあ、神鳥のアミュレット……たまたま依頼を受けて向かった洞窟で見つけたお宝だ。これがあれば俺が念を込めれば、望んだ場所へ行くことができる。もう俺からは逃げられないと思え」


 神鳥のアミュレット。その名はセレネーも耳にしたことがあった。

 世界のどこかにあるとされる七つの神具のひとつ。数多の冒険者が探してやまない伝説のアイテム――勇者として活動するイクスはこうしたお宝に出会いやすく、実力の割には所持する武具や道具は豪華だった。


(厄介な物を手に入れたわね……あれ、一応魔力を使って能力を発動させる物だけど、一般の人でもある程度使えちゃうみたいね。みんな大なり小なり魔力があるから……微小の魔力で望んだ場所に行けるってズルすぎじゃない! アタシは膨大な魔力を使わないとできないのに……不公平だわ)


 納得できないけれど、あれでも勇者。腐っても勇者。

 ただの冒険者なら手にできないものを、手にしてしまえる運というか縁みたいなものを持っているから厄介だった。


 セレネーは頬を引きつらせながら荷袋から魔法の杖を取り出し、ヒュンッと先端をしならせる。


「王子……しばらくバタバタしちゃうから、フードの中に隠れてて」


「イクスさんと戦うのですか? あの、私が間に入って説得しますから、少し待って頂けませんか――」


「無理よ。もうアイツが戦闘態勢取ってるもの!」


 小声でカエルとやり取りしている最中、「覚悟しろ!」と言いながらイクスが剣を抜いて迫ってくる。


 軽く息を呑んで腹を括ると、セレネーは魔法の杖の先に光の粒をいくつも漂わせ、イクスに向かって弾き飛ばした。


「さあ吹っ飛びなさいな、イクス!」


 光がイクスに触れた瞬間、「はぅわっ!」とどこか抜けた声を出しながら空へと跳ね上がる。その姿はみるみる小さくなり、遠くの方へと見えなくなった。が、


「まだまだぁっ!」


 すぐにセレネーの目の前に現れ、同じように地を蹴って真っすぐに襲い掛かってくる。


 はぁぁぁ……とセレネーは盛大なため息を吐くしかなかった。


「こうなったら力尽きるまで相手してやるわ。あっちが消費魔力が一に対して、こっちは十くらいですっごい不平等だけど……ほら、飛びなさいよ」


 魔法の杖を振って光の粒をイスクに取り付ければ、あっという間に大きくその場からイクスは飛び離れて姿を消す。しかしまた現れ、セレネーに挑み、飛ばされ、挑み――。


 その繰り返しをセレネーの肩越しにカエルは見つめていた。


「……イクスさん、もう十数回は飛ばされていますが体は大丈夫なのでしょうか? いくら大ケガをしないように手を打ってあるとは言っても、こうも繰り返せば体力の消耗が……」


 イクスが飛ばされている姿を目視しながらカエルが尋ねる。

 その心配に「あー大丈夫、大丈夫」と、雑な返事をセレネーは漏らす。


「アイツの装備はどれも伝説級の代物ばかりだから、体への負担はほぼ無しみたいなものよ。心はめげるかもしれないけど……って、あ、また来た。ほら、ふっ飛べー」


 もう面倒になってきたセレネーは、イクスが現れた瞬間に光の粒を放ってその場から飛ばしてしまう。

 姿が消えてから、ため息と一緒にセレネーは肩を落とす。


「……これでめげるくらいなら、何年もアタシを追い続けるなんて真似、できないでしょうしね……まったく面倒ったらありゃしないわ」


 魔力を使えば使うほどセレネーの体が気だるくなり、疲れが背中へ勝手に乗りかかってくる。立っていることすらしんどく思えていても、すぐに姿を現わして挑みかかってくるイクスのせいで座って休むなど無理だった。




 数え切れないほど吹っ飛ばしたイクスの姿が現れなくなったのは、もう間もなく夕日が空の際へ完全に沈む間際だった。

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