最終話 星流夜

「え、どういうこと?」

 さらに聞き出そうとする。


 が、テーブルに問題の『星流夜』が置かれた。

 運ばれてきたのは、カラフルなタピオカである。


「とりあえず、食べよ。食べてから話すから」

「分かった。じゃあ、い、いただきます」


 コップの中身をストローで吸い上げた。液体の方は、お水だろうか、透明だ。

「野菜ジュースだ、これ」

 透明なコーヒーやお茶は聞いたことがあるけれど、野菜ジュースも透明にできるんだな。謎の技術だ。


「まあ、タピオカなんてオシャレな名前ですが、芋で作るデンプンの塊ですからね。コンニャクみたいなものですから」

 店主はそう解説した。

 

 タピオカの中身も、野菜の素材が使われている。でも、野菜だけじゃない。フルーツの味が飛び込んできた。

「うまっ。止まらない」

 一気に飲み干さん勢いだ。


「味見だけで。全部飲み切らないでください。本番は、これからです」


 言ってから、店主は指をパチンと鳴らした。


 他の客も、何事か、と状況を見守っている。


 テーブルの四隅が、わずかに青い光を放つ。

 

「タピオカが、光ってる!」

 青い光がタピオカを照らすと、中身が淡い光を灯した。


 それだけじゃない。タピオカに光が反射し、天井にプラネタリウムができあがった。


「そのままさぁ、タピオカを吸い込んでみて、せーの」


 ヒカリの合図で、ぼくもタピオカを吸う。


「ん!?」

 驚きのあまり、ぼくはタピオカを吹き出しそうになった。


 なんと、天井に流れ星が降り注いだではないか。


 これは、やられた。

 ぼくのアイデアを超える、サプライズだ。

 こんな発想、ぼくには出ないや。


 ぼくたち以外の客からも、感心したような声が上がる。


 店内が再び、明るくなった。


「実はさ、このお店のこと、知ってたの」

 

 SNS映えすると、女子の間で話題になっていたという。


「あ、よく考えたら!」


 ぼくは、店の前でのやりとりを思い出す。


――星流夜しょうりゅうやだって


 ヒカルは確かに、「しょうりゅうや」と読んだ。

 ぼくは教えていないのに。

 星という漢字を「しょう」と読むなんて、あまり知られていない。

 けれど、ヒカルはこの店名を言い当てた。

 

 彼女は自前のHPを持っている。

 女子の話題に事欠かないわけだ。

 この店だって、注目されていてもおかしくなかった。


「けど、予約できなくて。そしたら、店長が気を回してくれて」


 どうも店主は、ヒカリの事情を詳しく聞いて、ぼくと交際していることを察したらしい。「おそらく、男性の方が予約しているだろうから、その方に内緒で作ってあげる」と。


「そうだったのかー。やられたなー。恐れ入りました」

 ぼくは、ヒカリの気遣いにあてられ、すっかり舞い上がった。


「でもさ、流夜が用意してくれるメニューまでは聞いてないから。だって、その方が楽しいじゃん」


 ヒカリの無邪気な笑顔に、ぼくは嬉しくて泣きそうになる。

 

「わたしさ、ブログサイト立ち上げて、お仕事に活用するって言ったでしょ。でも全然お金なんて稼げてなくて」


 急にヒカルが涙声になる。


「周りからもさ、『やめときな』とか、『できっこないよ』とか言われて。でも、流夜だけは信じてくれた。好きにさせてくれた。辛かったら、いつでも頼っていいからって」


「うん。うん」

 ぼくは、最後まで耳を傾けた。


「ありがとう。また二人で来ようね」

「はい。よろしくお願いします」


 ぼくたちは、テーブルの上で手を握り合う。


「今度はわたしが払うから。うんと奢ってあげる」

「期待してます」


 顔を向き合いながら、ぼくたちは笑った。


「ごちそうさまでした。無茶な用件だったのに、ありがとうございます」



 二人手を握り合ったままで、店を後にする。


「またのご来店を、お待ちしております」


(完)

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星流夜 ~しょうりゅうや~ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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