第6話 モンスターへ乾杯!


 いよいよ、メインディッシュである。

 

「これは『モンスターに乾杯!』です」


 出てきたのは、ローストビーフと、赤ワインだ。

 それと、酒のおちょことは違う、ピンク色のグラスである。

 不思議なのは、既に中身が注がれているてんだ。

 

「このグラスは?」

 色もそうだが、妙に薄い。

 また、ワインと思っていた液体は、なにかドロドロとしている。

 

「乾杯をしていただければ、分かります」

 店主はニッと白い歯を見せた。

「必ず、料理の上で、グラスを鳴らしてください」

 そう忠告される。

 何か、仕掛けがあるのだろう。

 

「じゃあ、何に乾杯する?」

「モンスターへ、だね。やっぱり」


 十月末、会社に言いがかりを付けてきたモンスタークレーマーを、ヒカリは見事に撃退した。


 クレーマーも誤解だと分かってくれて、今では我が社のよき理解者となってくれている。


 でも、それはヒカリが職場を去った後の話であって。


 これは、そんな彼女を元気づけるための料理だ。

 

「モンスターへ乾杯!」


 乾杯をすると、なんとグラスがローストビーフの上で粉々に。

 

「あーあ」

 ヒカリがガッカリした顔になる。


「いえ、これでいいのです」と店主。

「どういう意味です?」

「実は、このグラスは岩塩です。中の液体ですが、赤ワインをベースにしたソースです。アルコールを飛ばした状態でお出ししました」

 

 すると、ローストビーフの上に、岩塩とソースが振りまかれた、と。


 本物の赤ワインとグラスが用意され、ローストビーフが切り分けられる。

「じゃあ、今度こそ乾杯」


 ワインと一緒に、ローストビーフをいただく。


 味が濃い。

 ソースの味も申し分ないが、肉にもしっかりと下味が付けられている。

 岩塩も合わさり、味が複雑に絡み合って、言語による解説を拒絶している。


 ぼくたちは言葉を失い、あっというまに平らげてしまった。モンスターのように。

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