第5話 さいわいなことり

 サムギョプサルといえど、一枚きりではやはり物足りない。

 

「こちら、『さいわいなことり』です


 用意されたのは、細切りの北京ダックと一緒に食べる、棒々鶏だ。

 棒々鶏の鶏肉も、北京ダックの内側を使っている。

 使い切っていないお肉も、ちゃんと他のお客さんのメニューで出しているとか。


 ケンカしてしばらくした後、ヒカリが仕事を休んだ。

 単なる風邪だったのだが、ぼくは心配で毎日看病に行った。


「いまだ覚えてるよ。『風邪が治ったら何食べたい?』って聞いたら、すぐさま『中華!』って」

「うん。あのときは、ありがと。流夜。ホント心細かったから、来てくれて助かった」

 

 で、ぼくたちは、ヒカリの快気祝いと仲直りを兼ねて、高級中華を食べに行ったのである。

 そのときのメニューが、この「鶏づくし」だった。今日は頼んでいないけど、当時は「チューリップ」という骨付き唐揚げもバクバク食べたっけ。


「ねえ、『さいわいなことり』ってどういう意味?」

「ぼくのことさ」


 ぼくの名字は「小鳥遊たかなし」。「さいわいなことり」だろ?


「ヒカリに会えたぼくは、さいわいだよ」


 説明をすると、ヒカリは少し照れたような顔になって、お酒を飲んでごまかした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る