アリュメト戦記 序章 ガランサス

賢者アルトリート

第1話 ガランサス

昔話だ


そんなに昔ではないが


私は当時ゾモアという国の貴族に奉仕をしていた

奉仕といっても様々


君が今思い浮かべたこと

もしくは思いつきもしないような事


苦難の時ではあったが些細なことだ

長い人生において

少し雨に打たれたような


それだけだ


物心つく頃から14の年まで使われていたが

当時は戦乱の時

その貴族らの土地もすぐに焼け落ちた


そこへ訪れたのは騎士王国アリュメトの軍だった


貴族たちは祖国を燃やしたアリュメト軍に生を嘆願したが

あえなく彼らも燃やされてしまった


残った奴隷達もあの火柱の一部になると皆覚悟をしていた


私は違った


ただ見とれていた


大きな火柱となる人の姿

声を出すことも禁じられていた奴隷が

大きな声をあげ火柱になっていく様子がとても艶やかだった


私も燃やされるのだろう


恐怖が私の生皮を剥ぎ全身を氷につけているような感覚になったが

それも火を纏えばちょうど良くなるかと考えたら


笑えて来た


笑うのは初めてじゃないが

とにかく可笑しかった


そんな気狂いの奴隷を兵士達が許すはずもなく

行儀よく火炙りを待っていた奴隷の行列を飛ばし

私の番になった


先ほどより火柱は近くなり

私は今にも心臓が止まりそうだった


その時初めて気付いたのだが


火をつけ

我々を燃やしていたのは

一介の兵士ではなく


豪華な衣類を纏った少年だった


その時は分からなかったが


彼はアリュメト国の王子であり

アリュメト国では

罪人や敵国の裁きを行うのは高潔な者に限るという

習わしだった


その軍団の指揮をしていたのはその王子ではないが

彼はその日が誕生日であり

15の成人になるにあたり父であるアリュメト王に

処刑を自ら行うよう命じられていた


彼の顔はとても儚げで

奴隷を焼き殺す事に楽しみを見出す

狂人ではなかった


彼は私の顔を覗いた

すると話しかけてきた


さきほど笑っていたな

死ぬのが怖くないのかと


彼はアリュメト語で話した

糸のようにか細い声で

言葉は分からなかったが

何を言っているのかは理解できた

私は答えた


凍えるような恐怖を感じているが

火に焼かれればちょうどよくなるかとおもったら

笑えてきたのだと答えた


問いをしてきた王子は変わらず

儚い顔だった


彼も私の言葉は分からないので

無意味な問答であった


しかし通じ合っていたので奇妙な問答であった


その奇妙さに気づいていたのは

王子のそばにいた側近のような者

年は50そこら

彼もまた権力者のような出で立ちだが

少年よりは控えめな衣服であったので

王ではないという事だけ理解した

彼も私に尋ねてきた


アリュメトの言葉がわかるのかと

ゾモアの言葉で


どうやら聡明な人間のようだ

今度はちゃんと理解できたので私は首を横に振った

わからないという意志表示


側近は口角をすこし上げ

私が先ほど王子に

伝えた言葉を

通訳し王子に伝えた


王子も笑っていた


そんな馬鹿なことを考えていたのかと

火でちょうどよくなるわけがないだろうと


私に言った

側近の通訳を通して


その時気付いたのだが

私はよく笑う人間のようだ

王子の微笑みに私もつられて笑った


王子はまた側近に何かを伝え

側近は口角を上げていた


ついているな

王子はお前の名が気になるようだ

何という名だ


私に名前はなかった

しかし

名前を応えたかった


少し考え

屋敷で密かに育てていた花の名を伝えた


ガランサスです

私の名前はガランサス


王子はまた私に微笑んだ


ガランサスか

私の名はアルメンドロスだ


相変わらず言葉の意味は理解できなかったが

アルメンドロスが名前とは気づいた


どうやら私はアルメンドロスの気まぐれで死なぬようだ

そんな雰囲気を感じていた

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