第13話

あれから、1週間が経過しました。


無事に家賃は回収でき、アパートの取り潰しは免れましたが、また次の月には同じピンチを迎えることになります。


先週は色々ありました。


彼らは、まだ夢見会館に住みたいと言ってくれるでしょうか。


そんな事を考えつつ、私はある場所を訪れました。




「ここですか……」




 都内の総合病院。


その2019号室に玲央さんはいます。


扉の横の名札を確認して、ノックをして中に入ると、既に芋洗さん、トーマスさんが見舞いに来ていました。




「あっ、山猫さんだべ」




 芋洗さんが私に気付き、手招きしてきます。


ベッドには、玲央さん。


体を半分起こして、こちらに向き直ります。




「容態はいかがですか?」




「ケガの方は大丈夫す。 心配させてすんません」




「全く…… 何であんな無茶をしたんですか」




 玲央さんは顔を伏せて、あの時は、と語り始めました。




「夢が潰えて、どーにでもなれ、みたいな気持ちもあったんじゃねーかな。 だから、あんなことが出来たんだと思う」




 それでも、投げやりは良くありません。




「嫌な事があっても、カッとなってはダメですよ」




「……はい」




 しばらく沈黙した後、それを芋洗さんが破りました。




「山猫さん、さっきみんなで話してたんだべ。 山猫さんにはわりーけど、私ら、アパートさ出てこうと思うんだわ」




 やはり、そう来ましたか。


みなさん、故郷があります。


夢を追う気力が萎えれば、そうなるだろうと予感はしていましたが……




「……」




 さて、どうやって引き取めましょうか。


私は、こめかみを指でグリグリ押して、一休さんばりに知恵を絞ります。


そして、ある質問を投げかけました。




「みなさんは、今まで住んでいた町を、どう思いますか?」




「町、デスカ。 ワタシハ、好キデスヨ」




「私も」




「俺も」




 出来れば、出て行きたくない。


そう思っているようですね。


それなら……




「この町の発展に、力を注いでみませんか?」




 私は、自分の考えをみんなに伝えました。
















 病室を後にすると、腕を組んで壁にもたれた考古学者を見つけました。




「うまくやりよったな」




「……あなたはストーカーですか?」




 私の問を無視し、考古学者は話し始めます。




「この先、町にデパートやショッピングモールがどんどん進出してくる。 生活は便利になるけど、どの町も個性が無くて、おもんなくなる。 お前は、夢見会館のやつらにもっと町を盛り上げるよう言って、この町から出て行かないよう仕向けたわけや」




「彼らにはそういうことが向いていると、思っただけです」




 自分の住んでいる町には、どんな人にも愛着があるはずです。


他にやりたい事がないのなら、町の為に働くのも、面白いかも知れません。


私は、病室を後にしました。














 2019年。


玲央さんは現在、行列のできるラーメン屋を。


芋洗さんは、青森から取り寄せた野菜を売るスーパーを。


トーマスさんは英会話スクールを開きました。


夢見会館は老朽化により取り潰しになってしまいましたが、現在も私は、彼らの新しい城の管理人として、現役を貫いております。








おわり




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