大都会は今日も晴れ

@tsurimachi

第1話 オカヤマ?

「オカヤマ?なんだいそりゃあ?」

「そいつは伝説の街のことじゃあないのかい?どこかで聞いたことがある。その街じゃあ雨が振らないって話だ。」

「雨が振らない?そいつは傑作だ!そんな街があるなら俺が行きたいね。見つけたら俺にも教えてくれよな嬢ちゃん」


「ありがと」


街の中心部、人通りの多い目抜き通りで少女は通りすがる人に話しかけては、同様の返答を受けていた。もう慣れてしまっているのか、少女が落ち込むことはないようだ。


「おう、役に立てなくてすまんな。今日の宿はもう取ったか?予報だと今日の雨は鉄球だ、ちゃんとした宿の方がいい。」


少女は明らかに旅人だという出で立ちだった。体格に似合わない大きなリュックには、鍋などの生活用品がぶら下がっていた。


「もう取ってるよありがとう。」

「そいつはなんだ?人形か?」


男の指差す先には、少女のリュックの上に張り付いている、鳥の人形らしきものがあった。


「お目が高いね、おっちゃん。これはキジっていう鳥さ。昔はこの国にもたくさんいたらしいよ。」

「鳥ねぇ、空を飛ぶって話だろ?ほんとにいたのかねそんなのが、俺にはおとぎ話にしか思えんよ。」

「そうだね。」


少女は。男たちを後にすると、商店街を見て回る。何かを探しているようだが、見つけられない様子。


「やっぱここいらにパーツは無いよ、さっきも聞いたけど、ここらへんは規制が厳しいらしくって、旧時代の遺物なんて持ってたら速攻逮捕らしいよ」


少女は独り言を言っているように見えるが、少女の耳には、声が聞こえ得ていた。


「仕方がない、あれは補助パーツであって、必要なものではない。それよりもここから先の情報収集が先だろう。」

「って言ってもさー、ここから先は海なんだろ?どうやって渡るのさ。」

「旧時代の洞窟があるはずだ、そこを通る。」

「洞窟?海の下に?何言ってんのよ。やっぱパーツ交換する?」

「必要ない。」

「とりあえず、周辺の地図を購入するべきだ。」

「はーい。」

「ユミィ、あまり大声で話さないほうがいい。ここで私のことが露呈すると厄介だ。そもそもなぜ私を外に出している。カバンの中にしまえといつも言っているだろう。」

「いざという時使えないじゃん。」


ユミィが歩く通りには、数十メートルはあったであろう建物の残骸が、いくばくかの面影を残して積み上がっていた。そのそばで、鋼鉄でできた屋台には食料や生活用品が並んでいた。ユミィは本などが並んでいる屋台の前に来ていた。


「おばちゃん、ここらへんの地図おいてない?」

「おや、かわいい旅人さんだねー、いくつだい?」

「16よ。もっと小さいと思ったでしょ?」


ユミィは身長こそ150cmあるが、ショートカットに幼い顔立ちのおかげでもっと若く見える。


「12歳ぐらいかと思ったわ。私にも同じぐらいの子供が居てね。そろそろここに来るはずだわ。地図だったわね、どっちに行きたいんだい?」

「南よ。」

「南?南って海しかありゃあしないじゃないか。」

「海までの地図でいいわ、できればその向こうのも欲しいけど。」

「その向こうの地図なんてあるわけないよ、そんなも持ってたらお縄になっちまう。」

「そうらしいね。」

「あんたそんなナリで鬼だったりするのかい?」

「そんなこと無いよ。鬼がこんなところをうろつけるわけないじゃん。」

「そりゃあそうだ。はいよ、南の地図だ。200コイビイでいいよ。」

「ありがとう。」

「あ、ちょうど娘が帰ってきたみたいだ。あれが娘だよ。」


おばちゃんの指差す方向には、見た目はユミィと同じぐらいの少女がこちらに向かって歩いていた。


「緊急降雨警報です。40秒後にじゃがいもと人参」


突然街全体に警報が鳴り響く。それを聞いた住民たちは、一目散に鋼鉄の屋根の下に逃げ込んでいく。


「あっきちゃん早く逃げて!」

おばちゃんが叫ぶ。あっこちゃんは突然の警報に慌ててか、近くの屋根ではなく母の居る屋台に向かって走り出していた。

「近くの屋根に入って!」

母親の悲痛な叫びも届いていないようだ。少女はこちらに真っ直ぐに走ってくる。警報が鳴ってからあと20秒。少女の足では間に合いそうにない。あと10秒。上空には無数のじゃがいもが見えていた。

「ケーン、助けて!」


ユミィが叫ぶと、リュックについていたキジの人形が動き出し、またたくまに飛び立った。少女の上空に到着したケーンは、羽を傘のように広げて、少女に覆いかぶさった。間一髪、じゃがいもと人参が街に降り注ぐ。そこかしこで、鈍い音が響き続けている。ケーンが作る傘は、ゴムのような素材でできているようで、降り注ぐ物を弾いている。少女は無事のようだ。


雨は数十秒で収まった。


「アキコ!」

母親が少女に駆け寄る。ケーンは元の姿に戻り、ユミィの元に飛んでいった。それを見て母親は、喜びと不安が混ざりあった表情をしていた。


「あんた、ほんとに鬼なのかい?」

「いやあ、鬼とは違うんですけどねー信じてもらえないですかね。」

「私は・・・信じるさ、でも私以外の人は・・・。」


すでにあたりは騒然としていた。雨にではなく、突然現れたロボットに。


「おいあれみたか、ロボットじゃなかったか?」

「しかも空を飛んでいたぞ?」

「通報したほうがいいんじゃないのか?」


「おっとこいつはヤバそうだ。」


ユミィはじゃがいもと人参をいくつか拾い上げると、人が居ない方に向かって走り出す。


街を出たユミィは街を眺めながら、双眼鏡で追手を確認する。


「せっかく今日はちゃんとした布団で寝れると思ったのにー。」

「私を飛ばさなかったら一生後悔していただろう?」

「そうだけどー。」

「そんなことより、今日は鉄球が降るんだぞ、とっとと屋根を見つけるんだ。いくら私でも鉄球は防げない。」

「はーい。」

「明日は洞窟を探そう。セイカントンネルという名だ。」

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