おせち

「おせち食べたら初詣ってことで。」

「そうだな。」

 コクリと虎太コタも頷く。

 御節おせち料理は、お正月に食べるお祝いの料理とされている。

 それらを手作りしたのは夜影ヨカゲであった。

 机に並べる頃には、朝日が登り始めていた。

 去年は才造サイゾウと共に夜影はその陽をこの目に焼き付けた。

 今年はゆったりとしたかった。

 本来は御節料理は正月のみではなかったが、江戸時代に庶民に広まると、一年の節日で一番大切な正月にふるまわれる料理として呼ばれるようになったのだった。

 その変化さえ目にしてきた二人だが、正月を祝うのは我が主を失ってからはパッタリとなかったが、ここ近年では夜影の憧れからくる提案で祝い始めたのだった。

 もともと、収穫物の報告、感謝の意を込め、その土地でとれたものであったが、暮らしや食文化の豊かさが、現在の御節の原型へとうつろったのだ。

 重箱を一段ずつ眺めた。

「毎年思うが、お前、張り切るよな。」

「まぁね!」

 めでたさを重ねる、という意味で重箱に詰められたということを、才造や虎太が知ることはない。

 忍がそこまで人の知識を入れているのは夜影くらいだ。

 蕎麦そばも、夜影が教えたものである。

 各段ごとで詰められている料理は違った。

 夜影は綺麗にそれを順番に並べたおかげか、わかりやすい。

「この段にはこれを詰めるっていうルールとか、素材や料理に込める意味っていうのがあるんだけどさ。」

「そうなのか?」

「うん。順に言うと…。」

 重ねた時、一番上にくるのを一の重という。

 祝い事に相応しい、祝いざかなと口取りを詰め込むのだ。

(口取りというのは、かまぼこ・きんとん等の酒の肴になる甘めの料理を指す)

 二の重には、縁起のいい海の幸を中心に焼き物を詰める。

 三の重は、山の幸を中心に、家族が仲良く結ばれるように煮しめを入れる。

 与の重は日持ちのする酢の物などを詰めるのだ。

(忌み数字とされる『四』は使わず、『与』とされている)

 五の重、空か好みの物。

 福を詰める場所、もしくは好物・予備の料理等を。

「ってな感じかね。」

「だからからなのか。」

「わざとだよ、わざと。好物くらいいつでも作ってあげれるし?」

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