九十九坂始の、九重八重との、すこしふしぎな恋物語

筆屋 敬介

2018年 2月13日  俺の部屋

 俺の名前は九十九坂始つづらざか はじめ

 西暦2000年生まれの18歳だ。

 

 突然だが、今から俺は人生の一大イベントに挑もうとしている。

 隣に住む九重八重ここのえ やえに、今から告るのだ。


 幼稚園の頃から一緒に通い、共に小学校に入学し、中学校も二人で自転車に乗り、高校も同じ学校を受験、そして今も並んで通学している。


 俺は特に気にする素振りも見せず、今までずっと八重の隣を歩き、八重もまた同様に俺の隣に座った。


 だが14年の間、お互いに何も伝えず、いたって何事もなく今に至るのだ。


 俺は決意した。このままではよくない。しっかり俺の想いを言葉に出そう。

 高校を卒業する前にちゃんと八重に、このままずっとずっと一緒に居ようと伝えるのだ。



 明日は、2月14日。バレンタインデーだ。

 八重は毎年、俺に手作りのチョコを贈ってくれる。

 今年は違う。

 俺からもプレゼントを用意した。そして、告るのだ。


 グッと決意をしたその時、俺の部屋の窓がいきなり開いた。


 驚きに固まった俺の前に現れたのは……俺だった!


 そいつは靴を脱いで、有無を言わさず部屋に入ってきた。


「よぅ、俺!」

「お、おお、お前は誰だッ?」

「俺は、2月14日……明日から時を越えてやってきた……お前、だ」

「信じられるか!」


 全く同じ顔をしている男が入ってきただけでも驚いたが、明日からやってきただと?


「信じられないだろうが、事実だ」

「信じられるか!!」


 俺は同じセリフを叫んだ。


「仕方ない……お前は机の下から2番目の引き出しに、エロ本を隠している。巨乳お姉さんのエロ本だ。だが、本当に隠しているのは、その引き出しの底板をずらした中にある獣耳ロリコン同人誌だ」


 冷や汗が背中を伝った。


「……俺自身が、いったい何のようだ」

 間違いない、こいつは俺だ。


「お前は、今から八重に告りにいくんだろ?」

 頷く俺。


「やめておけ。一生後悔することになる」

「なんだとっ!」


 未来から来た俺は、悲しげな顔をした。

「告るな。今のままでいろ。たぶん今の俺はハッピーエンドを思ってテンションが上がっているだろう。だが、やめておけ。未来からの俺の警告だ」


 信じられない。


 いや……だが未来の俺が言うことだ。信じられないが、信じるしかないか。


「……わかった。未来からわざわざ知らせにきたんだ。こんな考えられないような出来事が起きているんだ。本当のことを言っていると信じよう」

 そう言うと、俺は告白することを諦めた。


 その時、同じ窓に人影が映った。


 俺が、靴を脱いで入ってきた。


 俺と、1日未来から来た俺が驚いて固まる。

「よう、俺と2月14日の俺。俺は、3月14日からやってきたお前たちだ」


「「はああああ!?」」


「2月14日の俺が告るのを止めに来ただろう?」

 俺と2月14日の俺が頷く。


 さらに未来の俺は、相当に焦った面持ちで早口で伝えた。

「無視しろ。告れ。じゃないと一生後悔するぞ。ホワイトデイから来た俺の警告だ」

 目を剥く2月14日の俺。


 驚いた。

 しかし、更に未来の俺が言っているのだ。最初の決意通りに告白することが良いことなのか。


 新たに告白を決意する。


 複雑な顔の2月14日の俺。俺の肩をポンと叩く3月14日の俺。


 その時、ガラっと同じ窓が開き、再び俺が現れた。


「よう。俺は7月7日。七夕の俺だ。事情はわかっているだろうが、告白するのはやめておけ」

 混乱し始めてきたが、最も未来の俺が警告したのだ。

 告白するのはやめることにした。


 ガラ……


 未来から来た俺たちを含め、4人の俺が一斉に振り向いた。

 

「12月24日、クリスマスイヴから来た俺だ。告白しないと一生後悔するぞ。嘘じゃない」


 やはり、告白しよう。


 ガラ……


 スーツを着た俺が入ってきた。


「2024年2月14日からやってきた俺だ。わかっているだろうが、告白するな」


 ガラ……


 えらく太った俺が入ってきた。


「2044年12月31日の俺だ。わかっているな。ごまかされるな。告白しろ。一生後悔したくなければな!」


 ガラ……


 頭のてっぺんが禿げた俺が入ってきた。


「2056年12月25日の俺だ」


 ガラ……


「2058年1月1日の――」


 ガラ……


「2064年の――」





 俺の部屋には、未来から来た俺が詰まっていた。




 その時、俺の部屋のドアがノックされた。


 ドアがゆっくり開かれると、そこには綺麗な銀髪を結い上げた、楚々そそとした美しいお婆さんが静かに立っていた。


「失礼しますね。私は2082年から来ました」

 ゆっくり落ち着いた物腰で部屋に入ってくる。



「2018年のあなた。迷っているんでしょう?」

 女性は、そう言うと目じりに深いしわを刻み、優しく優しく微笑んだ。



 ああ。わかった。



 俺は今度こそ決心した。

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九十九坂始の、九重八重との、すこしふしぎな恋物語 筆屋 敬介 @fudeyaksk

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