第42話.邪魔

>今日はなにする?


あれからりえと遊ぶのが日課になった。日課、と言ってもまだ4日かそこらしか連続で遊んでいないけど。


>花火しよ

>あ、花火! 私やってみたい!


りえは誰かと遊んだ経験が極端に少なかった。だからちょっとしたことでも小さい子供みたいにはしゃいで、僕の方まで楽しい気持ちが伝染してきた。この前川で水切りを見せてあげたら目を輝かせて「私もしたい!」 と言って日が暮れるまで練習してた。


結局最後の方に2.3回ほど跳ねただけで、あんまり上達したとは言えないが暗い雰囲気が染み付いた顔を思いっきり綻ばせて見せた。


まさかこの歳で水切りに夢中になるなんて思わなかった。


>花火なら夜まで待たないとね


りえは、今になって過去に楽しむはずだった時間を取り戻してる。その大事な役目が僕なのはちょっと気が引けるけども、ちょっと嬉しささえ感じた。


>じゃあ明るいうちに花火買いに行こうよー


履き慣れたスニーカーに足を押し込み、3号棟の方へと歩きだす。こう毎日毎日通ってると、他人から恋人同士と勘違いされるかもしれない。


でもそんな勘違いも、むしろ今はしてほしいと思うくらい僕の隣で笑うりえが誇らしかった。


ーー好きなのかもしれないな


チラッと浮いたそんな考えを一瞬で否定し、佐和田と書かれた表札の前に立つ。


>きたよ


もし何かの間違いで僕がそんな感情を抱いたとしよう。でもそれを認めてしまうとどうなる? 次には独占欲が出て、この先のりえの可能性を僕が潰してしまうことのなる。それだけは絶対に避けたかった。


今は僕だけだけど、この先もし友達ができて好きな人ができて・・・・・・そうなった時に僕という存在が邪魔をしてはいけない。


僕みたいな欠陥人間よりまともな人間はこの世に数えきれないほどいる。


「お待たせー」


声とともにドアが開き、いつもの格好でりえが出てくる。僕はいつもその姿を見ると安心できた。


急に化粧を覚えたり、オシャレに気を使ったりしたりえを見たくなかった。多分僕はそういう姿をみたら発狂、とまではいかないが頭を抱えるだろう。


どこか遠くに行ってしまったような感覚に陥るに違いない。


さっきはりえの邪魔をしないと思いつつも同時にそんなことを考えるあたり、自分の性格の悪さを再確認できた。


「花火ってどれくらい買えばいいのかなー」

「遊ぶ分だけでいいんじゃないの」

「じゃあいっぱい買っていっぱい遊ぼう!」


まあ、お金を出すのは僕なんだけどね。

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