第39話.リストカット

世間が慌ただしくなって、1年が終わろうかという年の瀬にお婆ちゃんの葬式は執り行われた。


肺炎、だった。


お婆ちゃんは2週間くらいご飯も食べれずに、苦しそうに寝込んでたけど、まさかいなくなるなんて思わなかった。お婆ちゃんにしてもらったみたいに私も看病した。手を握ってあげると、やっぱりシワシワだったけど暖かい手だった。


お婆ちゃんが死ぬと、お父さん達が引っ越してきた。


それからはまた“あの日々”に元通り。嫌な日常は戻ってきたのに、私の腕の色は殴られすぎて、気付いた時にはもう元の肌の色には戻らなくなっていた。


ある時酔ったお父さんが私に色々ちょっかいを出してきた。痛くて気持ち悪くて・・・・・・。正直あんまり覚えてない。思い出したくもないから覚えてなくてよかったと思う。


でもそれから私は動かなくなった。動こうと思っても体がついてこない。


家のベッドで1日を過ごすようになると自分が生きてるのか死んでるのか分からなくなった。自分の体に血は流れてるのか、本当は私はもう死んでてずっと悪夢を見ているだけなんじゃないか。


なにかのドラマで見た。手首を切ると人は死ぬんだって。手首には大きな血管が通ってるらしくて、それを切ると血が止まらなくて死ぬらしい。


切ると痛かった。


痛くて泣きそうだった。でも血が止まらないなんて嘘だったね、そのままにしてると意外とすぐに血は止まったし、痛いからもういいかなって思ってた。


死ななくてよかったと思う反面、私はまだ生きてるってことを再確認できた。いっそ、死んでたらよかったのに。


中学3年になった時、両親が離婚するってことで揉めてるのをたまたま聞いた。弁護士と話をして裁判所に行って、ってしたみたいだけど結局色々話がまとまったのは卒業するくらいだった。


離婚するって聞いてたから、どっちに引き取られるかは分からないけどこの日常が終わる。そう思って中学の教科書引っ張り出して必死に勉強した。学校には行ってなかったけど、行ってる人の倍以上は勉強したと思う。


高校に受かった時は1番嬉しかった。嬉しい時にも涙が出るって初めて知った。


1週間くらいしてお父さんが死んだ。私は知ってる、お父さんがわざと事故したことを。あの時、電信柱に向かって思いっきりアクセルを踏み込んで・・・・・・。


多分、多分だけど、お父さんとあの人はお金の問題で揉めてた。お父さんはそれを払いきれないからって私を道連れにしようとしたんだと思う。


だけど死んだのはお父さんだけだった。私は、隣でお父さんが潰れるのを見ていた。


ほどなくして家にお父さんの弟とその妻が訪ねてきた。「引っ越しの費用は出すから出て行ってくれないか」 要約するとそういうことを言ってきた。


あの人は特に何を言うでもなく了承して、そしてこの市営住宅に入居することになった。

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