第27話.お昼前のピーク

『ドリーム』 にこう何回も来るのは久々だ。昼前のちょっとしたピーク、意外とお客さんが多い。


人混みは疲れる。


人混みというほどの多さではないが、それでもこの町で1番賑わっているのはここだろう。買い物かごにいっぱいの食材を買い込んでいる主婦や、お菓子を買いに来た小学生でそこそこの熱気に包まれている。


また知り合いの店員さんに軽く挨拶し、姉ちゃんから頼まれた甜麺醤、とかいうのを探す。多分、名前からして豆板醤とかと同じところだよな。


僕の予想は見事に当たって、調味料の棚の下の方になにやら黒い瓶詰めの物体が売ってあった。


こんなもので美味しくなるのか・・・・?


そう疑問を持つくらいには、なんとも、あまりに黒かった。


でも姉ちゃんに頼まれたものだし、きっと重要なものなんだろう。店内はクーラーが効いているとはいえ、あまり知り合いにも会いたくなかったし早く帰ろう。


「あ、井上くん」


甜麺醤片手にレジに並んでいると、背中越しに名前を呼ばれた。


あぁ、この声は・・・・。


「また会ったね」


佐和田さん、だ。


「こんにちは」


咄嗟に愛想よく、なんてことはできないので挨拶でもしながら振り向くと、佐和田さんは牛乳片手に僕のすぐ後ろに並んでいた。


「昨日買い忘れちゃって」


聞いてもいないことを説明された。「そう」 としか言いようがない。短めに返事をしてレジの方を向き直した。


『ドリーム』を出る時はほぼ同時だった。そりゃそうだ。レジで前後だったし、2人とも商品を1個ずつしか買ってない。レジの人もさぞ楽だっただろうな。


住んでいるところが一緒なので必然的に一緒に歩くことになる。


・・・・面倒だなあ。夏休み初日からなんでこんなに面倒なんだ。


「井上くん、LINEとかしてないの?」

「してるよ」

「じゃあ、交換しない?」

「いいけど」


「けどあんまり連絡とかマメじゃないよ」 一応、予防線を張っておく。


「まあ、私もだよ、そこはお互い様だね」


お互い様ってどういう意味だったっけ?

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