第26話.甜麺醤

「幸一、あんた彼女できたの?」

「は?」


この姉ちゃんはなにを突拍子のないことを言っているんだ? とうとう暑さに頭でもやられたのか・・・・。かわいそうに。


「昨日女の子と仲良さそうに歩いてたじゃない」

「ああ、別に仲良くないよ」

「じゃあどういう関係なの?」


なにニヤニヤしてるんだよ。あいにく、そんなこと聞いたところであんたの期待してる答えなんて返ってこないぞ。


「昨日だけの関係だよ」

「なにそれ、あんたも意外とそういうところあるんだね」

「? うん」

「あんまり女の子の敵作ったら生きにくくなるよ」


僕は今でも十分に生きにくいよ。


なんで話したくないような相手と話を合わせなければならない世界なんだろうと、つくづく思う。


「あんた今日から夏休みでしょ? どこか行くの?」

「いや、予定はないよ」

「なにが食べたい?」

「またなんか作るの?」

「まあ、たまにはね」


いつもの気だるい表情を崩さないようにしながらも、内心はかなり喜んでいた。久々に温かい料理がたべれる。それも、姉ちゃんの美味しいやつが。


「んー」

「なんでも作ってやるよ」


なんでも、というのが1番困る。選択肢の幅が広過ぎるんだよ。もし、「これとこれとこれの中からどれか」 なんて言われた方がよっぽど決めやすい。


待てよ、そういえばこの前は麻婆豆腐だったから・・・・。あえて中華料理で考えてみよう。味が濃ゆくて、ご飯のおかずになる、かつあまり時間がかからずに作れるもの。


「ホイコーローかな」

「はぁ、あんたも中華が好きね」

「まあね」


半分呆れたように、ちょっと嫌な顔でため息を一つついた。


「じゃあ今度はあんたの奢りで甜麺醤買ってきて」

「テンメンジャン?」

「調味料、この前と同じところにあるはず」

「んー、分かった」


初めて聞く名前の調味料だが料理好きなら普通に使うようなものなのか?


「僕がお金出すの?」

「この前私が出したじゃない、あんまりお金ないのよ」


このニートめ、高校生にたかりやがって。早くバイトでも見つけてこいよ。

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