第48話 前回までの俺たちの、急転直下なエトセトラ(ネタバレダイジェスト)


 俺は、見原みはら礼人あやと

 忘れられているかもしれないけど、いきなり事件に巻き込まれてドタバタしている身長185センチの中肉高背むだにでかいだけの高校1年生だ。

 とんでもない事に巻き込まれ続けて、いつの間にかこんな所まで来てしまった。俺はつくづく巻き込まれ体質なのかもしれない。



 事は、2ヶ月ほど前にクラスメートの志戸しど鈴実すずみが、おどおどしながら俺の所にやってきた事から始まった。

 それにしても、昼休みに一人でうたた寝している男子を邪魔するとはいい根性をしていたものだ。


 志戸は、俺の胸辺りに頭のてっぺんが見えるくらいのちんちくりんで、『高校の制服を着せられた小学6年生か中学1年生』という表現がピッタリのおこちゃまだった。入学式からずっと存在感の薄い地味な女子。そんな印象だった。


 そんな子が、いきなりボソボソと「一緒に宇宙人を助けて欲しい」なんて言ってきたのだ。訳が分からない。正直ドン引きだった。



「あ、あの、そのぉ……あの時はどうしようもなくって、もうワラにもすがる思いで……」

「俺はワラだったのかよ」

「あぅ」




 紹介された宇宙人はミーファという名で、お姫様人形のような綺麗な顔立ちと姿をしていた。まあ、手乗りサイズだけど。


 地球よりも遥かに進化した技術と文明を持つ宇宙人で、肉体も不要となった意識体だ。美少女の姿も地球人向けに変身した姿だった。人形サイズのくせに妙に凸凹がしっかりしていて柔らかくて、まあ、アレだ……思わず手を離したくらいで……。



「あ、アヤトくん……そうだったんだ……」

「そんな目で見るな」




 ミーファは故郷の星を侵略されて、生き残った者たちは宇宙のあちこちに散り散りに逃げたらしい。

 ミーファはこの地球を目指してやってくると、志戸に出会って助けを求めた。志戸は半年ほど頑張っていたけどギブアップ。俺に助けを求めてきたというわけだ。


 ミーファは、志戸と俺のそばにいられるようにと意識を2つに分けて、ミミとファーファの2体となった。そして、俺たちと行動を共にすることになった。そこまではいい。



「「おほめいただき、ありがとうございます」」

「いいって言っても、褒めてねーぞ」

「ミミ。ほめていないそうです」

「ファーファ。では、おいしいということでしょうか」




 ミミとファーファのお願いとは、散り散りに逃げている仲間が追撃されているので守って欲しいということだった。俺は、まあ、男の子スイッチも入ったこともあり、助けることにした。

 宇宙のどこかで仲間が襲われている場所に、彼女らの能力と技術で武器を送り届けて戦い方を指揮するのだ。


 なぜ高校生の俺が? というところだが、この宇宙人たち、進化の果てに戦い方を忘れてしまっていた。戦うという概念がないのだ。もちろん武器も知らなければ、使い方も知らない。

 そして、宇宙人が大人たちに見つかってしまえば、大騒ぎになって仲間を助けるなんてできなくなる。見つかるわけにはいかない。


 そんな中、俺は思わず隠れた自宅のトイレを宇宙戦闘の司令室に変形されてしまった。


 敵は薄気味悪いぶよぶよとした姿だった。元々はミミとファーファと同じ故郷の仲間だったらしい。

 いざ戦闘となったが原始的で単純な攻撃をしてくるだけなので、俺程度でもなんとかなった。

 それ以来、こっそり戦いを指揮できる場所として、なし崩しにトイレに籠もるようになったのだ。



※※※


 戦いということも武器の使い方もわからない宇宙人は、武器を武器として使わず、斜め上の発想で足を引っ張るへっぽこだった。ドタバタしながらもなんとか仲間を守る俺たち。


 やがて俺が助っ人に入った事で撃退し続けると状況に変化が現れた。

 敵の襲撃頻度が上がったのだ。それは学校の授業中もテストだろうとおかまいなし。

 先生の目をごまかしながら男子トイレに駆け込み戦っていると、ある日、同じようにトイレに籠もっていた、言わば『隣人』と知り合った。


 その人は、トイレの壁越しで決して直接会おうとしない。声はかわいらしく読書が好きで様々な知識を持つその人のことを、俺は男子トイレに籠もる女子と勘違いしていた。


 その正体は、女子に間違われる容姿や声を笑われ、ついに上手く声が出せなくなってしまった2年生男子の先輩だった。学校に来てもトイレに籠もって逃げていたそうだ。


 宇宙人のこともバレてしまったが、色々な場面で俺たちのピンチを助けてくれた先輩は、俺たちの仲間となってサポートしてくれることになった。まあ、相変わらず姿も見せてくれず、個室の壁越しにだけど。



「先輩。音成おとなり乙呼おとこって名前、まさか本名じゃないですよね?」

「ふふ……そ、そそそれは、どどどどうでしょう。っぎぎぎ偽名とととも、いいいい言ってないかからね」




 ある日、音成先輩が気になっている音の正体を探るため、俺たちは夜の学校でこっそり調査することになった。

 そこで偶然、闇に紛れて米軍が使用する航空燃料が搬入されているところを見てしまった。学校に米軍の航空燃料? 俺たちの学校で何が起きているんだ?


 しかも潜んでいる俺たちを追い出そうと迫ってくる警備員は高圧的で暴力的だった。制服に付いているマークは同じ会社のようだが、普段居る青色マークの制服姿ではなく、小さな黒いマークのものだった。普通に警備する部署ではない、特別な部隊か何かだろうか。


 同時に宇宙でのヘルプも発生。こちらでのピンチと宇宙空間でのピンチが同時に起きてしまった。

 その二重のピンチを志戸の機転と音成先輩のアドバイスでなんとか解決できた。

 これで、俺たちは秘密仲間としての改めて結束が高まったのだった。



「志戸もいつもポンコツってわけじゃなくて、たまにはいい仕事をするってことだな」

「……あ、アヤトくん……やっぱりひど……」




 結局、音成先輩が気になっていた奇妙な音は、どこからかの巨大モーターらしき音だった。パイプを伝って聞こえてきたのが原因のようだ。

 俺たちの学校、何か普通じゃない。



※※※


 2学期の中間テストも終わり、学園祭が始まった。

 メイド喫茶を開いた俺たちのクラスに突然、金髪外人娘が押しかけてきた。名前は悦田えつたアリア。志戸の幼なじみで、最近志戸と会えなくなったのを俺のせいだと勘違いして脅しに来たのだ。刺激的すぎる体型の長身美人だけど、まあ、これが偉そうなのだ。俺に敵意むき出しで、事あるごとに突っかかってくる。



「ちょっと! 失礼なんじゃない? 脅すってなによ!」

「おいこら、説明中なんだから邪魔するな!」

「そもそも、あんたがすずを振り回していたからでしょ!」

「だから、前に出てくるなって! 顔、近いって! 説明聞いてなかったのかよ! やっぱり脳筋だな、お前!」

「大事な家族みたいなすずの事が心配なの! あんた、すずのこと何も知らないでしょ!」

「え?」

「あ。その……なんでもない……」




 学園祭の1日めが終わった夕暮れ。突然学校全体が揺れた。どうやら地震などではなく、事故のようだ。一瞬、プールが大量の水ごと地下へと陥没した姿が見えた。

 なんだ? 学校の地下に大きな空間があるのか?

 そして、そのことを隠そうとするように男子トイレから火災が発生。実はそこには、学園祭の喧騒を嫌って隠れていた音成先輩が居たのだった。


 驚異的な運動神経を見せた悦田によって無事助け出された音成先輩。念のためと保健室で休まされることになった。


 帰り際に保健室に立ち寄った俺たちは、音成先輩が黒マークの警備員たちに救急車を悪用して拉致されるところを目撃した。なんてことしやがる!

 悦田がバイクを借りてチェイスをした結果、あるトンネルで見失ってしまった。


 次の日、俺たちはそのトンネルに隠されるようにした分岐道路を発見する。きっと先輩はここを通って消えたに違いない。

 俺たちは「平常」に別れを告げるように、暗く伸びる奥へと進んでいった。



※※※


 多少ドタバタしつつも侵入した先には、驚愕の光景が広がっていた。

 地下とは思えない……果てが見えないほどの巨大なトラックヤードや施設が、煌々とした照明に照らされて現れたのだ。

 後で聞けば、俺たちの住む偲辺市の地下、およそ半分に広がっているらしい。


 その時、全くイレギュラーなタイミングで宇宙からのヘルプが入った。悦田と意見が分かれ、別行動をすることになった志戸と俺。

 とにかく安心できる個室ということでトイレを探すことにした。



「今まで、いろんな状況でいろんなトイレを探し回ってきたけど、まさかこんなわけのわからん施設でもトイレを探すはめになるとは思わなかったな」

「あ、アヤトくん! あの……その……さすがにこれはダメでしたから!」

「だから、ゴメン、悪かったって。さすがにやりすぎた」




 トイレに籠って宇宙での戦闘をこなす俺たちは、敵の戦い方が進化していることに気が付く。気味悪く不完全ながらもこちらの戦い方を真似し始めてきたのだ。


 そして、同時にミミとファーファがこの施設に自分たち宇宙人の仲間が居ると訴えてきた。

 先輩を探さなければ。悦田もどこにいるのやら。そして、宇宙人の仲間まで居るだと?


 紆余曲折とドタバタと迷走と大暴れの末、飛んで火にいる悦田を助けた俺たち。どさくさ紛れに電動カートで爆走して音成先輩を探そうとしたところ、先輩を人質の形に盾にされて、あっさり敵に捕まってしまった。子供だからってあなどって、卑怯な手を使われたのだ。


 自分たちのポカミスを隠すために先輩を口封じしようとしたり、悦田を土足で踏みつけたり、俺たちにも小馬鹿にするような事を言われ……正直、大人ってロクなものじゃない。信用できない敵に認定だ。


 そんな乱闘を鶴の一声で収めたのは、菅野かんのと名乗る2、30歳くらいのスーツ姿のクール系美女だった。

 凛としたやり手に見える彼女は、俺たちをこの施設の責任者というハイドン博士の元に連れて行った。


 音成先輩とも無事に合流できた。これで後は宇宙人たちの仲間を見つけ、この施設から脱出するだけだ。

 初めて見た音成先輩。一瞬見えた横顔は美少女のように見えたけど……疲れきったようにうつむいてしまったためにハッキリ見えなかった。悦田のようにグイグイ顔を近づけるような無粋な事は俺にはできない。



 ハイドン博士は日本語を巧みに話すドイツ系の老人だった。彼はミミとファーファの事は知らないものの、俺たちに何かの秘密があることに気が付いた。

 そして、俺たちに協力させようと、世界の陰に隠れた秘密を明かしてきた。



 世界のほんの一部しか知られていない秘密。それは60年前までさかのぼる。

 

 人類が初めて月の裏側を撮影した時に見つけた異変。

 それは自然のモノではありえない輝き方をする物体だった。


 それを手に入れたい! 凄まじいまでのムーンレースの結果、アメリカがその物体を手に入れた。しかし、時すでに遅く、その石はなんら反応することが無くなっていた。

 

 『月の石』は世界に明かされたが、その奇妙な謎の残る『月の裏側の石』は完全に秘匿とされた。

 月の裏側の石の謎を解くために様々な実験が行われ、宇宙飛行士たちを犠牲にしてまで行われた結果、異星からやってきた意思のある物体と認められたが、結局、謎は判明しなかった。



 ハイドン博士は超心理学と生体工学の知識を買われ、その謎の解明を続けるよう任された総責任者だった。


 そして、この巨大施設は世界のありとあらゆる産業に関わっているという偲辺産業が造った『月の裏側の石』を研究する施設だったのだ。



 俺たちの目の前に、その月の裏の石が現れた。

 ガラス越しに、コードまみれの実験機械に繋がれた姿で。


 その時、志戸の胸ポケットに隠れていたミミ、俺の胸ポケットに隠れていたファーファが飛び出そうとした。


 月の裏側の石は、ミミとファーファの仲間だったのだ。


 ここの大人たちに見つかってはマズい! あの石のように切り刻まれ、あらゆる実験に使われるだろう。


 ミミとファーファを守るように、志戸と俺はとっさに胸ポケットを押さえてしゃがみこんだ!!

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