第25話
カラミティは、目の前にある木々をなぎ倒しながら、猛烈な勢いで駆け出していた。
駆け出して数分、距離にして数km移動したところで、前方の木々が倒れていくのが目に入る。
しかも、1箇所だけでなく数カ所。
木々をなぎ倒しながら現れたのはジャイアントであった。
その数、なんと12体もいて、うち1体は頭1つ飛び抜けてでかい。
ジェフの言う事が正しければ、この数だと脅威度Sランクという事になる。
しかも、でかい体を誇る一体は、そいつだけでAランクの強さを持っているかもしれない。
そうなれば、Aランクと言われたカラミティとの戦力差が大きすぎる。
なのに、カラミティは、逃げる様子は見せない。
カラミティに気づいたのか、ジャイアントたちは一度立ち止まり、カラミティを囲い始める。
カラミティは、そんなことを気にしていないのか、焦った様子はなく、ただ、一回りでかいジャイアントに目が向いている。
しばらくして、ジャイアントの方位が完了すると、1体が功を焦ったのか手にした棍棒を振り上げ突っ込む。
すると、それを合図にしたのか、でかいやつを残して他のジャイアントもカラミティに向かっていく。
最初に向かってきたジャイアントは、カラミティから見て左後方にいたので、自身の太い尻尾を振り、ジャイアントの足を打ち据える。
尻尾が当たると、ボキッという音がしてそのジャイアントはその場に転んでしまう。
だが、他のジャイアントはそんなことを気にせずに、カラミティに向かって攻撃を繰り出していく。
一体は行動不能にし、でかい奴は動いていないとはいえ、10体がほぼ同時に攻撃しているのだ。
流石に、これを受けるわけにはいかない。
ジャイアントたちの攻撃が当たりそうになった時、カラミティは体を一気に小さくする。。
こうなると、ジャイアントからすれば当てようとしたカラミティが突然消えたように見え、繰り出した攻撃は空を切ることとなった。
そして、体を小さくしたカラミティは、空振りし、困惑しているジャイアントをよそに旋回して、一体のジャイアントに向かって飛びかかる。
この時のカラミティの大きさは、先ほどリリィと出会ったときと同じくらいなのだが、跳んだ瞬間、再び体を大きくした。
そうなると、ジャイアントたちからすると、カラミティが急に現れたように感じるだろう。
現に、カラミティに狙われたジャイアントは、目の前にいるカラミティに驚いたのか、動きが完全に止まっていた。
カラミティは、そんなジャイアントの頭めがけて、右前足を振るう。
右前足にある鋭く伸びた爪は、ジャイアントの首を丸で柔らかいものでも切るかのように、容易く切り刎ねる。
首を切り刎ねられたジャイアントは、その事に気づいてないのか、しばらく立ったままでいたが、何秒かした後し倒れる。
この様子を見ていたジャイアントは、用意ならざる相手だと悟ったのか、一旦カラミティから離れる。
そんなジャイアントに対しカラミティは、チャンスだと言わんばかりに、向かっていく。
狙われたジャイアントは、慌てたのか棍棒をとっさに突き出す。
牽制のつもりであったのだろうが、ろくに狙いもつけておらず、なおかつ力の入っていない突きなど脅威ではない、と判断しそのまま突っ込む。
ジャイアントの繰り出した突きは、カラミティの額に当たるが、カラミティの頭の構造上、額の上を滑るだけとなり、碌なダメージを与えることはできなかった。
カラミティはわずかなダメージなど無視して、ジャイアントの懐に入り込み、足へ噛み付く。
カラミティの牙は、ジャイアントの足に深く刺さるだけにとどまらず、骨をも噛み砕かんとパキパキッという軋み音を上げ始める。
流石にこれにはたまらないのか、大声で悲鳴をあげながらカラミティに向かって何度も棍棒を振り下ろすが、カラミティは離す様子はない。
それどころか、カラミティは、体を回転させて、ジャイアントの足をねじ切ってしまう。
足を失ったジャイアントは立っていることができずその場に座り込み、失った足を手で抑え込む。
そこまでの時間はわずか10秒足らず、という早業であった。
周りにいたジャイアントは、完全に及び腰となり、戦意が落ち込んだことがわかる。
すると、今まで動きを見せなかったひとまわりでかいジャイアントが動き出した。
そのジャイアントが手にしているものは、棍棒ではなく、刀身10mはあろうかというほどの——ジャイアントが持っていても大きいと思えるほどの——大剣だった。
そのジャイアントが動いた事に気づいたカラミティは、他のジャイアントを放って、向き直す。
大剣を構えたジャイアントは、「ゴアア!」と叫ぶ。
すると、周りにいたジャイアントが動いて、カラミティへ攻撃を繰り出し始めた。
どうやら、先ほどの叫びは、カラミティに攻撃しろ、という指示だったようだ。
ジャイアントたちが攻撃を繰り出してきているというのに、カラミティは動く事なく、背中や頭、尻尾を叩かれる事になる。
それどころか、カラミティは叩かれながらも、大剣を持ったジャイアントに向かってゆっくりと歩き始める。
大剣を持ったジャイアントも、ゆっくりとカラミティへと向かっていく。
そして、互いの距離が40~50mになると、立ち止まる。
しばらく睨み合いが続くが、不意にジャイアントが動く。
ジャイアントは剣を下ろし、下段から振り上げる。
ジャイアントは、カラミティが一瞬で小さくなったことを見抜き、こうすれば小さくなったとしても当てられると考えた。
だが、読みが浅い!
カラミティは、尻尾を起点にして小さくなる。
そうなると、一瞬にして十m以上も後退することと等しくなり、ジャイアントの大剣は空振りとなる。
ジャイアントは、大剣が当たらなかった事に驚き、目を見開く。
そして、隙だらけとなったジャイアントの胴を目掛け、カラミティは大きくなって飛びかかる。
ジャイアントは大剣を振り下ろそうとするが、カラミティが胴に噛み付くのが早かった。
カラミティはジャイアントの体を噛みちぎり、その場に残ったのは肩から上と、膝から下だけとなった。
カラミティは、何度か咀嚼して飲み込むと、残っていたジャイアントに目を向ける。
すると、身を翻して棍棒を放り出して逃げ始めた。
カラミティは、そんなジャイアントを追うことはなく、最初に足を折ったジャイアントに向かい、這って逃げようとしていたが、体を抑え込み食べ始める。
脅威度Sランクと言われたジャイアントの群れに勝つことができたが、それでカラミティがSランクである、と判断するのは少し早計である。
人族からすれば、Bランクが10体以上集まって行動すれば、Sランクに近い被害を受けるが、Aランクの魔物からすれば、Bランクの魔物が10体くらい集まったところで大した相手ではない。
わかりやすく言えば、Aランクが大人とすれば、Bランクが10歳くらいの子供、という感じである。
中には異常に発達した10歳というのもいるだろうが、10歳くらいの子供10人ならば、よほど油断さえしなければ大人が勝つのは当然である。
今回の戦いは、15歳の子が10歳の子分を率いて大人に喧嘩を売ったと見れば、この結末にも納得できるだろう。
カラミティの強さは、Sランクに近いAランクだと考えるべきだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます