第24話
ジェフは、カラミティと呼ばれたものに改めて顔を向ける。
目についたのは、直径2mはありそうな太い前足と、3〜4mはありそうな巨大な顔。
そして、四足歩行であるにもかかわらず、正面から見て10m近くあるということは、体長はその数倍という事になるはず。
木々が邪魔をして全体像を把握しきれないが、ちょっとした小山と言っていいほどの大きさであった。
ただ、ドラゴンならばあるはずの角がない事から、ドラゴンに近い姿をした爬虫類、亜竜と称すべきだろう。
だが、亜竜だとしても、その大きさは異常ではあるが。
亜竜として有名なものが、空を飛ぶトカゲとして有名な
対して、目の前にいるカラミティは、尻尾を含めれば30mは優に超えているのは確実だと判断した。
そして、身体がデカければデカいほど力を有しているのは当然である。
いまのカラミティの大きさから判断すると、
「B、いや、Aランクか?」
と、ジェフは呟く。
Bランクであるジャイアントが、カラミティに対し警戒しまともに戦おうとしない事から、そう判断する。
Aランクともなれば、ジェフたちではどうしようもないが、一国家が全力で当たれば、なんとかできる。
無論それに伴うだけの被害を出す事になろうが、それでも対処は可能である。
今ならば、まだなんとかなる!
すぐに引き返し、ギルドへ報告を。
そう思い、リリィの腕を掴み力づくでも引き返そうと考えた時、ジャイアントは巨大な棍棒を振り上げ、カラミティに向かって駆け出す。
ジャイアントが走り出した影響で、ジェフはバランスを崩し、リリィを掴むどころではなくなった。
仕方ない。
こいつらの争いが終わるまで様子を見るしかない。
ジェフはそう判断し、地面に手をついて戦いを見守る事にした。
駆け出したジャイアントは、カラミティが間合いに入ると、棍棒を振り下ろす。
長さ4mはあろうかという棍棒を、軽々といった感じで振り下ろす様から、とてつもない膂力だということがわかる。
その棍棒がカラミティに当たる、と思われたのだが、棍棒はカラミティに当たることなく、地面を叩くだけとなった。
その様子を見ていたジェフは、我が目を疑った。
カラミティが顔を動かして躱したのであれば、素早いと判断しただけだろうが、当たる瞬間、カラミティの姿が消えたのだ。
こんなものを見れば、自分の目を疑うのは当然である。
目の前の出来事が信じられず、何度も瞬きをしていると、地面を叩いて固まっていたジャイアントを飲み込もうかとする、左右に大きく開かれた口が視界に入る。
そして次の瞬間、その口は閉じられると太ももから下だけを残してジャイアントの姿が消えてしまう。
「は?」
思わず、そんな間の抜けた言葉をジェフは発してしまう。
しかし、それも無理はない。
Bランクであるジャイアントを、ほぼ一口で飲み込んでしまったのだ。
それも、訳のわからない方法で。
カラミティは、ジャイアントを数度
その様子を見ていたのだが、リリィがカラミティに向かって歩き出したのを目にして我に返る。
慌てて、リリィを止めようと手を伸ばすが、同時にカラミティがこちらに向かって前足を振り上げる。
ダメだ。完全に狙われてる。
嬢ちゃんには悪いが、ここで死ぬわけにはいかないんだよ!
ジェフは伸ばした手を引っ込め、身を翻して走り出す。
そうなれば、この場に残るのはカラミティとリリィ、それと従魔のリルだけとなる。
リリィを守ろうと、リルは牙を剥いているのだが、力の差を感じ取っているのか、尻尾は股の間に丸まっていた。
その様子に気づいていないのか、リリィはカラミティに近寄っていく。
カラミティも、リリィに向かって2歩3歩と歩みを進めていく。
そして、リリィとカラミティの距離が残り数mとなり、互いに立ち止まる。
すると、そこで奇妙な出来事が起きる。
なんと、カラミティの体が縮み始めたのだ。
リリィは、その事に驚き動きを止めるが、カラミティはどんどん小さくなっていく。
ついには、リリィと同じくらいの高さにまでなった。
その大きさは、全長6mほどと、最後にリリィと出会ったときと同じくらいの大きさであった。
その姿になったカラミティを見たリリィは、身体が震えそうになる。
「ラミィ、私のこと、覚えているの?」
リリィが震える声でそう尋ねると、カラミティは「クゥー」と鳴き声を上げる。
覚えているよ、とでもいうかのように。
そのことがわかったリリィは、カラミティに飛びつく。
「ラミィ、会いたかった。会いたかったよ〜!」
そういうリリィの瞳からは、涙が溢れていた。
しかし、その顔は満面の笑みが浮かんでいることから、嬉し泣きだということがわかる。
しばらくしてリリィは、カラミティから離れ涙を拭う。
「ごめんね、ラミィ。私のせいでこんな事になっちゃって」
リリィがそう謝ると、カラミティは気にするなとでもいうかのように「ク、クゥー」と鳴く。
他の人であればわからなかっただろうが、つながりのあるリリィには、カラミティがそう言っている事が感じ取れた。
「ふふ、ありがと。でも、びっくりしたよ。あんなに大きくなってるかと思えば、小さくなることもできるなんて」
すると、カラミティは首を傾げ「クゥ?」と鳴く。
そうかな?とでもいうかのように。
「安心した。ラミィは変わってないみたいで」
リリィは、カラミティを撫でながらそう口にする。
カラミティは撫でられて気持ちいいのか、目を閉じる。
「あっ、そうだ!ラミィに紹介したい子がいるんだ。おいで」
リリィは、後ろに控えていたリルを呼ぶ。
すると、リルはゆっくりとリリィに近づく。
その様子は、傍目から見ても、カラミティに怯えている事がわかる。
「大丈夫だよ。ラミィは優しいから」
リリィは膝をつき、安心させるようにリルを撫でる。
それがわかったのか、リルの尻尾が少しずつ上がっていく。
「もう大丈夫だね。ラミィ、この子はフェンリルっていうの。普段はリルって呼んでるけどね」
リリィがそういうと、カラミティはリルに目を向ける。
途端、リルはひっくり返り腹を見せる。
どうやら、リルは力の差を感じ取り、従順を示したようだった。
「も〜、どうしたの?急にお腹を見せたりして」
リリィは、リルのお腹を撫でながらそういうが、リルは起き上がろうとしない。
それもしかたがないだろう。
リルの強さは、Cランクにすらなっておらず、カラミティの強さは、ジェフ曰くAランクなのだ。
その差は3ランクもあり、言ってしまえば大人と赤子以上の力の差があるのだ。
カラミティの許可を得ない限り、この体勢をやめるわけにはいかないだろう。
しばらく、その様子を見ていたカラミティだが、何かに気づいたのか、唐突に後ろに振り向く。
そして、そのまま走り出してしまう。
「あ、待って、ラミィ!」
リリィがそう叫ぶが、カラミティは止まる事なく走り続ける。
しかも、大きくなりながら。
カラミティが止まる様子がない事がわかると、またいなくなってしまうと思い、リリィは追う事にした。
「リル。行くよ」
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