カユラの腕の古い傷が薄くなり季節もひと巡りした頃、カユラはあることに気がついた。


「ねえメル。これ見て」

「あれ? どっちも私よね?」

「そう。変わってるよね」


 カユラが毎日のように描いていたメルの絵をふと見返していたとき、はじめの頃のメルが今より少し幼いことに気付いたのだった。メルが成長している。


「君は怪我を直したり生き返ったりしなければ、歳をとることができるんじゃない?」

「……毎日ずっと死に続けていたのは、もしかして逆効果だったってこと?」

「だって君は僕と会ってから死んでないし、怪我だってそれほどしていないでしょ」

「そうね。そうなのかもしれない」


 自分の手足をしげしげと眺めてメルが嬉しそうに目を細めた。


「ねえカユラ、約束しない? 私たちもう自分を傷つけないって」

「うん。僕も、そう思ってた」


 カユラは静かに左腕をメルの前に差し出した。薄くなったとはいえ、手首から肘までの梯子のような無数の傷跡が痛々しい。その傷跡を優しく撫でるとメルがそのまま左腕を重ねる。


「十字架みたい。うふふ」

「そうだね」

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