2本目【二重事故】住むと事故にあう部屋

2-1 前編【電話に紛れこんだ声?】




「ハイどうも〜! いただきますっ! 『ゴーストイーター』です! 僕はウスバカゲロウ二号! そしてこちらが」


「三号です。車内からお送りしています」


「今日はですね、まずカメラを失礼……あそこの角の家が今回の物件です! 二階建てアパートですね。外装は綺麗ですけど、二階へ上がる階段に錆が目立ちます」


「確か『二重事故物件』でしたっけ」


「ハイ! 元々ね、ここはこの辺りでは有名な事故物件だったんですよ。二階の部屋で、若い女性が薬物自殺されたんです。誰も触ってないのに蛇口から水が出たり、電波が異常に悪かったりね。でも家賃が非常に安いから、それなりに入居者がいたわけですよ」


「家賃があまり安くならない事故物件もありますけどね。相場通りの家賃だからといって、事故物件じゃないという保証はないので油断は禁物です」


「自分の身は自分で守らないとね!」


「……ですが、事故物件の全てで怪奇現象が起きるというわけではないので、そこは覚えておいてもらうと不動産屋さんが助かります」


「納得した死なら、怪現象も起きないよね」


「納得した死、なんてあるんでしょうか」


「どうだろうね。家族全員に囲まれて昇天したおじいちゃんでも地縛霊になったりするし」


「結局、生前の才能や性格が起因していますよね。ひどい殺され方をしてもスッと成仏する人もいれば、自分勝手な死を選んだのにいつまでもしがみついている人もいるんです」


「幽霊になる才能かぁ……」


「ちなみに、二号さんには無いです」


「無いの!? なんで!?」


「日本では孤独死だけでも、年間三万人とされています」


「ちょっと、無視しないで。さみしいから」


「そう考えると、一日で約八十件の事故物件が生まれている計算になります」


「エグい計算するなぁ……」




「事故物件って、本当は身近な存在なんです」




「僕も元不動産仲介業してたから、それはよく分かるよ。……ハイ! なんか脇道にそれちゃったので本筋に戻しましょう!」


「進行へたくそですね」


「辛辣だなぁ!? 三号くんも協力してよ!」


「三号は動画担当なので」


「うう……それもそうだね。じゃあ、気を取り直して!! え〜……最近ね、この事故物件の入居者が次々と交通事故に遭ってしまうんです!」


「命に関わるほどの事故じゃないみたいですけど、骨折や打撲など軽傷とは言えません」


「そんなわけだから、次の入居者がなかなか見つからない! というわけで、僕らに依頼がきたわけです!」


「三号がたった一日泊まるだけでも、効果があるんでしょうか」


「さぁ……。でも、もし三号くんが事故に遭ったらいよいよホンモノってことだよね」


「浅葱さん……」


「だからぁ! 本名やめて!! 冗談だって! 今回は企画後に三号くんのこと部屋まで迎えに行くから!」


「当然です」


「帰る時間になったら電話してね! 一応、車で待機してるから何かあったら連絡するんだよ」


「了解しました」


「それじゃ、行ってきてもらいましょう! 場面変わります〜」




***



「はい……いただきます。現在時刻は23時です。えーっとこの部屋は……廊下がないタイプですね。入ってすぐに10畳ぐらいの広い部屋があって、その中に台所のセットとお風呂・トイレが収まっています。こういう家って、料理を作るところと食べるところの境界線がないんじゃないかと思うんですけど、実際に暮らしてみるとどうなんでしょうか」


『つくってすぐに食べられるから、案外便利だよ!』


「匂いの強いものとか作ったら、服に匂いがつきそうですね」


『どんだけ匂いの強いもの作るの!?』


「今回も窓を開けてみましょうか。よいしょ……っと」


『う〜ん、良い眺めだね!』


「目の前に、新築の大きな家がありますね。おかげで日当たり最悪です。きっと、昼間でも薄暗いと思います。車で正面から来たときは分からなかったんですが、結構な至近距離です。こんなに近くていいの? ってぐらいに近いです」


『手元の資料によると、新築の家が建った時期と二重事故が起きるようになった時期が重なっているみたいだね。なにか関係があるのかな?』


「………」


『三号くん? なに受信してるの?』


「ハイ、ここで二号さんに電話タ〜〜〜〜イム! ぱちぱち〜」


『※これは三号くんのアドリブです※』



プルルル……


プルルル……



「はい、もしもし! 二号です!」


「あっ、三号です〜」


「どうしたの? 大丈夫? 早速なにかあった?」


「いえ、特になにもないんですけど」


「ないの!?」


「この物件って、電波が悪いって言ってたじゃないですか。だから、どうなるのかなって」


「どうなるって……普通に電話出来てるね」


「本当ですか?」


「本当だよ。それより三号くん、キミどこにいるの?」


「えっ?」


「さっきからキミの後ろの声が騒がしいんだ。動画サボって散歩でもしているんじゃないの?」


「こんな夜中に?」


「夜中だから心配しているんだよ。物件に居てくれれば、なにかあったとき僕が助けに行けるからさ。早く戻りなよ」


「……わかりました」


「うん。僕とYouTuberやってくれてありがとうね」


「こちらこそ。……じゃあ、物件に戻ります」


「がんばって! 困ったことがあったらすぐに言うんだよ!」


「は〜い……と、いうことで。こんな調子だから、二号さんのことはイマイチ頼れないんですよね。視聴者さんにも分かっていただけたかと思います。それじゃ、三号は眠いので眠りますね。ごちそうさまでした」


『ひどいよ〜。本当に聞こえたんだって!!! 録音していたので、ここで再生します!!!』




【録音再生中・・・】




『どうですか?? みなさん!!! 何か聞こえたら、ぜひコメントお願いします! 次回は二重事故の実態に迫ります! 後編に続く! ばいば〜い』








<コメント:新着順5件表示>


アカウント名:坂ーラス

電話の声、怖っ!!!!

58秒あたり、女性の声聞こえない????

「もうやだ」って……。

え?

加工じゃないの?

加工って言ってほしい!!!

あ〜〜〜でも二号さんの動画編集スキルじゃ無理か笑


アカウント名:弐輝

一日辺り80件の事故物件が生まれても、それを上回る早さで物件ができあがれば大丈夫だ!!

確かに、孤独死の全てが事故物件ってわけじゃないのかもね。

そして電話、俺にはずっと雑音にしか聞こえなかった。


アカウント名:由比リュール

二号さんやさしいね。

電話の音声はさすがに加工じゃない?

町中で電話してるみたいな音。


アカウント名:すずのぎ

隣に家が建ったから、見通しが悪くなったとか?

偶然じゃないの??

女性の声っていうか、子供の声がしない?

遊んでる感じ?


アカウント名:pen keshia

電話の後ろの声なんて、聞こえないんだけど。




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