悪役令嬢と婚約破棄した騎士団長子息と結婚することになった幼馴染(ヒロイン)を奪い返そうとしたら思わぬ愛と運命がジャガイモ農家の俺を待っていた!

桜草 野和

短編小説

「だから、私はあなたと結婚できないの。女なら誰でもすることよ。悪く思わないでライト」





 幼馴染のミランダは、俺との婚約を破棄して、騎士団長子息のヨハンセンと婚約した。





 悪役令嬢のダリアから、奪い取ることに成功したのだ。














 その晩・酒場ーー





 ミランダとジャガイモの収穫をした後とかに、よく来た店だ。未練がましい自分に腹がたつ。





 俺がやけ酒を飲んでいると、すでに泥酔状態のダリアが入って来た。





「ここが、したたか女、ミランダの行きつけの店? ふんっ、私のほうがいい女なのに」





「おお、ダリアじゃないか! 一緒に飲もうぜ!」





「あっ、ライトのクソやろーじゃないの。あんたがね、ちゃんとあのメス猫の首根っこ捕まえていてくれたら、こんなことにならなかったんだからね! 今日は朝まで飲むわよ!」





「望むところだ! この店の酒、全部飲み干してやろう‼︎」





 俺とダリアは涙がこぼれそうになると、次の酒を頼んで、涙が出ないように飲み続けた。














 翌朝・宿





 頭が痛い。2日酔いもそうだが、ベッドには、裸のダリアがいた。





 俺はダリアを起こさないように、ベッドから出ると、服を着て部屋を出た。





 宿屋の店主には、俺がダリアと泊まったことは、ダリアにはもちろん、他の誰にも言わないでくれと、多少の口止め料を払って頼んだ。





 俺はまだ、ミランダを諦めたわけではない。














 ミランダは、庶民の男どものマドンナだった。


 ファンクラブもあって、会員は1,000人以上いた。


 そして、そのファンクラブの会長が、ミランダと幼馴染の俺だった。





 俺とミランダが婚約したとき、ファンクラブのみんなは祝福してくれた。





 しかし、ミランダが騎士団長子息のヨハンセンに獲られたことには、激怒していた。





 キザで、庶民を見下しているヨハンセンのことを、嫌っていた。











 2週間後・王宮ーー





 特別に王宮で行われるミランダとヨハンセンの結婚式を、俺は命を捨てる覚悟で止めに行くことにした。





 ミランダのファンクラブの1,000人も、協力してくれた。





 俺たちは、クワや大カマを手に取って、城に乗り込んだ。





 結婚式で衛兵たちも油断していたので、門をあっさり突破した。








 しかし、結婚式が行われている王宮に向かおうとすると、騎士団が邪魔をする。





「うぉーー! そこをどけ!」





 ミランダがヨハンセンの野郎と誓いのキスする前に奪い返しに行くのだ。





 ところが流石は騎士団。


 剣術など習得していない庶民のファンクラブのメンバーたちは、次々と騎士団に倒されてしまう。





 諦めてためるか。例え、首だけになっても、ヨハンセンの喉を食いちぎり、ミランダと誓いのキスをするのは俺なのだ。

















 野いちごを食べたあと、雨宿りした木の下で、ミランダと初めてキスをした俺なのだ。




















 騎士団相手に苦戦をしいられていると、





「ライトに続け!」





「これ以上、国王の悪政には絶えられねぇ!」





「国王の首をとれ!」





 日頃から国王への不満を募らせていた民衆が、武器を持って城に乗り込んで来た。





 元婚約者のミランダを奪い返しに来たのに、どうやら俺は反乱の首謀者になっているようだ。











「うわっ、お前たち何をする!」





 これには、騎士団も多勢に無勢で、反乱を起こした民衆に取り囲まれ、あっとう間に倒される。





 俺は剣と馬を奪うと(ちゃんと白馬を選んだ)を、王宮に向かう。











 ドンッ!





 王宮のドアを体当たりで開けて中に入ると、結婚式は中断されていた。





 参列していた貴族たちは酷く混乱し、召使いたちが、慌ただしく財宝を鞄に詰めていた。











 誰も王宮を守ってはいなかった。











 国王が王妃や、王子、王女たちと逃げて行くのが見えた。














 ミランダは、式場の中央で崩れ落ちていた。





 ヨハンセンの姿はない。とっくに逃げ出したのだろう。





 ミランダはすがるように、俺を見つめる。





 俺の中で、ミランダへの愛が消えていることに気づいた。








「ライトに続くのだ! 国王を逃がすな!」





 反乱を起こした民衆も王宮に入って来る。

















 ジャガイモ、どんなに売っても、ミランダに花さえ買えなかった。





 ヨハンセンはバラの花束を、ミランダにプレゼントしていた。














 俺だって、国王に恨みはある。











「みんな! 国王たちはあっちへ逃げた! でも、略奪はするなよ! 俺たちは愛と自由を奪い返しに来たのだ!」





「おおーー‼︎」








 反乱を起こした民衆が、国王たちを追いかける。























 3週間後・王宮ーー





 俺とダリアの結婚式が行われた。





「私は、生まれて一度も2日酔いなどしたことありません。今度、私から逃げたら命はないわよ」





「もうダリアから離れられるわけがないだろ」





 俺はダリアに誓いのキスをする。





「ライト国王様、万歳! ダリア王妃様、万歳!」





 民衆が祝福してくれる。











 反乱は成功し、国王一族や騎士団長、さらには騎士団長子息のヨハンセンも、島流しの刑となった。





 そして俺は圧政からの救世主として崇め立てられ、国王となった。














 ジャガイモを売って、ちゃんとバラの花束が買えるように、税率を下げよう。














 あのとき、騎士団相手に俺たちが苦戦していたとき、民衆に反乱の陽動を行なったのはダリアだった。














 酒場でダリアとやけ酒を飲んでいるときに、俺はこう言ったそうだった。














「俺、気づいたことがある。ミランダより、ダリアのほうが、見た目も心もキレイだ」











 まったく覚えていないが、それは正しい。











 ダリアは一途だ。好きな相手が出来たら、ミランダみたいに二股などしない。ただ、その一途さが、激しすぎるのだが、それも含めて俺はダリアが好きだ。











 ミランダは、王宮で清掃係をしている。





 いつか、俺が戻って来ると甘い期待をしているのだろう。

















 俺は、悪役令嬢のダリアに運命の恋をした。永遠の愛を掴んだ。














「ド、ドラゴンだ‼︎ 国王陛下をお守りしろ!」





 騎士団となった元ミランダファンクラブのメンバーが、俺を守ろうと前に集まる。





「よし、ドラゴンの丸焼きををみんなにふるまうとしよう」





 俺は剣を抜くと、火を噴くドラゴンに飛びかかる。











 3週間だが、剣術を習った俺は瞬く間に強くなった。














 そりゃそうだ。どんだけ、田畑を耕して、ジャガイモを収穫して来たと思っているんだ。


 もともと俺の身体能力は極めて高い。














 俺はドラゴンを真っ二つにぶった斬る。


 あちゃー、丸焼きの予定だったのに。





 ドスンッ。真っ二つに斬られたドラゴンが、中庭に落ちる。





 まあいいか、このほうが火が通るのは早い。

















 ダリアが王宮から出て来る。





「私、ライト様を愛している私を愛しています。だから、一生、ライト様を愛します」








「ごめん、ダリア。俺にもう、愛は残っていないんだ」








「そんな、ライト様……殺しますわよ」








「俺の愛は、すべてダリアに奪われたからさ」








「もう、ライト様ったら。チュッ。あっ、ミランダ、ドラゴンの血、ちゃんと清掃しなさいよ」








「はい、ダリア王妃様」








「ミランダ」








「なんですか? ライト国王様」








 ミランダが目をキラキラさせている。








「ミランダ、いつか自分の心もキレイにしなよ」








 チッ。微かにミランダの舌打ちが聞こえた。











「ねぇ、ライト様、私のために新しいお城を建ててください」








「そういうのはダメだ。まずは、民の暮らしが第一」

















 数ヶ月後・城下町ーー





 俺はお忍びで、ダリアとジャガイモ畑デートを楽しんでいた。2人でジャガイモに育てているのだ。





 その帰り道、








「僕と付き合ってください」





「わーい、ありがとう! チュッ」





 12歳くらいの少年が、同じ歳くらいの少女にバラの花束をプレゼントしていた。








「ライト様、私にもバラの花束買って、買ってー」





「わ、わかったよ、ダリア。だから、短刀の先で突かないでくれ」








 いつしか、この国は色とりどりのバラと、ホクホクのジャガイモが名産の、“笑顔の王国”と呼ばれるようになっていた。








 ダリアは俺によくこう言う。





「ライト様は、本当に私のことが好きなのですね」





 俺は決まってこう答える。





「俺が愛すれば愛するほどダリアはまた美しくなるかなね」





 俺は色とりどりのバラと、下着を買って、ダリアにプレゼントする。





「ライト様、けっこう変態的なご趣味をお持ちですよね」





「いいじゃん別に」





「ライト様のそういうところも大好きですわ。チュッ」





「ド、ドラゴンが来たぞ!」





 街が騒がしくなる。





 やれやれ、せっかくのデートなのに。


 まあいいか、今日の晩御飯はドラゴンシチューにしよう。





 俺は剣を抜いて、炎を吹いて飛び回るドラゴンに斬りかかる!





 この国の平和と、ダリアとの激しい夜は、この俺が守るのだ‼︎

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