せめて炊き立てのご飯を 編

〈最初に〉


 ■ 五十音順に記載しています。

 ■ 解りやすさを重視するために、度量衡は現実基準のものを使用します。

 ■ 作中と表記や内容に若干の差異があるものがあります。

 ■ 筆者の言い訳もあります。

 ■ ネタバレもありますので、本編を一読されてからがよろしいでしょう。






あんあん【生物】

 ある日の夜、師匠が語った正体不明の生き物。またはその鳴き声。

 季節を問わず夜になると聞こえてくるが、姿を現したことは一度もない。

 冬でも聞こえてくるので昆虫の類とは考えにくく、師匠は夜行性の鳥の一種ではないかと考えている。

 師匠がどれだけピュアかわかるエピソード。

 あれだぞ。意味が分かったら心が汚れているってことだからな?



イール地方【地理】

 レスニア王国バーウェル伯爵領で、ファウナの庭の舞台になった辺境地。

 今回は前作で描かれなかった『秋』の物語となる。



ヴェラス【都市】

 イール地方の行政中枢を担う辺境都市。バーウェル伯爵のお膝元。

 ファウナの庭の舞台となったトゥアール村は、なぜか国家賢人が滞在しているという噂が流れてくるくらいには近郊にある。

 つまり、ド田舎である。なんの変哲もないド田舎である。

 特徴らしい特徴はあまりなく、バーウェル伯爵が善政を敷いているおかげで流通が盛んで、生活水準がそこそこ高い。

 貧しくもなく、かといって裕福でもない。ただ暮らしやすいだけの街。

 その分、日常的に刺激が足りないので、なんちゃって道場が流行ったりもする。



裏の剣客【組織】

 所謂、殺し屋。

 泰平の世において、それでも戦う以外の道を選べなかった傭兵の成れの果て。

 あるいは、生粋の殺人嗜好症。

 もちろん殺し屋稼業など非合法の極みであり、法と秩序の体現たる警吏たちにとっては必ず撲滅しなければならない相手である。

 それが現在に至るまで達成できていないのは彼らの存在を隠蔽し、依頼を斡旋する元締めとなる組織が存在するからだ。

 その組織については、ひょっとしたら別作品で語るかもしれない。



柿【植物】

 ご存知の通り、秋の果物。

 どれだけ赤く色づくかで、秋の深まりを表現できる便利なアイテム。

 別に資料集に載せるほどでもないのだが、「ファンタジー世界に柿を出していいのか?」と悩んだ憶えがあるので記載する。

 異世界に現実のモノをどれくらい出していいのか、ファンタジー書きの諸兄にとっては悩みの種ではなかろうか。

 かく言う筆者も架空の穀物とか野菜とか考えだしたらキリがないし、読者側は名前を覚えるのが面倒くさいだろうし。かといって現実にあるものを出し過ぎるとファンタジー感がなくなるし、つーか前作で米とか麦とか普通に出しているし……と頭を抱える始末。

 そして一時間後、異世界っつっても、人間がいる時点で地球と酷似した生命進化を辿ったのは疑いようがないわけで、柿だろうが林檎だろうが薔薇だろうが百合だろうが、種としてなら存在しててもいいんじゃなかろうかと悟る。

 収斂進化って便利な言葉だね!



数打かずうち【武器】

 粗末な量産品を指す言葉。数打ち物とも。

 戦争時はとにかく武器の数を揃えることが重要なので、こういった粗悪品が多々生まれる。



太刀かたな【武器】

 たち、ではない。かたな、と読む。読んでください。お願いします。

 現実においては太刀と刀(打ち刀)は別物である。

 平安後期から登場し、馬上戦で使われ、佩いて携帯するものを太刀。室町後期から登場し、徒戦で使われ、差して携帯するものを刀……と分類するのが一般的か。このあたりは賢明なカクヨム読者には説明不要と思われる。

 なので、作中の太刀の描写に関しては「思い切り打ち刀じゃねーか」と突っ込まれることも覚悟していた。

 言い訳させてもらえるのなら、舞台はあくまで異世界なので、日本刀の分類を当てはめるのはどうかと思ったから。とりあえず、この世界においては片刃で反っていたら太刀ということでお願いします。

「まあ、それは飲み込んでもいいけど、どうして太刀って表記するのさ?」という意見に関しては、個人的な感性によるものなので説明が難しい。

 剣は「けん」で二文字なのに、刀は「かたな」で三文字で読むところとかが気に食わないと思われる。

 え? 剣は訓読みなら「つるぎ」で三文字だって?

 いや、普通は剣は日常的に音読みで「けん」でしょ。圧倒的に。かといって、刀を音読みで「とう」と日常的に読んでいるかというとそうじゃない。そのあたりの感覚の話。

 やべ。頭のおかしい人だと思われる。忘れてください。お願いします。



警吏けいり【職業】

 地方官吏の中でも治安維持活動などに従事する者たち。

 現代でいう警察官に相当する。

 ただし、その権力は都市の内側に限定されるため、外側(特に都市部から離れたところにある村落)のトラブルに関してはの各地の自警団か、駐屯している騎士団に任せているのが現状。

 れっきとした地方公務員ではあるのだが、それは役職持ちだけで、人員の大半は現地雇用の非正規職員。戦後の傭兵たちの主な再就職先である。



験担ぎ【文化】

 縁起を担ぐこと。また、それを踏まえた古流武術の教え。

 古の信仰の中には言霊のような概念も含まれており、同じ発音の言葉には意味は違っても見えない糸で繋がっていると考えられている。

 要するに、四は死に、九は苦に通じるから不吉、とかそういうもの。

 あくまでジンクス程度のものであるが、戦場では些細な精神状態の変化が生死を分けるので、武の道に生きる者たちはそれらを決して軽んじない。

 作中では「しんの穢れはしんの穢れに通じ、心身の不浄ふじょうは太刀筋の不定ふじょうに現れる」から、剣士は体を綺麗にしておかなきゃ駄目なんだよ、と語られる。

 まあ、お風呂イベントを導入するための言い訳なのんですけどね。



甲、乙、丙【人物】

 ルスト流道場の高弟三羽烏と呼ばれるほどの実力者。

 あくまでルスト流の中では、という但し書きがつくが。

 師匠の見立てでは三人とも基礎が不十分。そのことから、主人公よりも力量は低いと思われる。

 それにしても、こいつらの名前の適当さときたら……。



古銭刀こせんとう【武器】

 とある鍛冶師が鍛造した太刀。

 レスニア王国における古銭=鉄貨を素材にしたものを指す。

 鉄は古いものほど質が良いとされ、良質の鉄のみで鍛造された古銭刀は従来とは比較にならない切れ味と粘りを実現する。不純物が限りなく存在しないので、接触すると清らかな鈴の音が響くとか。

 銘は存在せず、茎には製造番号のみが刻まれているのが特徴。

 全体的に国宝未満、名刀以上という評価。

 作中でも触れられている通り、あくまで究極の一振りを生み出す過程での試作品に過ぎないが、〈大戦〉時の徴発で各地に流れた。百本ほど現存しているが、真に古銭刀と呼ばれるのは十本目までとされる。

 つまり、作中で登場したものは正真正銘の古銭刀である。

 最終的に折れてしまったが、その後、小太刀に打ち直され、師匠の命を救う一助になった。

 余談だが、筆者が数年前に執筆した中編小説にも古銭刀を使う剣士が登場する。読みきりの完結済みなので、機会があれば公開したい。



師匠【人物】

 女性。26歳。身長:154cm。体重:48kg。体格:82/57/84(D65)

 この物語のヒロインであり、ハイデンローザ流道場師範。

 長い黒髪が美しい楚々とした佳人。

 作中でも語られる通り、小柄で華奢、おまけに童顔なので現在でも十代にしか見えないロリ系お姉さん。でも、自分ではおばさんだと思っている。そこがいい。

 ぽやぽやっとしており、基本的にマイペースな性格。大人としての礼節は弁えているが、何かと隙が多い。主人公のことは『おしめをしている頃から知っている親戚の子』くらいの感覚で接しており、下着を見られようが裸を見られようがお構いなし。思春期真っただ中の主人公を無自覚に惑わせてくれる。

 そんな天然風味のお姉さんだが、有史最大の戦争たる〈大戦〉を生き抜いた歴戦の女武芸者であり、表の剣客の中ではかなりの実力者。ヴェラス随一の遣い手と言って過言ではなく、単純な比較はできないが、ファウナの庭のアクイラが十回戦って十回負けるレベル。

 十代で師範級の腕前になるあたり、紛れもない天才。道場を開いた当時はほとんどの門下生よりも年下だったが、誰一人として疑問を口にすることはなかった。

 貧相な食生活に反して出るところは出ているトランジスタグラマー。というか、とにかく細いので相対的に大きく見える。女性用下着というのはあくまでトップとアンダーの差が容積の基準となるので、胸囲の数値が真実ではない。例えば、アクイラは師匠よりも胸囲はあるものの背丈が高く、骨格的にもかっちりしているのでアンダーが太い。よって、容積的には一つ下のサイズとなる。まあ、何が言いたいかというと師匠とアクイラは感覚的にはほぼ同じ大きさ。

 また、その綺麗な黒髪は愛好家に高く売れるらしい。お金に困った時は容赦なく断髪していたのだが、現在は主人公によって止められている。

 その浮世離れした性格の根源は、自身が〈大戦〉による戦災孤児であり、生と死が混在する戦場で多感な時期を過ごしたため、命とはいつか消えゆくものという諦観が根底にあるから。そのため感情が無いわけではないものの非常に希薄。あまり他人に執着することがないため、男女の機微については「知識として持っている」程度。だって、あんあんの正体がわからないくらいだし。

 終戦後はヴェラスで道場を開いて静かに暮らしていた。が、一番気にかけていた弟子であるレヴォルが裏の剣客に堕ちたことがきっかけで、自分は誰かに何かを教える人間ではないのではないと精神的に葛藤する。

 門弟たちに暇を出し、道場も閉め、残りの人生は師としての責任を果たすために使おうと思っていたところ、主人公が押しかけてきてなし崩し的に弟子として迎え入れるところから物語は動き出す。

 レヴォルとの因縁を清算した後は、主人公の励ましもあってこれからも剣術の師を続けることを決意。暇を出した弟子を呼び戻したり、新しい門下生集めにもようやく重い腰を上げた。

 これにて大団円……と思いきや、折れた古銭刀に代わる新しい太刀を購入したことで少なくない借金をこさえてしまったので、毎食炊き立てご飯が食べられる日々はまだまだ先のこととなった。



神速の斬撃【武術】

 師匠の代名詞。ハイデンローザの神髄。

 極限まで最適化された肉体運用によって実現する高速の抜き打ち。

 実際は単純な剣速だけでなく、間の読み合い、拍子の隠匿などの複合的な条件を満たして放たれる。

 具体的な速度の定義は不明だが、『相撃を心構えとし、されど相手よりも一歩早く打ち込んで勝つ』というのがハイデンローザの理念なので、相手と同時に打って、相手より先に当てることができたら神速なんじゃなかろうか。

 師匠の固有の技というわけではなく、ハイデンローザの教えを正しく鍛えれば誰でも再現可能。最終章では主人公が偶発的に再現した。

 ちなみに、得物の刀身を短くすることでさらに加速する。

 ハイパーヨーヨーでストリングスを短くするとループ・ザ・ループの回転率が上がるのと一緒。……最近の若い人は知らないか。



代書業【職業】

 師匠の副業。むしろ収入源としてはメインと言って差し支えない。

 文明の最先端を往くレスニア王国においても識字率は完全ではないので、字が書けない人たちのための代筆業が存在する。

 基本的には手紙や公的書類の作成。場合によっては写本なども手掛ける。地味に一番多いのは恋文を代わりに書いてくれとかいうもの。あの師匠が他人のものとはいえラブレターを書いていたと思うと、ちょっと面白い。

 執筆開始当初から師匠は何らかの副業をしている設定だったのだが、どうして代書業にしたかというと、「字を書けないミラン君が、ファウナに宛てた手紙の代筆をお願いする」という一幕を書きたかったため。

 しかし、後になって時系列の問題が発覚したので、結局お蔵入りになった。

 結局、この物語はファウナの庭との並行時間軸なのか、それとも未来の話なのかはっきりしないまま幕を閉じた。



〈大戦〉【歴史】

 ファウナの庭編にも書いているので割愛。

 なぜか今回は括弧がついた。特に意味はない。



とある鍛冶師【人物】

 レスニア王国の天才的な鍛冶師を指す。その名声は国内に留まらない。

 太刀に取り憑かれた人物で、究極の一振りを作り上げることを至上命題とし、様々な試行錯誤を繰り返した。古銭刀もその産物の一つ。

 語られるのは〈白蓮〉〈紅蓮〉の二大業物。

 この二つは国宝認定を受けており、前者は先代の剣聖が、後者は近衛騎士の一人が所有している。

 また、語られざる業物として〈黒蓮〉という呪われた太刀があり、薔薇の剣聖に託された。



刀衰剣復とうすいけんふくの時代【文化】

 ロングソードやツヴァイハンダーといった西洋剣が大好きだ。

 でも、日本刀も愛してやまない。

 どうせだったらどっちも出したいという筆者の願望の果てに生まれた時代背景。

 掻い摘んで説明すると、みんな最初は太刀を使っていたけど後から徐々に剣になっていったよという話。

 え? もっと詳細に?

 この世界の歴史的には黎明期に生まれたのは直剣であり、斬るというよりも突き刺すという遣い方がメインであった。冶金技術も未熟で、長い刀身を作ることさえ難しかったという。

 そのうち、当時主流だった皮革鎧に対して、より効果的に損傷を与えるために反った刀身に変化した。

 反りは鋭い切れ味をもたらすだけでなく、物体との接触時の衝撃を分散して、折れたり、曲がったりすることを防ぐ効果もあったのだが、それでも刀剣特有の強度問題は解消せず、その試みとして芯金を皮金で包むという製法を編み出した。

 その過程で片刃になり、最終的に生まれたのが太刀である。

 太刀は扱いが難しいと作中で触れているが、それは反りを最大限に活用するためには引きつける動作が不可欠なため。ところが、農耕民族は鍬や鋤を使うので腕を引くことに長けているので、太刀の引きながら斬るという特性と見事に噛み合った結果、瞬く間に全国に広がった(あくまでサブウェポンとしてだが)。

 それから数世紀以上、太刀一強の時代が続くものの、〈大戦〉前後で冶金技術が急激に向上し、一部の裕福な将兵しか装備することができなかった金属鎧が一般にも普及し始めると、その圧倒的な防御力の前には太刀であっても損傷を与えることが困難になる。

 そのような状況下でも真っ当な剣術家たちは対装甲兵用の技を開発するなどして当座を凌いでいたのだが、その他大勢の脳筋戦士たちは「どうせ斬れないなら重さと威力で鎧ごとぶち壊せばいいやんけ」という結論に辿り着き、古の武器とされていた剣が再度脚光を浴び始めた。

 太刀と違って複雑な製造工程が不要で、なおかつ安価で大量生産が可能だったために〈大戦〉時の武器需要に大いに貢献したこともあって、太刀は徐々に剣に置き換わっていくこととなる。

 かくして刀は衰退し、剣は復古した。

 されど未だ過渡期であり、現代ではその両方が存在するという設定。



なんちゃって道場【文化】

 泰平の世になって働き場=戦場を失い、食う当てのない傭兵たちが興した武術道場の俗称。

 正式に武芸を学んだ傭兵が「暖簾分け」のような感じで建てたのなら、このような呼び名になることもなかったのだろうが、実際は腕っぷしと運だけで生き残った個人の経験をいかにもという感じで流派っぽくしているだけのお粗末なもの。

 そのクオリティは、民草が戦う術を持つのを煙たがる為政者が「経済も回るし、傭兵たちが盗賊に落ちぶれるよりマシか」と黙認するほど。

 外国人が修行もせずに母国で勝手に開く寿司屋みたいなもので、本職からすれば鼻で笑っちゃうレベルではあるのだが、民草からすれば100円寿司だろうが、ちゃんと修行した板前さんが握る寿司だろうが、寿司は寿司。安くて美味しければそれでいいという認識。

 むしろ、厳しい修行をせずとも段位をもらえ、師範から褒めちぎってもらえるのだから、いろいろと抑圧されている民衆からすれば恰好の娯楽なのである。

 ルスト流道場の以外にも、「男の殺し方を教えてア・ゲ・ル(はあと」と戦闘時に下着姿になる色香剣術のお姉さんや、独創的な武器を開発してそれを普及させようとする売れない発明家の女の子など、様々ななんちゃって道場が登場させる予定だった。

 が、もともと次回作のための慣らしとして取り組んだ作品なのに、これ以上長引かせてどうするんだよと気づいて泣く泣くお蔵入りとなった。

 その代わり、師匠の露出は間違いなく増えた。



沼貝【生物】

 詳しくはファウナの庭を参照。

 ようやく食べるシーンを描写できて筆者的には満足。



バーウェル伯爵【人物】

 イール地方領主。

 善政を敷く、善き統治者。

 これといって黒い噂もなく、物語にも絡まない。

 余談ではあるが、田舎者でありながら伯爵位となかなかの地位にいるのは、百年前の内乱の時の『白の貴族』だから。

 詳しくはファウナの庭の貴族の項目にて。



ハイデンローザ【流派】

 レスニア王国でも最古の剣術であるベルイマン古流からの派生した剣術。

 相撃を心構えとし、されど相手よりも一歩早く打ち込んで勝つ、速さの剣。

 肉体運用の最適化による最小効率で最大効果を挙げることが信条。最小、最短、最速の三拍子揃った神速の太刀を神髄とする。

 動作の最適化のために道場をわざと仕切りで区切って狭くしたりするなど、独特の工夫がある。

 その他にも教えること、習得させることに特化しているのも特徴で、正しく修練すれば誰でも一定の強さを得られることができる。『名人』になるには素質が必要だが、『達人』には誰にでもなれるということ。

 作中でも解説があったように、その名は野薔薇を意味する。

 ハイデンローザはベルイマン古流の正当後継者である〈薔薇の剣聖〉ミリアルデ=ローザリッタ=ベルイマンという少女剣士が、戦う力を持たない、専門的な教育が受けられない民草のために考案したもの。薔薇の剣聖の願いが原野に芽吹いたことからハイデンローザと呼ばれるようになった。

 ちなみに筆者の脳内ではベルイマン古流は鹿島新当流のイメージなのだが、鹿島新当流を興した塚原卜伝は常陸国、現在でいう茨木県の出身。茨とは一般的に薔薇の棘を指すので、そこから派生したのが野薔薇ハイデンローザというのは、なんとも不思議な符丁を感じる。

 そう、狙ったネーミングではなかった。本当に偶然だった。



抜刀術【武術】

 剣や太刀を鞘から抜く技術。

 既に武器を構えた敵に対し、いかにして形勢的不利を取り返すかという武器戦闘の命題に対して考案されたもの。

 俗にいう居合とは、この抜刀術を発展させたものでイコールではない。居合とは本来座った状態で戦う技であり、その技の中に抜刀術が使われているだけである。

 作中では師匠が懇切丁寧に抜き方を説明してくれる。

 え? もちろん太刀のだよ? なんだと思っているの?



ベルイマン古流【流派】

 レスニア王国モリスト地方領主ベルイマン男爵家に代々伝わる剣術。

 この世界における三大源流の一つであり、ハイデンローザ流の元祖。

 ハイデンローザを端的に表す三つの要素が最小・最短・最速であるならば、源流たるベルイマン古流は『躱せない速度』『防げない角度』『耐え切れない威力』――必中、防御無視、確定会心の三要素で構成される。なにそのチート。

 歴史の古さでいえば、ありとあらゆる武術の中でぶっちぎりで古い。何せ最古の王国であるレスニア建国以前より存在する。

 もともとは神=竜を殺すことを目的として神代人類によって考案されたもの。

 この場合の竜とは、ファウナの庭で登場した渡り竜や羽毛竜といった生態系に属する生物ではなく、世界観の根幹に関わる大いなる存在を指す。

 竜は人類文明の明確な敵対者であるが、逆鱗という弱点を持ち、そこに傷を負うと弱体化するので、神代人類は天翔ける竜と肉薄するための三次元歩法『空渡り』を編み出した。その技術が巡り巡って対人剣術の礎となったのである。

 余談ではあるが、ファウナの庭のミランは神代人類の文化観=古の信仰を現代まで受け継いだ狩人なので、その技術の中にベルイマン古流の術理と共通するものを持っている。具体的にはセトゲイノシシの心臓のみを射貫く精密射撃とか、樹木の枝を足場にしての高速移動、流星のような跳躍がそれ。



僕【人物】

 男性。14歳。身長:165cm。体重:54kg。

 この物語の主人公にして語り部。一人称は僕。

 幼い頃、ならず者に誘拐されたところを師匠によって救い出され、その強さ、美しさに一目惚れして、弟子入りを申し込む。

 道場では修行以外にも家事全般を任されている。ご飯も作るし、掃除もするし、師匠の下着だって洗う。ミランに引き続き、家事力高い系男子。

 内弟子希望であったが、師匠の「両親が元気なうちはそばにいてあげなさい」という方針により却下されていたが、三章で念願の内弟子生活が始まる。

 初恋の女性の貧しい生活に心を痛めており、弟子として、一人の男として常々何とかしたいと思っている。だいたい空回って終わるが。

 ヴェラスにおいてそこそこ大きい商家の生まれ。一人っ子なので両親からはかなり甘やかされている。いずれは家を継いで商人にならなくていけないが、今はまだ剣術に熱中していたい……そんな年頃。

 根は真面目で熱血漢だが、年頃の健全な男子らしくむっつりスケベである。師匠がそういったことに無頓着ということもあって、作中では美味しい目に何度も遭遇している。洗った下着の枚数から今日身に着けているものを当てたりなど、スケベを通り越して変態の領域に足を踏み入れており、少々将来に不安を感じる。

 肝心の剣士としての実力は、師匠曰く「まあ、普通」。

 師匠の見立てでは彼自身に特別な才能はない。レヴォルからもハイデンローザの鑑と称されるほど。

 しかし、六年間の基礎修行に加え、実戦経験を積んだことによって後半から飛躍的に成長し、レヴォルとの最終決戦では偶発的にではあるが神速の太刀を再現するにまで至った。

 最終章まで目立った活躍はないものの、それまでにも稽古で師匠の隙を指摘したり、吹聴したせいで折れてしまった古銭刀が師匠の命を救ったりと、主人公としての役目は地味に果たしていると思う。

 最終章後も道場に通い続けており、師匠への気持ちも変わらない。

 でも、結局はヘタレなので、いつ自分の気持ちを言い出せることやら。



ルスト流【流派】

 なんちゃって道場の代表格。

 ヴェラスでは一番人気の道場なのだが、道場破りを見境なく申し込んだり、門弟に関係者を闇討ちをさせたりと、勢力を伸ばすためには手段を選ばない。



レヴォル【人物】

 男性。22歳。身長:176cm。体重:68kg。

 ハイデンローザ道場の元・門弟で、師匠が認める天才。目の下の隈がすごい。

 気さくな人物で面倒見が良く、主人公にとっては理想的な先輩像。女手一つで自分を育てた母をとても敬愛している。

 主人公と同じく師匠に命を救われたことがあり、その強さ、美しさに憧れて剣の道を志す。師匠もまた天賦の才を備えた彼を気にかけていた。

 この物語におけるラスボス。ヴェラスの裏社会で暗躍する堕ちた剣客。

 作中で唯一の固有名詞を与えられた人物。

 一人称が僕なので紛らわしくしたのはわざと。最終章の『師匠と僕』の『僕』は主人公とレヴォルの二人のことを指している。

 悲劇の発端は母が病魔に冒されたこと。最愛の母を失うかもしれないという恐怖に耐えきれず、心優しい彼は悪魔の囁きに惑わされてしまった。そして、大金で人を殺める暗殺者へと身を落とす。

 しかし、隠し事は長くは続かない。

 自身が暗殺業をしていることが師匠に発覚し、破門。制裁を受ける。最愛の母も病気で失い、自分の行いがすべて裏目に出てしまった。

 奪った命は戻らない。師匠の教えを穢した罪は消えない。今さら許してくれとも言えない。

 あの人は自分が裏切ったせいでとても傷ついている。

 弟子を手にかけて、平気な顔をする人じゃないということも知っている。

 それでも、あの人は師として自分を斬らなくてはならない。

 ならば、せめて最後まで悪を続けよう。何も救えなかった自分だけど、初恋の女性の胸のしこりくらいは取り除かなければ。

 そんな胸の内を一言も語らず、男は最後まで裏の剣客であり続けた。師匠が全力で己を斬れるように。

 その結末は、ここを読んでいる人には語る必要はないだろう。

 いやあ、最終章でいきなり登場した割に好評のようで良かった良かった。

 天才と称した実力は本物で、ハイデンローザに二刀を組み込むことに成功。神速の斬撃が二倍になって襲ってくるというウォーズマン理論で師匠に挑む。まあ、実際の二刀流はそんな単純な仕組みではないのだが。

 しかし、主人公が稽古で師匠の隙を見つけなければ、そしてそれに備えていなければ師匠は間違いなく殺されていたことだろう。

 当初は「裏切り」とか「背信」とかそういう意味の名前にするはずだったが、なかなかいい響きが見つからず、紆余曲折の末に革命を意味するレヴォリューションから命名した。

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ファウナの庭設定資料集 白武士道 @shiratakeshidou

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