テトラへ。

 不明な番号から着信があって俺はためらわずに電話に出た。

 脳内じゃなく、デバイスにかけてくるのはチームの重要案件しかない。

 追跡不能の専用回線でやり取りしてる。

 レイニー星の時刻は夕方。

「ハイ」

「もしもしテトラ」

「ぼんぼん」

「聞いて、時間がない。僕たちはニューハワイキで攻撃を受けてる。多分全滅だ。出来るだけ早くキティーと連絡を取って。それから画像を解析して。どう見てもピエロに思えるんだ。お願いだテトラ。了解したら返事――」

「聞こえてる。出来るだけ生き延びてくれ」

「ありがとう。テトラも逃げて。わかってるね」

 俺が返事をする間もなく電話が切れた。

 ナップサックを手に取って、ハウスキーピングの真似事をしている広大な由良戸ユラノト屋敷の奥に向かって歩き始める。

 その間にニューハワイキ方面のニュースチャンネルを脳径接続ダイブでシャッフルした。

 まだ何も緊急ニュースは入っていない。

 悪い兆候だった。

 平和なニューハワイキ星で大規模な襲撃事件が起こったなら、センセーショナルな話題になるはずなのに。

 報道統制を可能にするほどの大物が噛んでいるということか。

 そしてゾーイは何て言った?

 どう見てもピエロ、だって?

 あのマッドサイエンティストだったらクローンくらい作っていそうだが、本体が死んだ後のクローン人格は、人権のある存在として認められていない。

 つまり、生きていることが違法なのだ。

 脳径接続ダイブに来客を知らせるサインが割り込んでくる。

 俺は舌打ちしながら疑似モニタを目の前に展開し、インターホンを中継した。

 宣伝ならシャットアウトするだけだし、宅配便の類なら置いて帰らせればいい。

 視野が玄関先のセンサーにつながる。

「こんばんは、ミスター・ユーラノート。君の子猫ちゃんキティーは元気かな?」

 脳径接続ダイブを根本の回路からシャットダウンした。

 俺は。

 気が狂いそうだった。

 訪問者は、ドクター・ヒューゴだった。

 誠に残念なことに腐れピエロは俺たちの脳から「恐怖」は除去しなかったのさ。

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