光の巫女と、色視る青年

まほろば

プロローグ

 過ぎ去りし思い出たちに、思いを馳せた。

 思い出すのは、わたしが視続けた美しい星々の姿。そこに宿りし、命の数々。

 この愛すべき三次空間世界とわにつづくせかいの中で、宇宙そらに輝く星の一つ一つが、大気ある星に宿りしあまねく生命体たちが、誕生と同時に命の炎を燃やし、やがて散っていった。


 わたしの目の前にる、白色矮星もそう。

 誕生から百億年という長い長いときを過ごし、命の炎を燃やし続けて、今ようやくその役目を終えようとしている。

 私の今いる惑星系に住んでいた者達の言葉で、ヴィジェル清廉なる焔と呼ばれていたこの小さな星。昔はそれはもう、大きな赤色巨星だった。

 この子の生み出す炎はとても大きく温かくて、恒星の周りを回る惑星たちもその恩恵をうけていたのだ。


 だけど、それは昔の話。

 もう他の星も、とうにその役目を終えて、命を終えてしまっている。近くを回っていた子たちは大きくなり過ぎたヴィジェルに飲みこまれて、残った星は大きく軌道がずれて遠くに行ってしまった。

 ここに残っているのは、ガスを放出し終えた白色矮星この子だけ。

 ヴィジェルを観測し終えれば、わたしの使命も終わり。あとは、この宇宙に還るだけ。

 そう考えたその時、私の頭の中に銀河の光よりも強烈な光と共に、とあるイメージが浮かびあがった。

 それは、とある星の未来。小さな惑星系が迎える、小さな危機にして大きな大きな転換期。


 こうしちゃいられない。

 今すぐここを発たなくちゃ。この子を残していくのは忍びないけれど、私の使命を、果たさなくちゃいけないから。

 ごめんね、ヴィジェル。一人で命を終えるのは寂しいだろうけど、許してね。

 私の想いが通じたのか、ほんの少しだけ、明るく輝いたような気がした。

 私は小さく微笑むと、頭に浮かんだ惑星のある方角を向く。もしかしたら、私が行った時にはもう手遅れになっているかもしれない。

 けれど、それでも。あの惑星に住む命の事を考えれば、そんな事は言ってられない。

 光の速度で行っても、数年はかかる小さな惑星、あの青い星。昔、私が母星に居た頃に噂話で聞いたことがある。とっても美しい星なんだって。

 確か、名前は――。

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