(2-3)装備の点検に来たはずが・・・

剣心との遭遇とダンジョン探索から数日。

今日も今日とてダンジョン探索、と行きたいところだったのだが、俺は用事を済ませに久々にダンジョン商業区に来ている。そして人でごった返す通りを影光君と歩いている。


「いやー、影光君。君の収納で進路の人間を収納してくれないかね。」


「僕の収納は生物は対象外なので、その、すみません。」


「うん、わかってるよ。なんかごめんね、そんなに謝らないで。」


終始こんな感じで二人で歩いてる。だが、普段からこんな調子なので慣れたものである。それに影光君を拾ってパワーレベリングを施したの俺だしね。


収納というスキル。異能系に属するスキルなわけだが、異能系はほとんどが誰にでも習得できるスキルの中、魔法と同じく本人の潜在能力が備わっていないと習得できない特殊スキルとなっている。さらに魔法よりも習得事例が少ないスキルの持ち主が、誰とも話せず一人この街で途方に暮れていたところに俺がよそ見をしてぶつかったことが出会いであった。


うん、ほんとあの時の謝罪の濁流は今でも忘れないよ。目が死んでたもん、ていうか死を覚悟してた。かなり弱きだった影光君だが、なぜか攻略者になった理由を明かしてくれない。


一度だけ俺のことを見かけたことがあったらしく、謝罪を中断させ近場の個室ありのカフェで話し合いをした時にそのことを話してくれた。それからその時の話をし、収納のスキルを持っていることを知った俺は、晴れて彼の(自称)師匠となり不知火邸ダンジョンにて強制的に経験を積ませ現在に至る。


そしてその時にちょうど好子さんから新人で顧客になってくれそうな人を探しているという話が舞い込んできたことで、実家が金持ちであった彼に白羽の矢が立ち、定期的に一緒に好子さんのところに訪れ装備の点検や追加の購入などをするようになり、今日のお出かけに繋がるわけだ。


「影光君よ、最近は一人でダンジョンに潜ったりしているらしいじゃないか。大丈夫か?君はあんまり他者と接するのが得意ではないだろう。それに、レベルが高いのがばれたら勧誘だってあるだろ?」


「それに関しては心配しなくて大丈夫です。僕、その、影薄いので、それに戦闘スタイルも隠れて仕留めたり気配消したりする都合上、誰かに気付いてもらえる方が稀なので。」


「うん、そっか。・・・俺は影光君に出会っておいて本当によかったって思うときがあるよ、うん。」


影光君の触れてはいけないところに触れた気がして少し気まずい。まぁかれこれ数か月は一緒にいるし、最初の方はほぼ毎日ダンジョンに二人で潜っていたからこんなことはしょっちゅうだった。つまり、気にしなくていいということだな。いや、影光君が怒らないからと言ってそれに甘えてはいけないのか?


あ、ちなみに影光君。俺の二個下で、学校に通っていたとしら現在は高校二年生だ。不登校だったらしく、その時弓道に嵌って以来毎日欠かさず自前の弓道場で射掛けているようだ。うむ、俺は正直、学校に通わなくても楽しみを見つけ、尚且つ生きてもいけるような奴は是非そういった道を謳歌してほしい派だ。彼の場合は金持ちで楽しみも特殊だが、その他にも道はあることだしな。結局好きなことして生きてるやつに文句を言ったところで負け惜しみにしかならん。かくいう俺も、自分で選んだ道をひた進んでいるわけだし、そういった点では成功者と言えなくはないな。


だが、世の中には選びたくても選べない状況や、周囲がそうさせない、させてくれないことだってたっくさんある。むしろそういうことの方が多いことも事実だ。だからこそ、こうやって攻略者になりたくてなった者たちで溢れるこの街が、俺は好きなのかもしれないな。


将来は沢山稼いだ金をフルに使って、ダンジョンに潜りたいけど潜れない学生たちを支援する活動でもしようかなぁ。丁度好子さんのおかげで装備関連の商会とも繋がりがあるわけだしな。これは真剣に貯金していこう。


その後はとりとめない話をしつつ、露店や親しい商会を回って店先をひやかしたりしながら、目的の場所、一番人気の鍛冶屋である鋼鉄商会本店にやってきた。


「それじゃたのんます。」


「わかりました。『気配遮断』『迷彩効果』『無音効果』。」

スキルを行使し終わった影光君がこちらにハンドサインで行きましょうと伝えてくる。どうでもいいが、そのハンドサインは突撃だ、一体どこに突撃するんだとツッコミたいところだが、あいにく声を発したくても発せないんだから仕方ない。


一応効果対象同士は互いを見ることができるので、頷いてから店に入るために影光君を脇に抱きかかえてジャンプする。膝をクッションにして窓枠の狭い面積を足場にもう一度跳躍し三階のテラスに着地する。勝手知ったるように植木鉢の下から鍵を出して窓の鍵を空け入室。そこには商会長である鋼鉄好子本人がソファーに座ってくつろいでいた。


「勝利君に影光君、そろそろ来る時間だと思って待ってたよ。相変わらず苦労かけさせてごめんなさい。一番人気のお店になったのはいいんだけど、常連に気軽に来てもらえなくなっちゃダメよね。どこかに常連用の特別店舗でも買おうかしら。」


「それは良い案かもな。俺みたいに頭悪い脳筋プレーで三階のテラスに来れる奴じゃなきゃ満足に買い物もできないんじゃ話にならん。」


「その、僕もそれがいいと思います。あんなに人がいっぱいいるとつい神経がすり減ってしまうので。」


「勝利君は別にテラスでもいいだろうけど、影光君が疲れちゃうのは大問題だわ。早急に新店舗の構想に着手しなきゃ。」


俺はいいのかよ。そう思わなくもないのだが、実際今のままでも影光が居れば楽に入店できるので、問題がない。だからこの話題はここで終えて、とりあえず装備品のチェックをすることにした。持ってきた装備を机の上に並べ、状態を好子さんが確認していく。もっとも、俺の装備に関してはなにか問題があるわけではない。むしろ、好子さんが見たいから見ているという意味合いが強いのだ。


「いやぁ、一体どれだけの魔物を切ればこうなるのかしら。第一、第二段階くらいなら普通に攻略していけば勝手に進化するものだけど、貴方の装備はどれも第四段階。たった一人で無数の魔物と対峙してきたのは伊達じゃないわねぇ。さすがに初期段階でこれだけのものを作るのは私でも無理だわ。」


「それ、毎回言葉が違うだけで同じようなこと言ってますよね。」


「あったりまえじゃない。鍛冶師として負けて悔しい思いはあるけど、それ以上に何度見てもこの武器たちはほれぼれするわ。こう、纏うオーラが尋常じゃないし、鍛冶の腕も並みじゃないわ。どこの名工に頼んでもこうはならない。ダンジョンはどんなことでも例外だらけだけど、私自身は武装進化に一番驚いたわ。持ち主に最適に進化していくなんて、鍛冶師として目指す頂きを示されているようで対抗心が増すってもんよ。」


「なるほど、なんとなくわかりますね。俺もこの前六階層で出会った剣客猿の上位種と戦った時にそう思いました。卓越した技術に、野生の鋭さが合わさった強さで、さすがに死ぬかと思いましたよ。」


「何さらっと危ない橋渡ってんのよ。あんたは無茶しすぎだから。」


はははと笑って俺の装備を回収する。そして影光が弓と矢、それと矢筒を机の上に並べ、最後に腰に刺した5本の短剣を剣帯ごと机に置く。そして使用感だとか、そこら辺のことを細かく質問し、影光君がそれに答えたまに要望らしい何かを伝える。そして議論が白熱していき、その間蚊帳の外である俺は好子さんが事前に用意した最新作たちを眺め、気になるものがないか手に取って確かめる。


お、鋼鉄の六尺棍か、重いし硬いのにめっちゃしなる。どれどれ追加効果はっと。


「アナ、調べてくれ。」


『解析中・・・・・・終了しました。【破砕の魔棍はさいのまこん】追加効果は打撲個所に超振動の破砕です。その他に重量増加が付与されています。』


なるほどなぁ。これはなかなか怖い性能だ。ただでさえ破壊力があるのに、その上更に細かく砕くってか。ちょっと買ってもいいかなぁ。


こうやってアナに解析してもらいながら武器の吟味を進めていく。気になった数点を買って、俺の実家に送ってもらうよう商会の職員に武器たちとお金を手渡す。いやぁ、これで戦闘の選択肢が増えたなぁ。それにしてもまた好子さんは腕を上げたようだ。効果の二重付与なんてそこらへんの鍛冶師じゃできないぞ。もしや職業称号の段階を上げたか?


攻略者は、管理局に攻略者として登録する際、ステータスの紙を提出する。つまり世間にはすでにステータスの見方が広まっているのだ。もちろん、これを公表したのは自衛隊で、教えたのは俺。そりゃ、死亡率を減らしてかつ、効率的にダンジョンを攻略してもらうとしたらステータスの見方と、そこからのスキル取得は必須だ。そして、それが広まったことによって称号獲得者が増えたことで、わかったことが一つある。


それが、職業システムだ。


もちろん、実際には職業とかジョブとか呼ばれるものはシステム的にあるわけじゃない。だが、称号で得られる効果には、鍛冶師等の生産職にとって必要不可欠なものがあるのだ。それこそ素材の加工権限。称号によってダンジョン産の鉱石や魔物の素材が扱えるようになる。それを知らなかった頃の俺は、パンドラットを調理しようとして包丁が折れた事件を引き起こした。なんと、ナイフで殺せるゴブリンでさえ、素材として扱おうとした瞬間から権限がない限り一切加工ができないのだ。


これにより落胆したのは生産職を目指そうとした者達。明かに鉄より軽いのにこれまでのどの鉱物、合金よりもはるかに硬い魔物の素材やダンジョン産鉱石。それらを扱えると意気込んだもの達は一様に落ち込んだ。だがしかし、何を隠そう鋼鉄好子本人が表舞台に姿を現したことにより、その現状は覆されることになる。なんと彼女がもたらした、称号『鍛冶師の心得』の情報によると、それを取得しセットすると素材の加工権限を得られるというのだ。始め、彼女は一人で鍛冶を行っていたこともあって、加工権限というものがあること自体は知らなかった。ただ何となくその称号があればとりあえず魔物の素材等が加工できると思っていたらしく。そこで、俺がアナに質問したことで加工権限の存在が露になり、今では何らかの心得称号が無ければこの街では職人と呼ばれないまでになった。


そんなこともありつつ、絶え間ない努力と、俺がもたらす高レベルの魔物の素材達が、彼女にさらなる進化を与えた。そう、新たな称号『上級鍛冶師の心得』である。これにより、市場の情勢は一気に彼女に傾くことになった。通常の武器を製作しても品質がもともと高い彼女。だが上級鍛冶師の称号を手に入れたことで武装進化のスピードが格段に速くなったのだ。原理は分からない。だがそうなってしまった以上、彼女の武器を扱うことでさらに強くなれるという事実が攻略者たちに財布の紐を緩くさせた。さらにさらに彼女のもとで働きたい。彼女の技術を学びたい、そういった志願者達が続出し、今ではこの商業区に数店舗を構える大型商会となった。


と、そんなことを考えつつ、好子さんと影光の談義が終わるのを待っていると、外からどたどたと通路を走ってくる音が聞こえた。この足音の大きさ重さからして、職員ではなく、重装備の攻略者あたりだろうことが予想される。


そしてすぐに足音はこの部屋の前まで到達し、勢いよく扉が開け放たれることとなった。


「おい!俺は好子とかいう鍛冶師の武器を買いたいんだ!それなのに彼女はいませんの一点張り!おまけに現物であるのは数点、どれも俺が欲しいものじゃない!どうなってんだこの店はよ!てっ、おうおう、てめーが好子か!それにこの装備達はなんだ!得意様に媚びて下々の者には売らないってか!?なめてんじゃ―――」 


「その辺にしとけ、な?」


「ひいいいぃぃぃ!!!」


俺は急に入ってきて大声で捲し立てる訳の分からん奴に優しくする義理はない。

よって、一瞬で間合いを詰めて、その肩に手を置き、骨を折らない程度に力を込めてやった。一応、様になるように一段低い声で脅しをかけたつもりだが、明らかに肩に生じた急な痛みにおののいている。はぁ、やはりもうすこしダンディですごみが出せるようになりたいところだな。


痛みからの驚きから少し正気へと戻った男は、俺の顔を確認して自分より若いと考えたのか、急に余裕そうな表情を向けてきたので、せっかく緩めてやった手を再度力いっぱい握ってやった。


「いってぇーな!!!放しやがれこのガキが!」


つい先ほど一瞬で間合いを詰められた実力差も忘れて背中に背負った大剣に手をかける男。おいおい、こんな間合いで、しかもそんなデカブツを振り回そうなんて馬鹿なんじゃないか。実力差を理解してそれでも挑んでくる気持ちがある馬鹿野郎ならいいが、差も理解できず、単純にキレただけで武器を握る愚か者に興味はない。


「よっと。」


血殺憤鬼けっさつふんきを素早く抜き放ち、肩を掴んでいた手で武器を持つ手を抑え、もう片方で血殺憤鬼を首元にあてがう。後出しで動きを封じられたことでさすがに嫌でも実力差を理解させられたのか、それともただ単純に殺気にあてられたのか、どちらにせよ玉のような汗を書き出した男は、すまない、悪気はなかったと言い訳を始めた。


とりあえず、聞くに堪えなかったのでぶっ飛ばした。腹に一発膝蹴りを入れた途端にきゅうーっと情けない音で息を吐きだした男はその場にどさりと倒れる。なのですみませんがと断りを入れて職員の方に片付けを頼んだ。いそいそと三人がかりで重装備の男を引きずっていく様を見届けた俺は扉を閉めて室内のふたりに向き直る。


「いやぁ、あの人結構名の知れたパーティーのタンク役だったはずだよ。それを膝蹴り一発って。」


「好子さん、勝利さんはこういう人です。面白いからという理由でゴブリンキングと素手で殴りあるような人なんです。あの人くらいじゃ、この人は止まりませんよ。」


「そのなんだ。俺は悪いことをしたわけじゃないと思うんだが。」


なぜか呆れた表情を向けられた。心底納得できないがここで抗議をしても意味がないだろうから仕方なく受け取ろう。


「それよりも、好子さん。俺さ、ちょっと作ってみてほしいものがあるんだ。」


「へぇ、あんたが珍しいじゃない。それで?」


俺はここ最近実感していたとあることについての話からすることにした。


「それがさ、俺気づいたんだけど、武装が斧と刀と短剣って、重たい攻撃を受け止める手段が素手しかないんだよな。そうなると今後困りそうだからさ。こう、ずばっと展開できて尚且つ邪魔にならない、バックラーサイズの盾を作ってほしいんだ。」


「・・・あんたね、バックラー云々はともかく。展開するってことは普段小さくなるってことよね?それだと耐久力が疎かになることは自明の理。それを作れって?あんたが素手で受け止めきれない攻撃を防ぎきる白物を?・・・・・・めっちゃ面白そうじゃない。」


好子さんは外に出ると途端に年齢相応の話し方になる。だがしかし、この館、特に鍛冶に関することだけは、職人気質の男勝りな話し方になる。そしてそれが今、眼光さえも鋭くして目の前の面白そうな課題に舌なめずりをしている。好子さんは俺と同じ類。自身の興味があることにすべてを注ぐタイプ。その本性が今、完全にむき出しとなっていた。


これは、もしかしなくても期待できるかもしれない。


こうして俺は、新しい装備の完成を心待ちにするとともに、購入した武器の性能チェックを楽しみにしながら家に帰ることとなった。ちなみに影光君は自分の新しい装備候補を見たいというので先に俺だけ帰ることにしたのだった。


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・ダンジョン攻略進捗状況

『不知火勝利』

・到達深度  →不知火邸ダンジョン六層攻略途中、その他、複数のダンジョンを平均して4~5層。

・討伐関連  →タンクカウクイーンやその他複数の新種を討伐。

・レベルアップ→なし ※現在Level.6

・スキル   →斧術(特殊開放第三段階)・剣術:タイプ『刀』(特殊開放第二段階)『短剣』(特殊開放第一段階)・暗視・マッピング・体温一定・敵意感知・心眼・疾駆・剛力・戦気

・称号    →セット『討伐者の行進スレイヤーズパレード』・控え『討伐者』系統多数『最速討伐』『不倒不屈』『無慈悲の一撃』『剛力粉砕』『災いの種:タイプ****』


・攻略状況一覧

 各地で魔物の異常発生が数件確認された。

 行方不明者の数がここ最近急激に増加している。原因は自衛隊が調査中。


・【最*】系保持者情報

 『最速討伐』→不知火勝利しらぬいしょうり

 『最大射程』→水川英理みずかわえり

 『最大威力』→柳日向やなぎひなた

 『最大精度』→榊原健次郎さかきばらけんじろう

 『最多殺人』→****

new!『最大防御』→****  etc.

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