(2-2)それぞれの現状は・・・
蜘蛛の子を散らすように、ゴブリンたちが周囲の林に消えていく。絶対的な支配者の消えた今、彼らがまた集団としての強さを発揮するようになるには時間がかかるだろう。半年前ぐらいに俺が腕試しでゴブリンキングを狩ったっきりここには来ていなかったからなぁ。ホブゴブリンも多くいたし、まだ一般人の到達深度が三層レベルだから苦戦するのは仕方ない。だからこの下に行く途中で適度に間引こうかと考え走り回っていたわけだが、まさか剣心に会うとは。
とりあえず積もる話もあるだろうし、こちらから歩み寄ることにしよう。まさか俺が攻略者をやっているとは思ってなかっただろうしな。それを言ったら俺も剣心が攻略者をしているとは思わなかったわけだが。それに、よく見れば周りの奴らも高校の時に見かけたことがある気がする。名前までは覚えてないけど、まぁいっか。
「よっ、剣心久しぶりだな。どうよ?俺は強くなったぜ?」
「・・・覚えてないんだな。・・・ああ、久しぶりだ。まさかこんなところで会うとはな。助けてくれてありがとう、おかげで友達を失わずに済んだよ。」
「いいってことよ。皆高校の時の同級生だろ?半年で三層にたどり着いた若い攻略者たちがいるって聞いてはいたんだが、もしかしなくてもお前たちか?」
「お前に知られているとは驚きだよ。それよりも、俺はお前の変わりように驚いてるな。ゴブリンキングなんて、一人で討伐できるような奴じゃないだろ。・・・それに、お前レベル隠してないし。」
「ああ、俺はダンジョンが出来てからずっと違うところに潜ってたからなぁ、レベルが上なのは仕方ない。それより、やっぱお前はいいもん持ってるよな。あちこちに切り傷があるゴブリンの死体が転がってたが、どれも達人の域のキレだった。また成長したのかよ、こりゃうかうかしてらんないなぁ。」
「・・・・・・そうだな、そうだ。俺はまた強くなったぞ。技術だけなら誰にも負けない。レベルが上がったら、前みたいに勝負しろよ、そんで勝たせろ。」
「ははは、今度は俺も負けないぜ?ダンジョンで鍛えた力は伊達じゃないからな。それじゃ、今度は魔法̪士を一人にするようなへまはするなよ?結構接近戦の素養はあるみたいだけど、それじゃ魔法の強みを生かせないからな。そんじゃ、またどこかで!」
一応、俺も急ぎの用事があるのでここらでお話は終わりだ。少し名残惜しいが、剣心もこちらの道に進んだなら今度外で会うのもありだろう。そしたら俺が経験した色々を語って驚かせてやろう。そこらへんの攻略者よりはよっぽど経験だけは多いからな。
そんなことを考えながら、俺は二つ下の層へ繋がる縦穴へ向かって走り出す。後方で手を振ってる女の子がありがとうと大きな声で言っている。だからそれに後ろ手で返事をしつつ、林の中に飛び込んだ。
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「ありがとおおおぉぉぉ!!!」
剣心との話が終わったと思っていたらすぐに林に向かって走り出す不知火君。まさかとは思うけど私のこと覚えてない?一応、高校の時は隣の席で、良く剣心を交えて話してたと思うんだけど。あれ?私そういえば剣心としか話してなかった?そういえば不知火君とはまともに話したことないわね。それなら仕方ないわ。
「それにしても、彼、強かったわね。急に現れたときも、ゴブリンキングに刀を振るった時も、挙動が全く見えなかったわ。こっちはようやくレベル3に上がったっていうのに、上には上がいるもんねぇ。私、少しスタイルを変えようかしら。・・・剣心、聞いてる?」
「あ・・・おう、聞いてるぜ。そうだな、俺ももう少し頑張らないとな。・・・あいつに、追いついてると、思ってたんだが、まぁ、大丈夫さ。俺は天才だ、それに努力もしてる。すぐに追い越してやるよ勝利。」
「はぁ、話がかみ合ってないことにも気づかないのね。ほら、さっさと行くわよあんぽんたん。今のうちにゴブリンの集落から花を頂戴しましょう。」
どこか遠いところを見ながら葛藤を繰り返す剣心の様子にため息がでる。だけどそればかり気にしていては自分のことが疎かになってしまうし、何より優先すべきは目の前の依頼だろう。だから剣心はそっとしておくことにして依頼を片づけることにした。
皆はいまだに先ほどの蹂躙劇が強烈すげて呆けていた。私だって相手がだれかわかっていなかったらこうなっていただろう。高校の時は剣心のおまけだかなんだか言われていたけど、彼の努力の姿勢は誰にも負けない。事実、何でもかんでもこなしてしまう剣心がライバルとして認めている。私も勉強ではだれにも負けたことなかったけど、彼の理解力には驚かされたわ。というよりも、わからないことを徹底的に知らべてわかるようになろうとするその力に驚いたと言った方がいいかしらね。
ともかく、口をあんぐりと開けてゴブリンの死体を眺めている彼らに素材の回収をさせて私と剣心を含めた数人で花の回収に向かった。
集落に着いて、斥候のスキル持ちにゴブリンがいないことを確認させてから必要な量だけ花を採集した。どれも薄気味悪いどろりとした赤色をしていて、あの醜いゴブリンの心臓と言われると納得してしまう。触れるのも嫌だが、これが病気の治療に聞くというのだからダンジョンは不思議なところだ。それにこの依頼はけっこう稼ぎがいい。だからこそ選んだのであり、その点を含め触らないわけにはいかないのでおとなしく花を丁寧に採集した。
帰り道、複数の魔物に遭遇したが、どれも剣心が一人で出張って一方的に蹂躙していく。その背中は何も知らない者からしたら確かに頼もしい。だが、その単独行動の原因が、幼馴染の急成長に嫉妬しているからだと知ったら幻滅してしまうものもいるだろう。私はもう長い付き合いだからこいつがそういう性格だと知っていて何とも思わないけどね。
ともかく剣心の活躍により、危なげなくダンジョンから脱出した私達は、入り口に設けられている換金所に向かい、そこで依頼の完遂報告と報酬の受理を行った。それを等分し、解散するのがいつもの流れだ。
「それじゃ、帰ろっか。」
「ええ、そうね。」
そしていつものように剣心が私の家まで送ろうと声を掛けてくる。その後ろでは毎度のごとくにやついてこちらを見てくる仲間がいたので、とりあえず魔力を少し使ってほんのすこしスパークを発生させる。おしりにぴりっと電流をくらった仲間たちはがはがは笑いながら晩御飯を何にするか話し合っている。
私としてはそちらに混ざりたい気持ちでいっぱいだが、剣心が送ってくれるというのだから無下には出来ない。そしていつものように二人で夜道をてくてく歩いていくのだった。
その背を、眺めているものがいるとも知らずに。
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「遅いです!」
「すまん!」
急いで下層へと向かった俺は、待ち合わせをしていた女性に怒られてしまう。
どうやら予定の時間より少しオーバーしてしまったようだ。反省反省。
「どうせいつものごとく寄り道してたんでしょ!勝利君はダンジョン待ち合わせにすると絶対遅れるんだから!もうこれからはしっかりとダンジョン外で待ち合わせですからね!」
砕けているのかそれとも敬語なのかわからない口調で怒るのは半年前、ダンジョンを一般開放することが決まった時に榊原さんから紹介された女性だ。
なんでも、腕は良いが女だからと実家の刃物店を継がせてもらえなかったことで山奥で荒れていたところ、ダンジョンを偶然見つけてそこに潜ることに決めたというはちゃめちゃな人で、時間にルーズな俺はいつも怒られてばかりだ。そのほとんどが人助けだからそこまで本気で怒られたりはしないが、さすがにそろそろこの癖は直さんといかんな。
「まったく、次遅れたら紅丸で切り刻みますかね。」
「ちょ、さすがにそれはシャレにならん。そいつ呪い持ちだろう、そんなん喰らったらさすがに動きが鈍っちまう。」
「あのね!私の紅丸で切られたら普通、麻痺して動かなくなるんですからね!勝利君は異常です!」
顔を真っ赤にして紅丸と呼ばれるショートソードを振り回す女性、
「それじゃ行こうか。この先は我々とて未知の領域。・・・と言ったところで勝利君の興奮を煽るだけだね。」
「そうっすよ榊原さん。早く行きましょう、ここのダンジョンの進化系なんですよ!ということはまだ見ぬ強敵が、ワクワクが!」
若干呆れ気味の視線を俺に向ける榊原さん。まぁ仕方ない。最近は誰それに勝つというよりも、俺が超えられない者を超える、勝利することの快感が癖になっちまってる。そして進化系ダンジョンは階層を超えるたびに強敵が現れる。願わくば階層主級が現れてくれるといいんだが。
「はぁ、君がいくら最高深度攻略者だからといって、私達には関係ないことだからね。君一人が生き残るんじゃ意味ないんだよ。そこのところわかってるの!?」
「水川さん!そうかっかしてると老けますよ!」
「だまりゃっしゃい!」
水川さんは最近俺の躾役みたいになっていている。確かに、俺はダンジョンのことばかり考えて独断行動してしまうことが多々ある。ほんと、苦労かけてしまって申し訳ないと思っている。だからこそ。
「頑張ります!俺が全部倒して、それで皆さんのことを守ればそれで済む話です。そうできる力もありますし、何より俺は馬鹿じゃない、きちんとそこらへんは考慮してますよ。ここよりももっと凶悪なダンジョンの六層まで行ったのは伊達じゃないのは、水川さんだって知ってるじゃないですか。それじゃ、行きましょう!」
「はぁぁぁ・・・、そういうところも踏まえての助言なんだけど。仕方ないわね、これまで何度も助けられているし、一旦様子見してあげましょう。」
「ははは、水川、そう母親みたいなこと言ってると結婚でき、痛い!どうして好子さんが!」
「女性の敵の発言が聞こえたのでつい。あ、心配しないでください、呪いのついてない武器でちょこっと刺しただけなので!」
「そこは心配していなかったかな!?」
こうして緩い雰囲気で俺達はダンジョン攻略に向かう。なにも、油断しているわけではない。ただこれまで積んだ実績と、何より達成したレベルが自信をつけさせているのだ。それに緊張しすぎるとろくなことがない、これはこの一年で学んだことの一つだ。いろいろ失敗はしたが、その中のいくつかは緊張による失敗だった。だからこそ、俺達は最大限の慎重さと最大限のリラックス、両方を合わせることでダンジョンに全力で挑んでいるんだ。
そうして進むのは、進化を含めた生態系を築くタイプのダンジョン。その5階層。自衛隊が管理してる攻略者たちの情報を元に、どこのダンジョンでどれくらいの情報が必要かを判断し、不足分を実地調査にて行う。それが今回の依頼の発端であり、俺が収入源の一つとして積極的に受けている依頼だ。
もちろん、この依頼が一般に第一陣と呼ばれている攻略者たちに出回ることはない。半年前のダンジョン解放時にどっと押し寄せた人々でさえ、未だレベル3がせいぜいといったところだからだ。だからこそ、ダンジョン出現当初から潜り続けていて、尚且つ自衛隊との協力体制を築いている者が招集をかけられる。最近では、攻略どころではない時期からダンジョンに潜ってることを揶揄して冒険者とさえ呼ばれだしている俺のような連中は、遅かれ早かれ自衛隊と協力せざるを得ない。なぜなら、様々なダンジョンに潜るにはやはり自衛隊の許可が必要だし、なにより武器防具の整備は工房を構えている職人に頼らねばならず、そういった工房はダンジョン商業区と呼ばれる、ダンジョン管理局で攻略者として登録しなければ入ることさえできない特別地区に密集している。結果として最前線を攻略するなら装備品の充実をしなければならず、であれば自衛隊との協力関係を築いてむしろ優遇してもらった方が手っ取り早い。こうして力を持つ者と持たざる者たちを管理してる自衛隊とのバランスが保たれているのだ。
ちなみに、自衛隊に自ら入り、商業区での暴動鎮圧やレベルを得たことで凶悪犯罪に走る厄介なバカ者達を狩る役職に着いたりと、副次的な治安維持効果を発揮することもしばしばあった。
そういった諸々の事情を踏まえ、俺はこうして様々なダンジョンに潜ることが出来ている。それならば最大限に暴れまわって、その中で有用な情報を手に入れることが最善手だろう。と、いうわけで。
「ずおりゃあああああ!!!!」
4層、3層の疑似太陽とは異なり、上層から貫く無数の縦穴から照らされる夜のような景色を広げる5層にて、俺は平原を疾走する。
両手に
「待ちなさーーーーーーーーーーい!!!!!」
後ろで叫ぶ水川さんを置き去りにして。・・・もちろん、狙撃手たる彼女を守護するのは銃剣を巧みに扱う榊原さんとウォーハンマーで敵を粉砕する好子さんがついているので心配はいらない。
俺の役目は、特攻隊長だ。狙撃手に近寄らせず、尚且つ十全に力を振るうためにはこれがベストなのは俺が一番わかっている。ただ何も言わずに走り出したのがまずかっただけだ。水川さんには後から謝ろう。
それに考えなしにただ特攻するわけではない。目標である巨体の猛牛、タンクカウの突進がトップスピードになる前に止めなければいけないと考えたからだ。
「ぎゅもーーーー。」
間の抜ける鳴き声とは裏腹に、その加速は正に戦車。これが最高速度に到達すれば、さすがに俺でも止めきれない。
最短最速、タンクカウの正面から直線上を走り、そして剛斧でダンクカウの顔をかち上げる。
「ぎゅぼっ!」
分厚い肉が邪魔をして斧が正面から当たったというのに大した傷にはならない。だが、確実にその勢いは止められた。更に頭がかち上げられたことによりできた空間に滑り込み、海割を水平に振るう。前足の一本から鮮血が噴き出し、再度の突進を阻止。ダメ押しとばかりに歩みを止めたタンクカウの横っ腹に身体の回転を加えた斧の一撃。三回の攻撃でタンクカウの突進を止められたのだからなかなかの戦果だろう。
そしてとどめの一撃。顔すらも覆う分厚い脂肪と、更にその奥にある、海割でも断ち切れない超硬度を誇るその頭蓋をぶち破る弾丸。水川さんの真骨頂、遠距離からの最大火力の銃弾でタンクカウの頭蓋を破壊する。
「うん、俺がやらなくても水川さんの一撃でケリがついたな。」
「だから水川が止めたんだよ勝利君。まったく、君、ただ戦いたかっただけでしょ。」
「はは、何のことだか!それよりも、今のでどんどん集まってきてますよ。」
「みたらわかるよ。水川の周囲は好子さんに任せるかな、索敵には何も引っ掛からなかったし、好子ちゃん以外にも、彼がいるしね。」
「確かに、気配が薄すぎて忘れてました。それじゃ、一緒に暴れますか?」
「そうだねぇ、俺の戦闘スタイルは暴れるという言葉は似合わないけど、君がそういうならその誘い、乗ってあげようじゃないか。・・・これじゃ悪役の言葉みたいだな。それじゃ行こうか。」
タンクカウは、群れる。そして斥候のように集団の外側を徘徊する一匹が特攻し、それでも片が付かなければ、群れが一斉に特攻していく。
「あ、あれ一匹進化してますね。タンクカウキング?ピンクだからクイーンかな?とりあえず命名は後でするとして、様子見します?」
「君がそんなことできないのはもうわかってるよ。雑魚狩りはこちらに任せて君にはあれをお願いしようか。」
そういって先んじて駆けだす榊原さん。俺は任された獲物、タンクカウよりも二倍でかい全身ピンクで4本の凶悪な角を生やす怪物を見定める。
群れの中心で、滴るよだれをそのままに猛進するその巨体へ向けて、俺も一歩踏み出した。後方からは絶え間ない銃弾の音、そして時折風切り音を響かせて明らかにおかしい威力を備えた弓矢が飛来する。見る見るうちに削られていくタンクカウの群れ。その合間を縫って、俺はクイーン(仮)に接近した。
「ぎゅごぉぉおおお!!」
自身の配下を、ひょっとしたら子供たちかな?ともかく仲間を殺されていくことに憤怒の声を上げるクイーン(仮)。俺はタンクカウの巨体を利用し、姿をくらましつつ、徐々に徐々に猛牛の長に近づき、そして跳躍した。
「背中、取ったぜ!」
着地したのはこの平原で一番高い場所。猛牛の長の背は非常に見通しが良く、その首の付け根も良く見えた。
「よし、体表に毒もなし!特殊行動もなし!膂力は数倍上、おまけに身体も引き締まってて筋肉の厚みも段違い、タンクカウより一層硬いか、うん。問題なし。」
これくらいなら、俺の家のダンジョン、その5層で出会った階層主の方が硬いし硬いし硬い!つまりは、これくらいなら全力出せばぶった切れるってわけだ。
「ぎゅっもう!!!」
突進の勢いを上げ、俺を振り落とそうと疾走する猛牛の長。水川さんの銃弾や、彼の弓矢がしきりに顔に当たるが、致命傷にはなっていない。むしろ目や口や鼻に当たるのを避けるように顔を振ったりしているのでこいつを水川さんたちが仕留めるには苦労するだろう。
結論、だったら俺が終わらせる。
「剣術特殊開放:第二、発動。」
自身の限界へと至る祝詞を捧げ、漲る力を解放させる。
この一年で手に入れたのはなにもレベルだけじゃない。むしろ育て上げたのはこちらの方。硬くてでかいやつならこいつが一番効く。
激しく揺れる背中でバランスを取りながら二本の足でしっかりと立つ。
そして
「『大切斬』」
大上段に構えた海割。銀の刀身が、月明りのようにうっすらと金色を帯びながら、するりとその刀身を伸ばす。三日月のように反った長刀が一度振り下ろされる。軌道を描く際、三日月に沿ったその刀身が鞭のようにしなり、俺の動きに合わせ、蓄えられた力を解放。風を切る鋭い音が響き、刀身が元の形を取り戻したと同時に、ずるっと景色がずれた。
周囲を取り巻く雑魚数体を巻き添えにし、猛牛の長の首が綺麗な断面を晒しながら地面にどさりと落ちる。都合、下方に向けて放った一振りの延長線上にあったものは等しく、断ち切られる。直線が大地に穿たれ、その直線の上にあった生命体はその身体のどこかを一文字に分かたれた。
まさに必殺の一撃。剣術スキルを持ち、一定の実力を持つものがスキルポイントを犠牲にして得られる特殊開放、その第二段階の技『大切斬』。
鞭のようなしなりと射程、そこから生み出される遠心力、そして通常の数倍引き上げれれる切れ味が合わさり、ことごとくを断ち切る必殺技を放った俺は、慣性の法則に従い数メートルの距離を移動した巨躯が倒れる前にひょいっと飛んで地面に着地。どさりと重たい音を響かせその身体を横たえた猛牛の長の横に立ち、新たな標的を求め視線を彷徨わせる。
だがそこには果敢に突進を繰り返していたタンクカウはどこにもいない。あるのは頭を打ち抜かれた死体、体中に切り傷と弾痕を残した死体、矢が脳天に突き立ったままの死体など、とにかく死体だらけだった。
なるほど、俺がロデオを披露していた間に雑魚狩りは終了していたわけか。やはり今日の仲間はとりわけ頼りになるようだ。
「榊原さーん、タンクカウっておいしんですよね!」
「ああ、だがこれだけの数は持って帰れないぞ!」
「じゃあ、この牝牛だけでも持って帰りましょうよ!絶対おいしいですって!俺が切り分けますから、後は影光君に収納してもらいましょう!」
「あの、こんな巨体いれたら収納量の限界を迎えてしまうのですが。」
俺が榊原さんに提案すると、そこに男がおずおずと話しに入ってくる。
伸ばしたストレートの髪、不安げな表情とは逆に引き締まっていてすっと背筋が伸びた、スレンダーとすら表現できそうな長身の
彼はダンジョン攻略で必須ともいうべき斥候系のスキル持ち、かつ弓の名手。そして貴重なスキルである収納を有している。だからこその俺の提案だったのだが、俺は即座に彼の言葉を否定する。
「いいかい影光くん。おいしいものは、何よりも大切なのだ!」
「ほんと、榊原さんまで頷いてるし、男の子ってどうしてこうなのかしら。」
「あの、僕を一緒にしないでください・・・。」
好子さんが呆れるように言葉を漏らし、それに対してあらぬ風評被害を喰らいそうになった影光君が小さな声で反論する。ともかく、いきなりの新種との対面は無事勝利で終わった。
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勝利たちが探索をしている時、剣心は日向を家まで送った帰り道を歩いていた。
あとは家まで帰るだけなのだが、先程から着かず離れはずの距離で跡をつけてくる輩がいた為、どうしようかと真剣に悩んでいる最中だった。
このまま、家を知られるわけにもいかない。というか、日向の家を知られてしまった以上、目的を聞かなければならない。結果として、一旦尾行を巻くために、角を曲がった瞬間に一気に駆け出すことにした。したのだが。
「やぁ!そんなに怖がらなくてもいいよ?僕らは君の行動に興味があったんだぁ。」
身綺麗な格好、黒いロングコートをきっちりと前で締め、ニタニタと不気味な笑みを浮かべた、如何にも怪しいです感満載の男にそう言われてもどうしたらいいかわからない。とりあえず、背負った大きめのバックから武器を出す時間を作らないと。だけど、不用意な事をすれば、後ろ手に隠されているであろう何らかの武器で攻撃されかねない。とにかく、一旦話を合わせよう。
「俺の行動?一体何のことだ?」
「三層、ゴブリン、仲間、失態。そして、ああ、これが一番興味深かったよぉ。嫉妬、それもぐつぐつと煮え立った鍋のように不安定な激情に蓋をするその行動。負けたくなかったねぇ、きっとずーっと下に見てきたんだろうねぇ。自分は教える立場?それとも守る?どちらにせよ、君の内心の葛藤はとても興味が湧いたんだ。どうだい、その嫉妬、吐き出してみないかい?」
そう言って男はその背に隠していた何かがこびりついたナイフをこちらに向けた。途端に変わる雰囲気。圧倒的な強者。絶望的な戦力差。そして叩きつけられる極大の恐怖。たったナイフ一本。振るっても届かないであろう距離なのに、まったく安全圏として捉えることが出来なかった。この感覚は、追い込まれた勝利に似ている、それを数倍以上に高めたのが今の俺の感じているもの。
それと同時に、きっと今の勝利の本気もこれくらいなのかもしれないと、考えてしまった。俺程度では何もできない。いつかは追い越せるかもしれない、だけど今はまだ無理。そのことが、何故かとてもじゃないが許せなかった。
そして湧きあがる劣情、嫉妬、憤怒。
全てがないまぜになって、ぐちゃぐちゃになるまでこねくり回したような表情を、俺は浮かべているのだろう。その証拠に、対面にいる恐怖の対象は、今日一番の笑みを浮かべていたから。
「ああ、ぁぁぁああああああ!!甘美!素晴らしい!!!その表情、その表情こそ、僕が見たかったものなんだ!さあ、もっとぶつけてくれよぉぉぉおおおお!」
一歩踏み出しただけなのに、前方の景色が黒一色に塗り替えられたかのように錯覚してしまうほど強まる殺気。咄嗟に背負っていたバックを前方に投げれただけでも俺からすれば及第点。そして、自分が無意識に行動できたことで少しばかりの平常心を取り戻し、バックを切り裂かれ地面に事がった相棒を拾い上げる。すぐさま視線だけを上げれば、首筋を狙って滑るようにして迫る血濡れのナイフ。それを寸前で躱し、鞘から抜刀しつつ切りかかる。だがひらりと躱されただけで俺の剣は空を切った。
再度向かい合う形。先ほどと違うのは両者が武器を構えていること。
思考はすでに戦闘のそれ。どんどん冷静になっていく頭に、熱を帯びていく体。心技体揃った今、俺はベストな動きが出来ると自負できる。
そしてそれでも敵わないと理解させられる。無理だろう、強すぎる。
「くそがぁぁああああ!!!!」
抗う様に咆哮。覆す為に前進。必定する敗北。
瞬く間に全身に裂傷を受け、膝を突かされる。
「かはっ!」
「いいよ、いいよそれさぁぁぁ。僕を相手にして、こんなにも死が近づいているのにも関わらず、君は僕を見ていない死を見ていないっ!!!素晴らしい!!!!・・・・・ふぅ、熱くなってしまったね、いつも同僚から怒られるんだ、僕はやりすぎちゃうってね。僕たちの目的は、君に提案することだったんだよ。その提案ていうのがね・・・・・・・・」
この夜のことを、俺はこれからあと何回、思い出すのだろう。
すべての歯車が、少しづつ少しづつずれていく、そんな日々の中で。
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・ダンジョン攻略進捗状況
『不知火勝利』
・到達深度 →不知火邸ダンジョン六層攻略途中、その他、複数のダンジョンを平均して4~5層。
・討伐関連 →タンクカウクイーンやその他複数の新種を討伐。
・レベルアップ→3アップ! ※現在Level.6
・スキル →斧術(特殊開放第三段階)・剣術:タイプ『刀』(特殊開放第二段階)『短剣』(特殊開放第一段階)・暗視・マッピング・敵意感知・心眼・疾駆・体温一定・剛力・戦気
・称号 →セット『
・攻略状況一覧
ダンジョン一般開放により、多量の攻略者が生まれる。制限が掛かり、法の再調整や施設を整えたのち、第二陣の受け入れが始まる。
死傷者が続出するも、莫大な資源が生み出される利益によりダンジョンの開放が継続される。
ギルド『紅花月』の出現により、ダンジョンでの対人戦スキル構成が見直される。また、ダンジョン内であれば生け捕りもしくは殺害の許可を出すという異例の処置が成され、懸賞金もかけられた。これにより、賞金稼ぎが続出した。
・【最*】系保持者情報
『最速討伐』→
『最大射程』→
『最大威力』→
『最大精度』→
new!『最多殺人』→**** etc.
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