第41話「ただ強いだけの雑魚なんて相手にならねぇよ」

 僕はコントローラーを握り直すと深く息を吸った。


「すぅ。良しっ!!」


 僕は体勢を低くし、走り出す。

 群がるゾンビを切り伏せ、ゾンビオーガへと一直線に向かう。


「ガアアアッ!!」


 ゾンビオーガは僕を見止めると、拳を振り降ろし、周囲のゾンビごと潰しにかかる。

 くるりと回転し、拳を避ける、ついでに腕に一撃加える。

 

 ふところへ潜り込むと、胴体部を数回斬り込む。

 ゾンビオーガの挙動から次の動きを把握し、繰り出されるアッパーを紙一重で避けつつ、振り上げられた無防備な腕を斬りつける。


 そんな僕の様子を見ながら、スティングとニョニョは余裕の雑談をしていた。


「いや、やっぱスゲーなティザンは」


「でもあんたの方が強いんじゃない?」


「いやいや、俺はかなりのダメージを貰いながらだからな。ノーダメージでの攻略は無理だ。それに、俺がティザンに勝てるのは、外での1対1に限りだ。室内でこそあいつの本領が発揮されるんだぜ。ただ強いだけの雑魚なんて相手にならねぇよ。ほら、見てみろよ!」


 そんな言葉が自然と耳に入り、めちゃくちゃ恥ずかしい。

 雑念が多かったせいか、いつの間にか、壁に追いやられており、逃げ場が無くなる。


 ゾンビオーガはチャンスとばかりにタックルを仕掛ける。


 僕はそれを壁を蹴って避ける。

 スキル、『壁走り』。5秒間、壁や天井などのオブジェクトに足をつけるスキルで、回避に役立つが、その使用の難易度からあまり覚えるものはいない。


 僕は今度は天井に一瞬張り付くと、すぐに自由落下に身を任せる。

 そして、そのままゾンビオーガのうなじを斬りつける。着地と同時に足を襲い、相手が振り向くのに合わせ、喉を突き刺す。


「なかなかしぶといっ!」


 そう声に出したとき、暗殺スキルが点灯し、ゾンビオーガのHPが残り1割を告げる。


 僕はゾンビの群れに飛び込み、ターゲットを外す。

 場所がばれないように、ゾンビの攻撃を避けるけど、反撃はせず、縦横無尽に駆け抜ける。


 ゾンビオーガは完全に僕を見失い、次のターゲットとしてニョニョ達を選んだ瞬間。


 スキル、『暗殺』

 狙うべき点が首筋に見える。


 バッと飛び掛り、一閃っ!!


「ガッ? ガガガガガッ……」


 まるで死んだ事も分からないかのようにゾンビオーガは足を一歩出しながら倒れていった。


「おっ! 終わった様だな。ほら、凄かっただろ?」


 スティングはまるで自分の事のように自慢する。


「ええ、強いのは知っていたけど、本当に凄いわ」


 ニョニョは驚いている様でありながら、どこかほおけている様にも見えた。

 頬も少し赤みがかっており、僕はニョニョの疲労が心配になっていた。


 だから、励ますように声を掛ける。


「あとは、座谷さんを広場まで守るだけだから、頑張ろうッ!」



 僕らは座谷さんに回線や電源を切られても大丈夫な様にしてもらってから部屋を出た。


 スティングを要する僕らに座谷さんを守りながらゾンビの群れを突破するのは、そう難しい事ではなかった。


「到着ッ!!」


 僕は広間の扉前にいるゾンビを切り裂きながら、叫んだ。

 

 扉を開けると、座谷さんをまず入れてから、ニョニョ、僕、スティングの順で広間へとなだれ込む。


 いつの間にか時刻は流れ、すでに夜明けを迎えていた。

 あと数時間で10時になる。そうなったら、とうとう『イーノ』から次期会長を通達される。

 

 バッテリーも回線も万全で、数時間なら余裕だろう。

 ここはセーフティがオンになっているはずだからモンスターも入って来れないし、安全だろう。


 これで座谷さんを守るという依頼は果たされただろう。


 僕は安心感から急激な睡魔に襲われ、ウトウトとしていた。

 そして、そんな中、夢の中でイーノの姿を思い出していた。

 あれ? この人って……。


 ぼんやりと何かが分かりそうなとき、バァン! と広場の扉が開け放たれた。


 10時まで30分を切った頃、その人物はいけしゃあしゃあと現れた。


「お~いっ! どうしたんだ? 幽霊でも見たような面して! なんとかゾンビの群れから生き残っ――」


 扉から現れた番匠谷さんは、座谷さんを見つけると、まるで幽霊を見たかの様に血の気の引いた顔を見せた。


「どうしたんですか? まるで予想外の人物がいたみたいな顔をなさって」


 満面の笑みをもって問いかけるニョニョに、番匠谷さんは、どもりながらも、「い、いや、別に」とだけなんとか言ってのけた。


「ずいぶん動揺しているけど大丈夫ですか? それとも、一度家を離れて色々やっていたから疲れているのかしら?」


「大丈夫だって言ってるだろッ!!」


 軽薄そうな印象からは想像もできない怒声を発するが、今の僕らには全く何の効果もなく、ただただうなしく響くだけだった。


 10時になると、アリーはうやうやしく一礼した。


「それでは10時になりましたので、ここにいる方々を資格者とさせていただきます」


 その言葉が言い終わると同時に、


「ちょっと、待った」


 いつの間にか広間に現れたのは、類家さんと、そして社長の伊坂さんだった。

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