第18話「その質問に意味はないですわ」
僕らは早速行動に移った。
今はとにかく情報が全くない為、何よりも情報収集に重点を置く。
スティングのギルドメンバーが応援に入ったチームで断頭されるところを目撃した人物がいないかはニョニョが探りに向かった。
僕は、その時の敵ギルドに目撃者及び犯人が居ないかを探ることとなった。
「確か、スティングの話だと、相手ギルドは、『だいあもんど』だったな」
すぐにギルドに連絡を取ると、GvGのとき指揮を取っているという人物と接触することが出来た。
待ち合わせ場所はギルド『だいあもんど』のギルドスペース。
ギルドスペースとはギルドを設立すると与えられるスペースで、共有財産を保管したり、作戦会議を行ったりと様々な用途に使える。スペースの広さ、設備の良さはギルドの規模やそこに掛けた金額によっても変わる為、ここの充実さ
ギルド『だいあもんど』のスペースは広さこそ、そこそこにあるが、設備はほとんど整っておらず、テーブルとイスが何脚かと、初期から変わっていないアイテム倉庫があるくらいだ。
僕が訪ねると、テーブルに座っていた男が立ち上がった。
「えっと、ティザンさん?」
「はい。ご連絡させていただいた、灰色探偵事務所のティザンです」
男は、どこか落ち着かない表情からも頼りなさを感じさせる。
体型も小太りなのもそれを増長させている。
これで本当に指揮が取れるのかと不安になるけど、彼のレベルを確認し、大丈夫だなと確信した。
レベル最高値まであと少し。
指揮官は直接敵を倒すことがない為、経験値があまり入ってこない。代わりに勝利時のアイテム報酬が多くなっている。
その為レベルを最大にまで上げているプレイヤーより、これくらいで止まっている方が指揮経験豊富で強い指揮官であることが多い。
「貴方が指揮を担当された、『ぼら』さんですね」
ぼらさんは、僕を確認すると、頭を下げた。
「申し訳ありません。まさか私の指揮下で断頭PKなんて許されざる行いが起きていたなんて。被害に合われた方にはなんと言っていいか」
いきなりの謝罪に僕は面食らった。てっきり言いがかりをつけるなと怒られるのを覚悟していたくらいなんだけど。
「え? いやいや、ぼらさんの所為じゃないですから、それよりGvGのときに、そういうことをやりそうなプレイヤーはいなかったのですか?」
「皆気のいい方々でとてもそんな断頭PKなんてやるはずがありません。ただ、うちは見ての通り中小ギルドです。GvGを募っても50人集まらないことはざらにあって、良く
野良とは特定のギルドや仲間を持たず、誰でもいいから人数が欲しいという時に参加して楽しむプレイスタイルの人達のことだ。
だいたいがエンジョイ勢という楽しむのを第一に考えている為、あまり
「その野良の人達の名前は覚えていますか?」
「いえ、なにぶん一度きりですし、人数も多いですし……。お役に立てず、すみません」
ぼらさんはぺこぺこと何度も頭を下げる。
「いえ、野良が怪しそうということが分かっただけでも収穫です。ありがとうございます」
こちらも負けじと頭を下げ、それから最後に1つ質問した。
「今回、PKされたプレイヤー、『ローリング』さんというのですが、野良の人との噂って聞いたことないですか?」
「いえ、いないと思いますが、あとでしっかりギルドのメンバーにも確認してみます」
その質問を最後にギルドスペースを退室した。
※
「しかし、困った。野良が怪しいとなると、どうやって犯人を見つければいいんだ?」
そんな風に悩んでいると、ニョニョから連絡が入った。
「そっちはどう? 何か収穫はあった?」
僕は手短に先ほどまでの話をする。
「そう、野良っていう人の可能性が高いくらいしか分からなかったのね」
「ニョニョの方は?」
「こっちも目撃者は居なかったわ。だけど、他にPKされたって言うギルドは分かったわ。もしかしたらそっちに目撃者が居るかも」
中々犯人までは辿り着けそうにないけど、とにかく他にも探れるところが出来たのは大きい。
「そのギルド名前は? 僕が調べに行くよ」
ニョニョからの情報ではそのギルドは『女王陛下』というらしい。
早速、連絡を取ってみると、こちらも快く応じてくれた。
ギルドスペースに招かれた僕は、先ほどの『だいあもんど』との違いに唖然とした。
広大なスペースに大型のアイテム倉庫。各種物品も揃い、優雅なスペースとなっていた。
「ずいぶん立派ですね」
僕は思わず感想を口にすると、イスに腰掛ける少女はクスリと笑った。
「ありがとうございます。ワタシは『女王陛下』のギルドマスター、『アリー』です。以後お見知りおきを」
優雅で一部の隙もない彼女の佇まいは、これだけ立派なギルドマスターとして恥じないものだった。
「今回の件はワタシも大変心を痛めています。お力添え出来ることがあれば何でも仰ってください」
僕は対戦したギルドの名前、それからPKされた時の目撃者が居ないかを尋ねた。
「対戦相手は、確か『シュウカク』というギルドだったはずです。それから、目撃者ですけど、その質問に意味はないですわ」
「え? 意味がないとは?」
「だって、ワタシのギルドメンバーがやられたのですよ。当然相手が見つかっていれば、
「要するに、目撃者はいないと」
僕は苦笑いを浮かべながら、答えを返した。
「ええ、残念ながら」
「それから、最後に1つ。PKされた方は野良と繋がりはありましたか?」
「野良? いいえ、『イーノ』はいつもギルドに居ましたし、そうで無いときはよく街中で寝落ちしていましたから、誰か見ず知らずの人と関わることは無かったと思うわ」
そうか……。よく街中で見かけた彼がそうだったのか。
一度も話したことはないが、なんとなく知った気で居た人がいなくなるのは辛いものがあるね。
僕は感情を見せないように礼をすると、ギルドスペースから退室した。
僕がギルドから出て、再び街の中を歩いていると、ニョニョから再び連絡があった。
「ティザン。大変ッ!! また断頭PKよっ!!」
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