第4章 Q.断頭PKって知ってるか? A.暗黙の了解です。
第17話「ごめん。引き受けられないよ」
その日、僕はいつもと同じように張り込みをしていた。
ターゲットがやってくるまでは、動かずただ街の営みを眺めていることしか出来ない。
すっかりそれが日課となり、色んな時間帯にログインしてくる人達の傾向を完璧に把握するにまで至っていた。
けれでも、ここ数日。いつも寝落ちするまでプレイしている人物が現れなくなった事が、心の片隅にずっと引っかかっていたのだ。
それが、まさか、あんな事件の幕開けだとも知らずに。
※
その日の張り込み、尾行を終え事務所へと帰ると、どうやら来客の様だった。
「ああ、ティザンか良い所に帰って来てくれたな」
来客用のソファに座り、僕に親しみを込め話しかけて来た人物は、スティングだった。
以前レイドボス戦を共に戦った中で、今は大柄な体躯にラフなTシャツという前回、事務所で会った時と変わらない格好をしている。
「ティザン。今日は正式に依頼があるらしいわよ。それでご用件は?」
ニョニョが話の先を促すと、スティングに似合わない神妙な顔つきとなってゆっくりと口を開いた。
「GvGは知っているよな?」
スティングからまず口をついて出た言葉、『GvG』。
「ギルド同士の大人数制バトルでしょ。確かCTGでは最大50対50だっけ?」
「ああ、ギルド同士とは言っているが50人も集まらないギルドもあるから、ギルドメンバー以外を招集して共に戦うこともあるんだ」
スティングは今更に公式サイトへ行けばすぐに調べられそうな話を持ち出す。
「俺のギルド、『リバティ』は実戦経験豊富な者が多いし、人数が足りないときによく頼られるんだ……」
スティングは一度口を閉ざすと、拳を硬く握った。
「あの時も俺のギルドから一人、応援に向かったんだ。そこでPKに逢った」
「ん? ごめん、GvGをしに行ったらPKされるもんじゃ。もしかして弱くてPKされるなんて軟弱なッ! ていう話かい? そりゃ、スティングは恐ろしく強いけど、同等の強さをギルドメンバーにまで求めるのはどうかと思うよ」
スティングは首を横に振った。
「すまん。そうじゃない。されたのはただのPKじゃあないんだ!」
「もしかして……」
僕は思わず唾を飲み込む。
あれは暗黙の了解として行わないことになっているはずだ。
仮に知らなかったとしても、そう行えるものではないし、行えるくらいの実力者になれば知っているはずの事なんだ。
「ああ、断頭PKをされたんだッ!!」
聞きたくなかった答えがスティングより
「ティザン? 断頭PKって?」
事の重大さを知らないニョニョの質問に、僕は意を決して答える。
「断頭PKっていうのは、アサシン、シーフ、剣士が使えるスキルにそれぞれ、首を狙って攻撃できるものがあるんだけど、それでトドメを刺した際に首を跳ね飛ばす行為だよ。もちろん、普通の良識あるプレイヤーはその機能をオフにしているし、そもそもプレイヤーに使わない。難易度も高いから使えないって方が近いけど」
「それって運営が禁止にするモーションなんじゃないの?」
ニョニョの質問はまさしくなのだが、それには理由がある。
「これらのスキルは元々、対モンスター用で、決まると派手なエフェクトもついてメチャクチャカッコいいんだよ。ほらニョニョもTVCMでそのシーンを見てると思うけど」
ニョニョは少し、思い出すような仕草をすると、そのCMが思い当たったようで、ポンと手を打つ。
「確かにあれはカッコいいわね。CTGの売りの1つとして出していたわよね」
そのCMはスラッとした
たぶん、スティングなんかはその一人だと密かに僕は睨んでいるくらいだ。
「そう、それを売りにしちゃったから、後から禁止しないんだ」
「でも、別にそれってやっちゃいけない理由にはならないわよね?」
「うん。断頭PKの最も恐ろしいところは、それがトラウマになるって事だよ」
実際に断頭を経験した人によれば、しばらく動くことも出来ず、全身から冷や汗が吹き出して、手足が痺れ、力は入らず、意識は遠のき、首に違和感が現れたそうだ。
そしてそのプレイヤーは二度とVRMMOを行うことはなかったという。
「それじゃあ、もしかしてスティングの仲間も?」
「ああ、日常生活には問題ないそうだが、まだこのゲームをやる勇気が出ないらしい」
そして、断頭が禁止にならない要因の1つに、怖かったというトラウマだけで、実被害が何もないということも上げられる。
確かに、ホラーゲームをやって夜中トイレに行けなくなったと言われても、運営としてはどうしようもないところだとは思う。
一応公式の運営からも、断頭をプレイヤーに行うのは止めるように注意書きはなされているが、ほとんど暗黙の了解のようなものとして皆受け取っている。
「しかも、さらに悪い知らせなんだが、俺のギルドメンバーの他にも何人か断頭PKの被害にあっているらしい」
確かに恐怖が襲うだけで被害はなく、禁止行為ではない。でも、だからといって、それを行うプレイヤーを許す事なんて出来ないッ!!
しかも、複数回行っているだとッ! それは確実に相手に恐怖を与える事を楽しんでいるじゃあないかッ!!
どうしてそんな相手を許せるッ!
どうやら僕は僕の想像以上に腹が立っているようだ。
思わず強く握りしめたコントローラーを一度握りなおすと、僕は頭を下げニョニョへと告げた。
「ニョニョ、ごめん。今回のこれは引き受けられないよ」
僕の言葉を予期していたのか、ニョニョは微笑みを浮かべる。
「ティザンならそう言うと思ったわよ。というかそう言わなきゃティザンじゃないわね!」
しかし、そんな中、1人困惑の表情を浮かべるスティング。
「おいおい。依頼を受けられないってどういう――」
彼の言葉を最後まで聞かず、僕とニョニョの声は揃って告げた。
「「依頼を受けなくても犯人を探すってこと」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます