ヒカリの小さな秘密

「ヒカリちゃん何してるん?」

「い、いや、ちょっとそのね」

「…………」


 ヒカリさんが這い出てきたあと微妙に気まずい空気が流れる。俺も思わず無言のままになってしまっているからな。

 というかあなた達2人知り合いだったのか。いや、それ以上に気にするべきはヒカリさんの装備が明らかにやりこんでる感満載だということだ。

 アバターとかなにかに特化して揃えるならひとつきでそこそこの外面は作れる。でもヒカリさんのはそんなレベルじゃなく、完全に数ヶ月はやらないと完成しないものだ。

 可能性としては丸1日やり続ける廃人プレイを一ヶ月やればできるかもしれないけど、平日は毎日学校で会ってるどころか挨拶してるからそれはない。


「なんか歯切れ悪いなー。あ、ナツさん紹介するわ。ウチの常連さんのヒカリちゃんや」

「うん、知ってる」

「知り合いだったん?」

「まあな……ただ、何ていうか色々と待ってくれ。頭が追いついてない」

「なんかごめん」

「なんで謝ったりしてるん?」


 その後、混乱した頭のままだが一度落ち着いた場所にいこうということになりリヴァイアスに戻ってコノミさんのマイルームにお邪魔した。


「改めてなんだが、その……いやまず確認するがこれコノミさんの前で色々聞いてもいいのか?」

「うん、もうこうなったらしょうが無いし諦めるよ」

「なんかあお……アオみたいな話し方になってるぞ」


 危ないさすがにこの場にいなくてもリアルネームを2人きりでもないのに言っちゃいけない。


「あ、え!? あ、うん、まあ大丈夫。というかもう隠せる気しないし!」

「ウチも混ざっていいんか?」


 コノミさんはそういいながらお茶をくれた。ゲーム内とはいえ腹は膨れないもののあるていどの味覚は反映されて落ち着く。


「むしろ、コノミちゃんは色々とゲーム内の私の証人として証言をお願い!」

「なんで裁判みたいな言い方になってるんかわからんけど、そういうことならわかったわ」


 少しお茶を飲んでヒカリさんも落ち着いたところで俺から話を改めて切り出す。


「それじゃあ、まずはそうだな。とりあえずゲーム歴どのくらい?」

「発売日からだね」

「この前までの格闘系のあれとかは何だったんだ」

「リアルだとゲーマーなのは隠してるからその……一緒に始めるってことになってごまかすためにやってました」

「そういうことか……まあこのゲーム案外フレンドにもクラスレベルとかリアルタイムで使ってる以外のやつ非公開にできたりするもんな」

「できればもう少し隠しておいてくれると嬉しいなーって。その、アオちゃんとかにも」

「まあ別にそこらへんは俺も理解できないでもないからいい。それじゃあ次になんであそこにいた?」

「それは……」


 言いよどんでから俺とコノミさんのほうとチラチラと見ている。


「ウチが関係してるん?」


 さすがにそんな反応されてはコノミさんも気になったみたいだ。


「だ、だってコノミちゃんとナツくんが一緒に歩いてたんだもん! しかも、なんかナツくんの装備とかも変わってたし」

「別にこのゲームだとよくあることじゃないか。装備変更くらい」

「まあせやな。特化でやってるひともおるけど、2~3個平均で育ててる人が一番多いらしいってアンケートでもでてたのみたわ」

「それはそうなんだけど。と、友達の男女2人がそんなふうにしてたら気になったっていうか、そもそもコノミちゃんとナツくんが知り合いなんて知らなかったんだもん!」


 言いたいことはわからないでもないが、それで追いかけるほどの気持ちになるのだろうか。俺もガルドが女子と遊んでたりするの見るけど特に気にはならない。


「……あー、そういうことか。それならあれやヒカリちゃん」

「な、なに」

「ウチは武器のテスター探してギルドに今日行って偶然見つけたのはナツさんだっただけやで」

「そうなの?」


 ヒカリさんは俺の方を確認するように見てくる。


「まあ、そのとおりだよ。今日が初対面だ」

「そ、そうだったんだ」

「もしかして、研究所で戦ってたのヒカリさんか?」

「あ、うんそう。後ろから追っててさすがにあのルートで追いかけるとバレると思って別ルートいこうとしたらはちあっちゃって」


 謎の音とかコノミさんが最初に気づいた後ろの音もこれで説明がつく。全部ヒカリさんが原因だったわけだ。


「しかし、ヒカリちゃんも女の子だったわけやねー」

「何を言っているのかな!?」

「いやいや、言わんでもええよ。そういうことやもんな。じゃなかったらさすがに尾行まではせんもんな」

「何言ってるかわからないなー!」


 コノミさんは何かを察して納得したみたいだ。これは女にしかわからないなにかとかなのだろうか。それなら深く詮索はしないほうがいいかもしれない。


「まあいいか。別にやましいことはなかったしな」

「驚かせてごめんね!」

「いやいや構わん。しっかし」


 色々と頭の中のもやが晴れると次に目が行くのはヒカリさんの姿だった。

 金髪のツインテールでアニメとか漫画の魔法少女的な雰囲気を醸し出しているマジックナイト装備だ。流石に金属部分もあるけどこのゲームは基本デザインは俺の好みにぶっ刺さりだからな。

 とどのつまり言えばかなり可愛い。


「あ、あの、じっと見てきて何かな?」

「いや初期装備とか拳闘士装備の時からなんとなーくは分かってたけど、こうやってガチ装備みるとセンスとかあるっつうか可愛いなって」

「か、かわっ!? いや、まあ可愛い装備好きだから間違ってないけど!」

「ヒカリちゃんかわええよなー。ウチも付き合い長いんやけど、かなりこだわり持っていろんなの集めてるんよ」

「マジか。いつか色々見てみたいものだ」

「そ、そんなに?」

「いや、まあ興味本位ではあるけどな。結局俺も男子だから可愛い姿とか見るのは得しかないから……ってこれ気持ち悪いな。すまん」

「う、ううん大丈夫! ま、まあそういうことなら機会があればいいよ!」

「楽しみにしてる」


 色々と気になることも解決した。その後はログアウトするまでコノミさんにヒカリさんとの思い出とか色々を教えてもらったりした充実した時間を過ごせた。


 少しだけヒカリさんと仲良くなれた気がしたんだけど、マイルームはいってすぐのときとかは青葉みたいだったな。友達が似るなんて聞いたことないけどヒカリさんもとい大川さんも人には見せてない一面でもあるのだろうか。

 ゲーマー隠してた時点であってもおかしくはないか。

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