社会人と学生

 現実では夜も更けてゲーム内でも星空が広がる中、リヴァイアスで喫茶店を開いているクランハウスへと俺は来ていた。

 入り口から中に入って少しハウス内を見渡すと俺に向かって手を振ってる青髪の男を見つけた。俺の待ち合わせ相手のゲームで知り合ったフレンドだ。


「久しぶり~」

「お久しぶりです」


 俺はそう挨拶しながら向かいの席に座る。

 この人は俺と同じくサービス開始のほぼ最初からプレイしている古参プレイヤーのリオトさんだ。細かい年齢は知らないが社会人だと思われる。3月頃から忙しくなってたらしく会うのも久しぶりだ。


「いやぁ、人増えたねぇ」

「あの頃とあんまりリヴァイアスは変わらないですよ。まあたしかにゲーム人口的には増えたんでしょうけど」

「いやいや……僕がやってた頃とこの店のメンバーも変わったしね」

「主要メンバーは次の主要都市のあの……【山岳都市・アルプス】のほうに移動したらしいですよ」

「マジか。僕まだそこまでいってないよ。あれでしょ……あの北のダンジョン突破した先でしょ」

「そうですね」


 久しぶりにプレイ歴が長い人とのがっつりとしたゲーム会話でこれはこれでやっぱり楽しいな。ちなみにアルプスはリヴァイアス周辺のダンジョンや街を攻略して更に高みを目指す場合の次の拠点となる都市だ。


 今話してたとおり北が一番難易度が高く、アルプスに進むための試験的なネームドダンジョンが存在しているわけだ。

 ちなみに俺はパーティでクリア済みだから、いこうと思えばアルプスに移動することはできる。ただ、ガルドがもう少しこっちで商売して準備を整えたいと言ってることもあって装備を整えたりコレクションを集めたりのプレイを最近はしてたわけだ。


 ゲーム内でつながってパーティを組もうとも考えたけど、どうにも時間が合う人が見つからなかったのも原因の1つだけどな。かくいうこのリオトさんもプレイする時間帯が定期的にかぶるならクランや固定パーティを組みたいと考える相手の1人だ。しかし、社会人と学生では難しい。


「もう少ししたら春の忙しさからは開放されるから頑張ろうかな」

「お疲れ様です。時間が合えば手伝うんで呼んでください」

「うん。もしもその時はよろしくね」


 リオトさんはその後、テーブルの上のコーヒーを飲み干しておかわりを注文した。俺もついでに同じものを注文しながら、それをきっかけに別の話に移った。


「それで、最近ナツくんはどう? 学生でしょ?」

「まあクラス替えとかありましたね。あ、あとあれです。リアルクラスメイト数人がこのゲーム始めました」

「いいねー。僕も実は新しく会社はいってきた子がこのゲームやってるって話なんだよね。まあ、会社入ったばっかで彼も最近はできてないみたいだけどさ」

「やっぱ春は忙しいんですね」

「会社とか場所によるけどね。ちなみに、男子と女子どっちだい? おじさんに教えてみ?」


 リオトさんはずいっと興味を持って聞いてくる。この人、ゲームキャラの見た目的には20代に見えるけど絶対そこそこ言ってる気がするんだよな。


「まあ、女子ですね。男子の友達で知ってる奴らはだいたい去年の発売してすぐあたりから始めてる連中ばっかなんで」

「女子人気もこのゲーム高いし、最近上がったからね」

「そうなんですか?」

「うんうん。その反応はナツくんはアプデの情報とかあんま中身読まないタイプだね」

「まあ、SNSとか友達から俺に関係しそうなとこだけ聞きますね」

「わかる。昔は僕もそうだった。ただ、最近仕事でいろいろ情報を読んでおいたほうがいろいろ動きやすい癖がついちゃってね。まあ仕事は置いておいて、前回の大型アプデの時にマイルームで飼えるモンスターの機能とアバター系の制作種類と自由度がかなり上がったらしいんだよ」

「へー。たしかにそれは女子プレイヤー増えそうですね」


 でもパット見のゲーム内男女比は変わったように見えない。元々そこまで気にして見てたわけでもないが気がつけそうなものなのにな。


「ちなみに好きな子だったりする?」

「最近そういう質問多いですけど。リオトさんには前から話してますけど女子友達なんて昔からずっと一緒の1人ぐらいしかいないんですよ」

「幼馴染ってやつでしょ。一人いるだけでも羨ましいけどなー……というか、クラスメイトがやってるのわかってるってことは一緒にやってるのかと思ったんだけど」

「まあ……あれですよ。男女関係なく仲良くなるタイプの女子が始めたみたいな」

「あー。クラスに1人ぐらいはいるタイプだね。まあ、でもいいじゃない。青春しようぜ!」


 完全に思考がおせっかいおじさんモードにはいってるな。


「まあ、好きな子でもできたらアドバイス聞きに来ますよ」

「僕も付き合った経験なんか3回ぐらいしかないけどね!」

「俺は0なんで」

「ほんと男子友達と楽しく馬鹿やってきた感じなんだね。まあそれもわかるけどね――っと気づけばいい時間か」


 おかわりのコーヒーが飲み終わってふと時間を確認したリオトさんはそういう。俺も確認してみると10時を少し過ぎていた。


「明日も仕事だから、僕は今日はこのへんで。いきなり呼んじゃってゴメンね。久しぶりにやったら君だけログインしてたものだから」

「いえいえ、むしろあんだけ仕事忙しい忙しいいって、待ったログインしなくなって心配だったんで一応元気そうでよかったです」

「うん。まあまた落ち着いたらメッセージでも入れるよ」

「わかりました」


 代金を払ってからリオトさんがログアウトするのを見送って俺もゲーム世界からリアルへと戻った。


「さて……寝るか」


 俺はスマホを確認して特に連絡がないのを確認してから眠りについた。

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