EP3 鷲宮夏樹はゲームを更に楽しむ

日野家の唐揚げ

 昨日は残念ながらゲームができなかった。眠い目をこすりながら机の上にどうにか終わらせてから放置しておいた古典の課題を鞄の中に放り込む。そしてその後はいつもどおり家を出た。

 前髪流石にじゃまになってきたからそろそろ床屋でもいこうかなと思いながら教室にたどり着くと珍しいことが起きる。いや、珍しいってほどのことではないんだけど2年になってからは初めてだ。


「おはよ」

「おう、おはよう」


 青葉のほうから俺に話しかけてきたのだ。いつもなら俺が青葉のもとへ行って朝のHR前まで話してることが基本になってたから驚きそうになった。


「なに? あたしの顔なんかついてる?」

「いや、特になんにもついてないぞ」

「そう? なんか変な反応だった気がしたから」


 長年の付き合いってこういう細かいところもバレるもんなのかな。俺は青葉の表情からそういう細かいの読み取れたことないからわからない。でも金田にもよく言われるし俺がわかりやすいだけなのかもしれない。


「あのさ。今日の昼って予定ある?」


 若干変な空気になりかけたところで青葉のほうから話を切り出してきた。これまた珍しい。


「いや、まあいつもどおり適当に今日の昼の気分で1人なり誰かとなり食べると思うけど」

「じゃあ、今日はあたしに付き合って」

「なんかほんと珍しいな……」

「別に食べる時は一緒に食べるじゃん」

「いや、俺が誘うか金田が誘うかがほとんどだろ」

「……そうかも」


 今日の青葉はなんか変だ。まあ昼を一緒に食べようってだけだから深く考える必要もないか。だけど、この空気のままなのもあれだな。


「そういえば、俺昨日プレイできなかったんだけど。お前ってゲームやったか?」

「えっ? まあ少しね」

「そうか。それで、どうだ?」

「まあ……魔法使いをひとまずはやってみようかなって」

「ほほう。属性は何だ?」

「火属性」

「火力重視であれはいいぞー。まあ俺はあんまり魔法系育ててないから、クラス方面で力にはなれないかもしれないが前衛が足りない時は呼んでくれ!」

「はいはい……そろそろチャイムなるよ」

 青葉がそういったタイミングで金田が教室に転がり込んでくる。

「セーフ!」

「ギリギリだなあいつ」

「いつもでしょ」


 そしてすぐにチャイムが鳴り響いた。


 * * *


 午前中の授業をどうにか乗り越えた昼休み。俺はひとまず学校にある購買で適当におにぎりと飲み物を買ってから青葉に言われた校舎裏へと向かう。しかし、校舎裏で話ってなんか告白だとか怪しい話みたいだな。まあゲームとかでしか聞いたことないからへんな期待はしないでおく。


 俺が初めて訪れる校舎裏にたどり着いた時、そこには青葉だけでなくもうひとりの女子がいた。たしか名前は――。


「大川光莉です!」


 自己紹介してくれた。


「あ、うん。え? いやゲームでなんか話してたなぁとは思ってたけど、そんな仲良かったの?」


 教室で2人が仲良く話してる光景なんて見たことないんだけど。


「意外と体育とかだと、私と青葉ちゃんでペアくむことも多いよー? ねっ」

「まあ、そうだね。というか早く食べちゃわない?」

「おう、まあじゃあ失礼するわ」


 女子2人に男子1人だから思わずそんな事を言いながら昼食に混ぜてもらうことになった。だけど、わざわざ誘った結果大川さんがいるってどういうことなんだろう。


「なんか、光莉が夏樹と話してみたかったんだって」

「お前はエスパーかなにかか?」


 俺が何も言ってないのに勝手に読み取るなよ。


「いや、まあ普通に考えたら疑問に思うだろうし。夏樹と光莉の接点なかった気がするから」

「まあそうだな。しいていうなら2日前にゲームであった以外だとクラスメイトというだけだな」


 名前覚えてなかったけど。多分、俺の記憶の中にクラスメイトの女子の名前はさほど残っていない。それくらいにリアルで女子と話すことは多くないわけだ。


「ゲームでせっかくあったんだし。仲良くしようよって思ってね。でも、男子誘うのって意外と緊張するじゃん?」

「緊張してる結果が毎日のあれだとしたらすごいと思うんだが」


 記憶が正しければ男女混ざったグループではあるけど昼休みは誰かしらを自分から捕まえて教室出ていってる覚えがある。


「光莉は感覚で生きてるから深く考えたら無駄」

「青葉ちゃんひどくない!? 私だって考える時は考えてるよ?」

「例えばどんな時?」

「演劇でこのキャラはどんなふうに思ってるからこの場面でこうなってるんだろうとか」

「部活じゃん」


 ボケとツッコミのテンポがいいな。この2人のやり取りと見てるだけで飽きない。唯自分が話を挟むのもあれと思っておにぎりを食べていたらあっという間になくなってしまった。パンでも一緒に買っておけばよかったな。


「……夏樹それで足りる?」

「まあ、帰りに買い食いでもすれば大丈夫だろ。午後に体育ないし」

「はあ……ほら、これ」


 青葉は何を思ったかそう言うと自分の弁当の唐揚げを渡してきた。


「いいのか?」

「別に、そういう時絶対後で腹減って集中切れてるし」

「悪いな」


 ありがたく唐揚げをいただいておく。


「青葉ちゃんって意外と女子力高いよね」

「いきなりなに?」

「いや、私初めて青葉ちゃん見た時にこう、ギター以外興味ありません。みたいな人のイメージでさ。お弁当自分で作ってるんでしょ?」

「毎日じゃないけどね」


 たしかに、ずっと一緒だから俺的には意外だと思うことはなかったけど、青葉の雰囲気の女子が料理上手ってゲームとかだとギャップがあるタイプだよな。

 そして今日のこの唐揚げの味はあれだな。


「今日は青葉が作ったろ」

「夏樹もいきなになにいってんの!?」

「いや、別にただの感想だけど……違うのか?」

「まあ今日はあたしが作ったけど」

「すごい! 鷲宮くんなんでわかったの?」


 何故か大川さんのほうがすごい目を輝かせて俺に聞いてくる。


「いや、単純に青葉のお母さんの唐揚げとかもたまに世話になった時食ってたからわかるってだけだけど」

「ふうん。でも、そんなわかるものなの?」

「まあ、青葉のやつのほうが味が濃いんだよな。俺は濃いほうが好きだからなんか印象に残ってる」

「へー……よかったね、青葉ちゃん!」

「意味わかんないし!」


 なんかものすごい盛り上がってるけど、この2人の間に一体何があったんだろう。

 この後は2人の関係を聞いたりしながら昼が過ぎていった。ただ、なんか結構な大部分をはぐらかされた感じで終わって、どうやって2人が出会ったかはわからなかった。

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