15:30〜17:00(1)

 ピィー!という耳を突き抜けるような音が川を行き渡った後、皆がぞろぞろと岸へ上がってゆく。


 小学生は、この笛が終了の合図であり、監視員が居なくなるので帰らなければならいのだ。中学生以上はここからは自己責任ということで居てもいいのだが、これ以上いる人は少ない。何しろ、人が減るにつれ感覚的に寂しく、そして川の温度がとても冷たく感じるからなのだ。


「お姉ちゃーん!はよ帰ろう!」

「はいはい!結衣もはよ行こう!」


 川岸からの弟の呼びかけで、私と結衣も岸に上がり、帰り支度をする。といっても、ビーチサンダルやクロックスを履いて荷物を持つだけなのだが…。そう、私達田舎者は、ビッショビショの服を着替えぬままその場を去るのだ。


 ずぶ濡れの服は思ったよりも重い。少し服の裾を捲り、絞ってから自転車へと向かう。そして、燦燦さんさんと照り輝く太陽のもと、自転車で田舎の風を感じるのだ。


 ただ、私達の夏の一日は、もう少しだけ続く。


 自転車を漕ぎ、私達三人が到着したのが家の近所にある駄菓子屋。自転車を停めて服を雑巾のように絞ると、こじんまりとした店内へと入店する。


「いらっしゃ〜い」

「こんにちは〜!」

「泳ぎ行ってきたが?」

「そう!店ん中めっちゃ涼しいー!」


 私と店番のお姉さんが話しているうちに、結衣と弟はお目当ての品を物色している。私も早々と話を切り上げ、二人の元へ向かい、今日の品を決める。


「今日は何にしょうね〜」

「僕シーフードにしょうかな!」

「夜ご飯あるけんちっちゃいがにせないかんで!」

「わかっちょるよ!」

「結衣はどうする?」

「辛いがにしょうかな思いよる〜」

「あ、じゃあ自分も辛いがにしょう!」


 それぞれがお目当ての商品を手に取った所で、結衣が先に会計を済ませる。

 結衣に続き、私も、弟の分も一緒に会計を済ませる。


「あ、お姉さんお湯もろうてもえい??」

「えいで〜、裏にあるけん自由に使いや!」

「ありがとう!」


 お姉さんにお礼を言うと、私達は店の外へ出て、脇にある給湯ポットのお湯を商品に入れ、店の前の陽が当たる場所へと直に座った。


 そう、私達は泳ぎのシメとして、カップラーメンを食べるのだ。


 全身を濡らし、思う存分身体を動かした後の熱々のカップラーメンは、我々にはたまらないご馳走だ。少し冷えた身体も、カップラーメンと太陽の暖かさによってすぐに暖かくなる。


 私は泳いだ後のカップラーメンは、キムチ味といつも決めている。

 何故だと言われると、感覚的な答えしか出てこないのだが、とにかくのだ。


 家では行儀良くしなければならない。椅子にきちんと座って食べない、ましてや全身が濡れたままの状態でご飯を食べるなど以ての外だ。


 そう、お祭りの屋台での食事の感覚に似ていると言えば少しは伝わるだろうか。あれは夜だが、ここではそれに似た昼バージョンでの感覚も味わう事ができるのだ。

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