元歌舞伎町ホスト代表だったけどなんか質問ある?

Dio

第1話

元歌舞伎町ホスト代表だったけどなんか質問ある?



水商売履歴書


17歳

パチンコ屋で出会った人にキャバクラの仕事を紹介してもらい働き始める


18歳

新店舗の副店長に抜擢されるが、キャストと恋仲になり、違う店舗に飛ばされる


彼女と会えないのがきっかけで別れることになり、仕事も辞める


名古屋の金髪通りが良かったという客の話を信じて名古屋に向かう


名古屋を堪能していたが、飽きて自転車で静岡に向かう


静岡の繁華街で会ったキャッチの兄さんからセクキャバの仕事を紹介してもらう


そこで知り合った仕事仲間と今の店を辞めて東京に行く


19歳

東京でボーイズバーの仕事を始める


上司の客と爆弾してボコボコにされ、丸坊主になる


仕事仲間に認めてもらうために、一心不乱に数字を追い求める



20歳

売り上げをあげたことにより、主任を任される


違う店舗の店長になる


21歳

新しい店舗の店長を任される


22歳

ホストクラブの代表を任される


会社を25歳で辞めることを当時の会長に伝える


25歳

ホストクラブを辞めて、水商売から足を洗う


30歳

2ちゃんねるで元歌舞伎町ホスト代表だったけどなんか質問ある?というスレを立てる





物語はこのスレから全て始まる。







1.スレ




仕事中に不注意で、携帯を落とし壊れてしまう。


新しい携帯にiPhoneという最新機種を買うことを友達に強く勧めらたが、自分はあまりハイテク技術は好きではなかった。


それでも時代に乗り遅れるな!という友達の一言を信用して買うことにした。


友達の勧めで入れたまとめサイトというアプリから2ちゃんねるの存在を知り、色んなスレを回った。


読み始めてすぐに、自分の水商売の経験をスレにしたら面白いだろうなと思い、すぐにスレを立て始めた。


題名はできるだけ簡単に歌舞伎町、ホスト、代表、質問、単語を並べてくっつけて作った。


[元歌舞伎町ホスト代表だったけどなんか質問ある?]


スレを立て始めた。




2.書き込み



スレを立て始めて一番最初に軽い自己紹介をした。


[22歳から25歳までホストクラブの代表やってました]


これだけ書いてれば、夜の情報や質問に答えられますよというアピールとしては十分だと考えた。


そして、すぐに書き込みがきた。



[いくら稼いだの?客と寝た?ホストは女を騙す最低職業だ!]


などのありきたりな質問がきたが、とりあえず全て答えた。


売り上げからどんな客と枕した、実はきつい職業です、など、簡単に答えた。


答え始めてすぐに思った。


書き込みする人達は、ホストクラブに対して表面的なことしか見えていない人が多く、水商売として重要なありとあらゆるものが抜け落ちている。


だったらここで書き込みんでしまうおうと考え、水商売の専門的なことを書き始めた。


枕は、していい人としてはいけない人がいること。


女にモテることと女にお金を使わせることはまったくの別物。


など、水商売特有のことを書き始めた。


それから少しずつ質問のグレードが上がっていた。


ある時、ホストをやりたいという人が現れた。



3.志願者


彼は、2ちゃんねるのスレを始めた辺りからやっていた、ホストの心理学という自分のブログを見てここを知り、書き込みをしてきた。


[今、22歳でサラリーマンをやっています。ブログを見てきました。ホストの仕事をやってみたいです]


こういう場合の人は、仕事時間が不規則でサラリーマンの仕事に支障をきたすことや下手したらバレてクビになる恐れがあると先に伝える。



クビになる原因として、元々副業を禁止してる会社も多く、ホストクラブという夜の仕事をしていると余計にクビになりやすくなる。


それほどホストクラブのイメージは世間的に悪い。


あと、ホストで売れてそこそこ大きな金額の給料をもらった際に、税金関係で会社にバレてクビになる可能性がある。


先にこういう話をしておくと、やる気が薄い人や決意が固まっていない人はそこで諦める。


ホストの仕事は、中途半端な気持ちや自分が女からモテるからという安易な考えで始めると必ず失敗する。


失敗する原因は一つ。


自分で思い描いていたビジョンとまったく違うからである。


優雅に綺麗なお姉さんと酒飲んで大金もらえれば誰でもするだろう。


実際は、ブサイクな客に罵られ、イジメられ、飲みたくない酒をゲロを吐くまで売り上げのために飲み、体力的にも精神的にも壊れていくような仕事だ。


サラリーマンという就職活動してまで手に入れた仕事を振ってまで、ホストクラブで働く必要はないと考えるからこそ、こういう話は先にしないとその人の人生を壊すことになる。


[どうしてもやってみたいです。よろしくお願いします。]


とりあえず会って話を聞いてみることにした。



ブログからメッセージのやり取りをして新宿で会うことにした。


黒髪の短髪でイケメンとは言えない顔で身長も普通ぐらいで正直、パッとしない印象だった。



彼の名前は優(ユウ)で、自分のブログを見てやる気になったらしい。


居酒屋で二人で飲みながら色々な話をして、自分が代表をやっていた頃に知り合った友達が今、自分の店を持ち社長としてホストクラブをやっている店があることを優に伝え、そこに3日後に二人で向かった。




4.面接



お店の場所は歌舞伎町の奥のラブホ街あたりにあった。


店は地下一階で、店の看板が小さく書いてあった。


少し重い扉を開くと、ナンバー3までの写真が飾ってあり、すぐにキャッシャーがあった。


そのキャッシャーから懐かしい顔が見えた。


「久し振り!よく来てくれた!」


社長が満面な笑顔で挨拶をしたが、となりの優は少し緊張していたのか、ぎこちない挨拶をしていた。


「面接するから席に座って待っててくれ」


面接するために席に二人で向かった。



キャッシャーをこえると、10席ほどボックスがあり、5人のスタッフが掃除していた。


席に案内され座っていると店長らしき人がきて面接が始まった。


自分が面接の邪魔にならないようにと、よろしくお願いしますと一言添えて席を立ち、社長の方に向かった。


「人材がきてくれると本当に助かるよ」


その一言の後、社長の顔は疲れてるように見えた。


だからすぐに言った。


「店の状況大丈夫か?」


社長は少しため息をついて答えた。


「やっぱりお前ならすぐにわかると思ったわ」




5.店の状況



面接は無事に終わり、とりあえず慣れるまで週2日で優は仕事することに決まった。


その後、社長と近くの居酒屋に行き、店の状況から話を始めた。


スタッフは現在6人で、売り上げは、ナンバー1だけ上がっているが他のスタッフは50万も上がっていない。


ナンバー1は待遇として掃除は免除されるので、その場にいないので全部でプレイヤーは6人になる。


スタッフは全然足りてないし、せめて店のキャパを考えると最低でも15人は絶対欲しい所になる。


店全体の売り上げも当然、上がってない。


月1000万は最低目標にしないとホストクラブとしてはやってる意味がない。


店を閉めるのは時間の問題というほど、かなり悪い状態だった。


社長の性格を知っているからわかるが、どちらかというと店を運営するよりプレイヤーでやる方が向いてる。


だから、店の方針や人材の育成、一番大事な店の作り方がよくなかった。


一通り話して、社長は言った。


「なんですぐに店の状況が悪いと思った?」


スタッフの目、スタッフ全体の雰囲気、そして、社長の表情が確定的だったことを伝えた。


人の目はかなり正直で、やる気があるかないかはすぐにわかる。


掃除をただやらされてるのではなく、自分で働く店を綺麗にしよう、今日はここに自分の指名客を座らせようと考えて掃除したりするスタッフは目に輝きが出る。


五人のスタッフ全員にその輝きがなかった。


そして、スタッフ全体の雰囲気は、挨拶や行動などですぐにわかる。


面接者がきているのに話しかけてこないことやただ席に案内するだけで誰も寄ってこなかったこと、五人のスタッフが面接者への反応がほとんどなかった。


良い店なら、店に面接者がきたらテンションがあがり気軽に話しかけたり、面接者の緊張をほぐそうと気を使うのが普通の行動になる。


これがないということは、スタッフのやる気もなく、店を良くしようという前向きな考えもないと考えられる。


そういう行動がスタッフ全体の雰囲気につながる。


そんな話をしていると社長が真剣な顔で言ってきた。


「店を立て直すために働いてくれないか?」




6.復帰


正直、店の状況がここまで悪いと思っていなかったことや働く気は全くないと答えたが、スレからの紹介をした手前、このまま店を潰すわけにもいかないし、友達の頼みを断るのも気がひける。


少し考えさせてとその場を後にした。


自分は昼間の仕事を続けるとして、働けても週2になる。


週2の人とレギュラーでは、それだけで溝ができる。


ましてや、店を立て直そうと考えるなら、なおさら難しくなるが、やるだけやってみようと決心した。


そして、社長に電話して来週から優と同じ週2日で同じ曜日に出勤することにした。



優には、自分の水商売の経験をそのまま叩き込むつもりだったので同じ曜日にした。


社長には、社長の友達で助っ人として、きてもらったことを承諾させた。


こうすると、今店にいるスタッフ全員にタメ口で色々話せるようになる。


社長の友達だから偉ぶるのではなく、どんなスタッフにもホウレンソウができる状態にして意思疎通が簡単にできるのが狙いだ。


あと、社長には、強制で週2日同じ曜日に出勤するように提示した。


スタッフも少なく、しんどい状況だからこそ、社長と一丸となって店を盛り立てる意思表示を全員に示すためにお願いした。


あとは、数字の問題だ。


特に自分が指名客をある程度呼んでおかないとスタッフに強気で言いたいことも無視されてしまう。


ホストクラブは、結果が全てで、そこがどれだけ出せるかによってスタッフの人の話を聞こうとする意思が変わってくる。


だから、今番号が残っている客に片っ端から連絡を取ってみた結果、数人店に来てくれそうな客がいて一安心した。



やれるだけの前準備をして、出勤初日を迎えた。




7.初出勤



出勤してすぐに掃除から始めた。


自分は率先してトイレ掃除を当分やらせてくれとみんなの前で言った。


このトイレ掃除には理由がある。


人の嫌がることを進んでやることで周りに仕事のやる気を見せつけるためと、自分に対しての目線が高くなるとトイレ掃除をさせてはいけない人物となり、掃除を変わります!といってくる上下関係が目に見えてわかるようになるからだ。


この基準が見えてくるまでトイレ掃除をする必要がある。


掃除が終わるとミーティングを始めた。


お店のオープン前に必ずやるミーティングは、ものすごく暗く、来客予定はほとんどなく、ただの会話のやり取りと熱のない頑張りましょうだけだった。


こんなミーティングは時間の無駄だなと感じたが、初日から強気に言えるわけもなく、ただ、今の店の状況を知ることに専念した。


オープンしてすぐに全員外にキャッチに出るが、女の子がいてもホストですがどうですか?という声をかける程度、こんな具合では、新規はほとんど取れない。


このホストは、何か違う、楽しそうと思ってくれて初めて女の子は返答してくれる。


だから、いきなり漫才やったり、女の子の服装や持ってるものを褒めちぎって会話につなげたり、普通ではない努力の方法が必要になる。


キャッチは接客の延長上の仕事だと教えないといつまでたっても、ホストですがどうですか?止まりになってしまう。


こういう仕事の教える方法は、キャッチのやり方を教えてから、その方法で自分自身でキャッチを成功させる。


そして、他のスタッフに同じ方法でやらせて、成功させるまでやらせる。


結果が出たことで、褒めたり、お互い喜び合うようにすると、誰でも前向きになりやる気が出る。


やって見せて、やらせて、結果を出して、喜びを分かち合う、この流れを必ず作るようにする。




初出勤のその日は、ナンバー1の指名客2人と自分が取った新規1名のたった3名の客のみだった。


これだけしか客がいないと、店の雰囲気は作れない。


店の雰囲気は、人で作るものであって、お店の内装や匂いなどで作るものではない。


お店を満席にしてガヤガヤしてる状態から初めて店の雰囲気が作れるようになる。


その雰囲気が当たり前になれば、店のスタッフもその雰囲気が好きになり、お店を満席させようという気持ちに初めてなる。



初日の仕事を終えて思った。


まさに前途多難すぎる。


良い店にするには、今いる人材をとにかく変えて行くしかない。


とにかくまずは人材状況の確認と確保が先という判断をした。




8.人材


今いる6人のプレイヤーはそれぞれ個性が強かった。


スグルは、道ですれ違えば、大抵の女性が振り向くようなイケメンだが、メンタルが弱く、客に強気な接客ができない。


ゴウは、ブサイクだが強気な接客と新規席の接客がずば抜けて上手い。


レンは、ホスト歴が長く、接客レベルが高いが、プライドが高く新規席の諦めが早い。


リュウは、元ヤクザで背中に刺青があるコワモテキャラで大人な接客をするので熟女に強いが、ワイワイ接客が苦手。


ヨウは、顔はイマイチ、接客は微妙、地蔵になりやすく、ホストとしては一番未熟なプレイヤーなので、育てないといけない。


そして、ナンバー1の翼は、ザホストというような貫禄があり、ナンバー1ですと言えば、誰でも納得するようなホストだ。



現状この6人とプラス優と社長、そして自分の最大9人で店を回すことになる。


店の席は、10席あるのでこの時点でプレイヤーは完全にマイナスになる。


例えば、新規客の団体が3名入って、指名客が3席くれば、使ってる席は4席でも、すでにプレイヤーの数はギリギリになる。


指名客には、担当とヘルプをつけたとして6人、新規席には3人、キャッシャー、内勤を入れないと店がとにかく回らない。


まずは、ここをどうにかしないと始まらないと考えて、昔の部下で信用があるマモルに連絡を取った。


マモルは今、アルバイトをしていて月20万ほどでやっているが、月25万くれるならすぐに行くと言ってくれた。


社長にすぐに連絡を取ってどうしてもマモルを入れたいから内勤で雇ってくれと頼んだ。


内勤は席のアイス交換や席案内、席の補助をする役割と重要なキャッシャーの仕事がある。


このキャッシャーの仕事をプレイヤーに任せると酒で酔っていて会計を間違えたり、お釣りを多くしてしまったりと細かいミスをして、レジ金が合わなくなったりする。


それを防ぐために必ずお店に内勤は必要になる。


内勤としてマモルを入れてあとは、プレイヤーの数を確保するためにスカウトをすることにした。


スカウトは昼間に渋谷や新宿に行き、男の子に声をかける。


お店の広告だけではどうしても人材確保が難しいのでやるしかなかった。


ラッキーだったのは、昔、ホストクラブをオープンさせる前に人材確保のために、スカウトをしていた時の自分で作ったマニュアルが家にあったことだった。


これをそのまま店にもっていき、全員でひたすら練習した。


最初は全員やる気が出ず、昼間に外に出るので寝れないと反感を食らったが、ローテーションを組んでやることで、そこを乗り切った。


一番最初のスカウトが成功して面接者が店に来た時の全員の嬉しそうな顔は忘れられない。


優が面接に来た時の店の雰囲気とは、雲泥の差だった。


努力の結果、最終的に7人ほどスカウトで入ってくれたが次が最も難しい問題点だった。




9.人材育成


スカウトして入ってくれたスタッフはほとんどがホスト未経験だっため、接客から教えることになった。


接客を教える担当、キャッチを教える担当、ヘルプを教える担当、色恋や枕などの営業の仕方を教える担当を作った。


担当という名の教える係を作った理由は、新人に先輩2人で教えてしまうと、混乱したり先輩の教えてることが違うと、どちらを優先していいか分からず、最悪、教えてる側が喧嘩になってしまうことを防ぐために担当を作る必要がある。


あと、担当を作ると中間ホストの責任感も出るので、新人に対して部下に教えてやるぞ!という教えることへのやる気につながる。


教える以外では、新人に対しての相性の良さを判断して、店が終わったら新人と店のスタッフでご飯に行ったりして個別相談を行う。


これが上司と部下ができるきっかけになる。


こういう上下関係を早めに作っておくと、新人がお店を辞めにくくなる上に、上司を頼りにするので新人がお店に居やすい環境を作りやすくできる。


あとは、上司側にもメリットがある。


部下のために良い所を見せよう、枝を紹介しようとか指名客を呼んでヘルプに新人をつけようと張り切ってくれるので一石二鳥の効果もある。


あとは、人材育成ではアメと鞭をうまく使わないといけない。


褒めるならミーティング中などのみんなの前や、複数人から褒めるようにするとそれが自信につながる。


怒る時は、個別に怒る役とその後にフォロー役を必ず用意する。


この時代の若者は、草食系男子が多く、新人ホストのメンタルは弱いので、怒る時ほど慎重にしないとすぐにお店をやめる原因になってしまう。


かなり気を使うところではあるが、これはチームとして動けば簡単に解決できる。


チームは、上司チームと新人チームに分ける。


それぞれがしっかり意思疎通ができるように全体ミーティング以外に上司チームのミーティングを設けて、話し合っておけば、アメと鞭の担当を作っておくことができる。


新人チームを作っておくと、お店が終わった後に、上司抜きのご飯などにわざと行かせて、新人チームの交流をはからせると結束力が高まる。


ホストクラブでの人材は、どれだけ仕事ができなくてもかなり貴重なので、大事に扱わないといけない。


人材育成の地盤を固めたらあとは、数字を求めに行く。




10.数字



ホストクラブの数字とは、大きく分けると指名客と売り上げだが、優先させるのは必ず指名本数になる。


指名本数が多ければ多いほど、安定した売り上げと客数を持っていることになるのでホストとしてのメンタルも安定する。


例えば、売り上げはナンバー1だが指名本数が極端に少ない場合、一本釣りで1人の客に頼ってることになる。


こうなると、その客のさじ加減で売り上げも安定せず、その客が切れたら売り上げゼロになってしまう。


さらに、そのホストが売り上げナンバー1に満足してしまうと新規席に積極的になれず、成長が切れることにつながる。


こういうスタッフを1人でも作らないために売り上げよりもまずは、指名本数を稼ぐように店全体の目標として掲げる。



指名客を作る一連の流れは、まずは、キャッチや広告での新規席での接客が重要になる。


新規席の接客がうまくないと送りがもらえず、連絡交換もできない。


だから、送りをもらうために、自分を売り込むような接客をまず身につけさせないといけない。


それができて初めて送りがもらえるようになる。


送りがもらえると連絡できる女の子ができるだけで、お店にくるとは決まっていない。


そこから連絡を重ねて、お店に指名で来てもらう。


そこで初めて指名客となる。


最初の頃は、ナンバー1などに送りが集中していたが、三ヶ月ほど立つと、ある程度バラバラに送りがもらえるようになった。


これは、店全体の新規の接客能力が高まったことによるものだ。


こうなってくると、指名客が増えて店も満席になる時期も早いと考えたくなるが、ことはそう単純ではない。


新規の場合、値段は1000円から5000円ぐらいが相場になるが、指名の場合、最低2万ぐらいになる。


飲みに行くのに2万円が高く感じるのが普通であり、気軽に足を運ぼうと思わない。


さらに、送りをしたホストに興味がないと話にならない。


そこで使うのが営業である。


営業方法は、様々あるが、一般的なのが色恋である。


色恋営業の基本はまずは連絡をとにかくマメにすること。


心理学用語で単純接触効果というものがある。


これは、毎日会ったり連絡する事で相手のことを気になったり、好きになるもので、ホストでよく使われる手法にあたる。


最初はそんなに気になる人ではなかったが、毎日メールや電話をするうちにそれが癖になり、そのうち、ホストから連絡しないと相手から連絡が来るようになる。


こうなる様にホストから連絡をマメにすると、客から会いたいという気持ちになり、初めてお店に来店して初指名という流れができる。


よくある失敗は、その会いたいという気持ちができる前にお店に来て欲しいといって結局ホストだな、お金目的と思われるパターンが多い。


だから、新人ホストには、送りをもらったらこまめに連絡して相手からお店に行きたいと思わせるまで、お店に来てほしいと言ってはいけないと説明した。


新人ホストが入ってきて、1ヶ月ほどたってから目に見えて店全体の初指名の数が増えていった。


確実にお店に客がつき、良い流れになりつつあるが、本題はこれからである。


お店の利益を出すために売り上げを伸ばさないといけない。


売り上げを伸ばすためには、ただ客を呼ぶだけではなく、シャンパンやボトルを注文してもらい、客単価を上げる必要がある。


そのキッカケを作るのに必要なものがシャンパンコールになる。


シャンパンコールは高いボトルやシャンパンなどを開けた際にお店全スタッフが集まりコールをする特別な物になるが、出勤初日で見たシャンパンコールがかなり微妙だったので、作り変えることにした。


シャンパンコールを2パターンとマイクを使う担当もコロコロ変える様にして、シャンパンコールのバリエーションを増やして、常に新鮮な物にした。


ある程度、店の数字も伸びて社長がストレスの無い顔になり、スタッフの顔にやる気と目の輝き、良い雰囲気が出始めた頃に合同バースデーを急遽することになった。



11.バースデー


バースデーはホストクラブでは、一年に一回のビックイベントで一番数字を出さないといけない日にあたる。


だから、バースデーが近くなると緊張して胃がきりきりなるほどプレッシャーが高まる。


今回のバースデーは、自分とヨウでやることになったが、復帰して半年の自分はまったく数字を上げられる自信はなかった。


今の自分の客状況も悪く、準備期間は1ヶ月だっため、売り上げよりも来客予定を多くさせる方針に固めた。


客側の目線からホストのバースデーほど嫌なものはないだろう。


お店は混むし、お金は使わされるので、自分から行きたいと懇願する客はいない。


だから、来させるための理由を作り、できるだけの金額を募るには、その客との信頼関係がないと成り立たないので、準備には時間が必ず必要になる。


そんな必死に悩んでいた自分に話しかけてきたヨウは、バースデーの来客予定は五組あると意気揚々に言ってきた。


本当に大丈夫か?と聞き返したが、そっちこそ大丈夫ですか?聞き返された。


バースデーの秘訣やコツなど教えようと思ったが、自分にその時、それほど余裕はなかったので教えなかった。



バースデー当日、蓋を開けたら、自分は6組90万、ヨウは0組0円だった。


ヨウのバースデーの表情は暗く、こんなことなら教えてとくべきだったと店で働き初めて一番後悔した日になった。



12.退店


店に復帰してから10ヶ月ほどたった。


スタッフも増え、売り上げも客数も伸びたので社長に来月でやめることを伝えた。


最初は引き止められたが、これ以上いると、また夜の世界に戻ってしまうと感じていたので決意が固まっていること伝え、社長は承諾した。


それから悲しいことに、1年ほどでそのお店は閉店した。


もっとやれることはなかっただろうかと閉店する前に社長と話した。


精一杯やってくれたと言われた時は、復帰してよかったと初めて感じた。


それから、一緒に入った優は、別の店に移動してからナンバー1を取るようになり、ホストとして今も生きている。


ミーティング中の優の自分の話を聞こうとするまっすぐな目に、水商売でやっていこうとするひたむきな気持ちが伝わったことを今でも忘れられない。


あの目がなかったら、ホストのイロハを教える気にはそれほどならなかっただろう。


元歌舞伎町ホスト代表だったけどなんか質問ある?というスレを立てて、まさかこんな展開になるとは、人生何がきっかけで始まるか、わからないものだ。

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