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 つまり、師というのは実力だけではないという事だ。どんなに名の知れない魔導士でも名のある弟子にとっては偉大なる師である。


「まあね。私の師だってそう言う人だったわ。主に変身魔法へんしんまほうを得意としていたし、魔法結界破りの達人でもあったわ」


 そう告げるミラの顔を見て、竜二は自分の少し変わった勘違いに気がついた。


 あのミラでさえもそう言ったを持っているからこそ、彼女の気持ちが分かるのだろう。この世で名も知れずに去っていった魔導士の事。それを優しさ、気づかいのできる、思いやりが彼女の一面でもある。


 こうした心優しいミラが今までサーシャの事を語らなかったのは、竜二が修行に専念しやすくするためなのだろう。


 その気持ちを考え、竜二は立ち止まり、静かに目をつぶった。


 思えば、ミラの性格には少し違和感を感じることがただただある。一見してみれば、そうとは思えないのだが、昔はやんちゃだったとかおてんば娘だったのかもしれない。


「まあ、私からしてみて今回の依頼、いや、やるべきことは炎帝竜の討伐とうばつ。だけど、その炎帝竜があなたを選んだ時点でそれを達成することは出来なくなってしまった。だって、あなたの師は炎の魔女と炎帝竜よ。火属性魔法の最上級魔導士・竜から受け継ぐんですもの、勝てる自信なんて七割程度よ」


 要するに、七割は勝てたとしても三割は油断できないという事だ。


 フフフと微笑みながら顔をこちらに向けて、ゆっくりと言う。


 そんな彼女を見て、竜二は言葉を返した。


「なら、今度の決戦までにはその七割を五割、三割以上に減らしてやるよ。そして、竜の魔法も完璧にマスターしてやるさ」


「そう。それは楽しみにしているわ。果たして、火属性魔法だけで五つの属性を持つ天候魔法に勝てるのかしら?」


 そう言われて少し照れるミラに、竜二は頬を膨らませる。


 考えてみれば、天候魔法の中で火と相性が悪いのは水と雷くらいだ。だが、こちらはドラゴンの魔法。どんな魔法でも噛み千切るほどの強力な魔法。


「言っておくけど、そう易々と私に勝負を挑まない事よ。こう見えても怒ると、私にも制御できない事があるから……」


「そうだよな……」


 微笑の奥で潜む影を覗いた竜二は、ビクッと肩を震わせた。


 その後は、色々と周り、ディナーをして、一緒にデートスポットでもある色鮮やかな噴水の所まで歩いた。


 どうみてもこの一日は、ただのデートにしか見えない気がした。



     ×     ×     ×



 マードックの街が夜へと暗闇になった頃————


 ホテルには戻らず、竜二とミラはある場所へと向かっていた。

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