22

「分かった。お前の意思、その強い心を持っておることは分かった。だが、今回ばかりはこの私に任せてもらえぬだろうか? なーに、心配するな、約束は守る」


 ニッと笑って見せて、竜二りゅうじを見下ろす。


「先に言っておく、この先、ドラゴンの魔法を覚えた者は一つ大きな代償を払わなければならない。それは他の殺しの魔導士スレイヤーも同じだ。それは……いや、そのことは今、黙っておこう。そして、お前自身が狙われる可能性があることも忘れるなよ」


「…………大きな代償? 他の殺しの魔導士スレイヤーと同じになるって事か……」


 ジークフリートが言ったその代償がピンとこなかった竜二は首を傾げる。


 確かに神の魔法や天使の魔法、悪魔の魔法などの言葉を聞く限りで凄そうな魔法だと思ってはしまう。だから、それなりの代償があっても仕方がないのかもしれない。


「なら、次、私に会う時までにこの魔導書の中で一つでも覚えていろ。いいな」


「あ、え、うん?」


「それは私が書いた炎帝竜の魔法だ。そして、お前の体にこれを埋め込んでおく」


 ジークフリートは竜二に魔導書を渡し、そして、赤色の魔法石を取り出して、心臓の部分へと埋め込んだ。


「それを持っておくが良い。そして、鍛錬を忘れるな。魔法は人の心によって強くなる。いいな!」


 ジークフリートは翼を目一杯に広げ、二体の竜に炎帝竜の炎の咆哮ほうこうをぶつけた。


 二体の竜は空の彼方へと吹っ飛ばされる。そして、炎帝竜ジークフリートは空へと飛んでいく。竜の翼から生み出される風は、至近距離から見ると、魂を持って行かれそうな勢いだった。


 そのまま、炎帝竜は自分の放った咆哮の方へと消えていった。


「どうやら、炎帝竜の魔導書は手に入れたって事ね……」


 今まで竜二に抱きかかえられていたミラはゆっくりと体を起こし、ボロボロな体で立ち上がった。


「それを手にするって事はあの炎帝竜に認められたって事よ。それにあの魔法石————」


「ミラ、さっき埋め込まれた魔法石の事を知っているのか?」


 ミラは竜二の心臓の当たりの右手でそっと当てて、鼓動が動いていることを確認している。


「いいえ、あんな魔法石はみたことないわ。赤色だったから火属性魔法の何かだとは思うのだけれど……こればかりはあの炎帝竜に訊かないかぎり分からないわ」


「それで、これからどうする? 一度、サーシャさんの所に戻るか?」


 ミラは小さく頷き、山を下りた。


 それから、数日間、炎帝竜の名を聞くことなく、そして、時間は刻々と流れて行った————

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る