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「だって、火神紫苑かがみしおんの関係者なら魔法くらい扱う事なんてできるわよね」


 これだけ言われるとは思ってもいなかった。竜二は息を呑んだ。


 この美少女が魔導士だということ自体が、可愛く恐ろしくて怖いのだ。


 魔法分野の技術を突き詰めた者だけが持つ力。無駄をそぎ落としたことで生まれる理。ただ、それが彼女の容姿とマッチングしている美しさが、また違う感じを生み出す。


「俺は魔法なんて使えねぇーよ。元々、そう言ったことに対しては疎い存在だからな」


「そうだったの。じゃあ、訊くけど……なんであなたから魔力が感じられるの? 魔力がある者、すなわち、魔導士たる者よ」


「だから、俺は魔力なんて持ってねぇーし、もう、ホテルに帰りたいんだが————」


 冷静にあらゆることを判断するミラに、竜二は飄然と告げる。


「それもそうね。あなたよりも厄介な人たちのお出ましのようよ」


 彼女が異変に気付いたのは、その前触れであった。


 ドンッ!


 凄まじい爆音が響き渡る。


 今までのやり取りが一瞬で強制終了されたかのように竜二は————。


 その爆発音は、竜二が泊まる予定のホテルの方面から鳴り響き、黒い煙がモクモクと空に向かって上っていく。


 そんな光景がいきなり目の前に現れたのだ。


 竜二だけではなく、一度発動させた魔法を消滅しょうめつさせたミラは、険しい表情をする。


 おい、あの方角はホテルじゃないのか? それに今、なんであいつは予知できたんだ?


 と、立ち止まった自分の体をミラは竜二の手を引っぱった。


「一応、ここで休戦です。ついて来て!」


 ミラが叫び、竜二の手を取って走り出す。


 頭の中が混乱していたため、彼女に引っ張られながら走り出した。行く先は爆発した方向である。


「ちょ、ちょっと待て! なんで俺まで‼」


「あれはただのテロ爆発ではありません。魔導士による無差別行為よ。彼らは闇魔導士。私達の敵であり、元は正規の魔導士だった者達」


 こんな状況だというのに、ミラは冷静に判断する。


 竜二の手を引きながら彼女が向かう先には、煙が大きく見えてくる。


 なぜ、魔導士がこんな所で破壊活動を起こっているのだろうか。


「あなたは私の指定した場所に連れて行くわ。そこに隠れていて頂戴」


「分かった。それでお前はこの後、どうするんだ?」


 ミラが街角を曲がりながら、竜二を安全な場所まで連れて行く。



 魔導師によるテロ活動は終わらない。


 ある建物の一角————


「このままだと一般人を巻き込んでしまうわ。よりのもよって、こんな日に現れなくてもいいじゃない」


「敵は何人いるんだ?」


 ミラはきょろきょろと辺りを見回している。


「それにしても魔導師って、この時代に本当に存在するんだな」


「そうよ。こちらの世界ではそうでもないかもしれないけど、向こうの世界では有名よ」


 ミラが何を言っているのか分からなかったが、それらしきことはなんとなくわかる。


「私はここから単独行動するけど、ここから先は周りを確認してホテルに戻るのよ」


「ああ、……って、まさか、あいつらと戦うつもりなのか?」


 と言い出すが、ミラは駆け出していた。


 一人取り残された竜二は、時間を持て余すと、ゆっくりと歩き出した。


 外は暗くなり、やじ馬で事件現場の方に人が集まっていた。


 ホテルは何も被害が無く、たどり着いたころには、夜の九時を過ぎていた。


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