第二話 3-8


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 そして日曜日。


 俺は……と待ち合わせをして地下鉄半蔵門線押上駅の改札にいた。


 行き先は東京スカイツリー。


 目的はもちろん、『MGO』のガチャで『光翼をまとうマホちゃん』を当てるためである。


 なのにどうしてわざわざこんな場所で待ち合わせをしているかというと、話はくだんのガチャ宗教に由来する。


『聖地巡礼教』。


 それは読んで字のごとく、キャラにゆかりのある場所──聖地を巡礼してガチャを回せばそのキャラが出やすくなるというものである。マホちゃんがここ東京スカイツリー先端の電波塔部分でハゲタカのクリムゾンと戦うシーンがあることから、聖地の一つとして数えられているらしい。さらにいうと、ここでダメだった場合にこの後行く予定の場所は池袋にあるサンシャイン60だったりする。どうもマホちゃんはやたらと高いところにのぼるのが好きなようだった。




「ごめんね、せんせー。待った?」




「お……」


 そんなことを考えていると、声をかけられた。


 見てみると、こっちに向かって手を振りながら小走りで改札を出てくるの姿。


 当然のことながら私服姿である。


 あれ、よく考えてみたら、の私服姿って初めてだよな……?


 学校にいる時は当たり前のごとく制服だし、この間の合宿の時も学校帰りにそのままうちに来たため基本制服姿だった。あとはうちにあった部屋着を適当に選んで着ていた。


 改めて見てみる。


 明るい色をしたカーディガン。動きやすそうなひらひらとした花柄のワンピーススカート。かわいらしい靴。ファッションには壊滅的に詳しくないけれど、それでもそれがものすごくファッショナブルだってことは分かる。素材の抜群の良さとも相まって、もうほとんどご神体と言っていいレベルだった。後光がして見える……


 周りからも「なあなあ、あの子、めちゃくちゃかわいくね?」「え、芸能人かな?」「お前声かけてこいよ」「いやあのレベルは無理だって」みたいな声が聞こえてくる。


 そうなんだよな。


 今さら確認することでもないかもしれないけれど、はとんでもなくかわいい。常軌を逸してかわいい。それこそ、道を歩けば十人中十五人が振り返るくらいに。


 何でこんな子が自分の隣にいるんだろう。これ何てラブコメ? あまりにも夢見心地すぎてもしかしてもうすぐ俺死ぬの? なんて思いになることが多々ある。この後トラックにでもかれて異世界に行ってしまうのかな……


「どうしたの、せんせー? 郵便ポストみたいにぼーっとして」


「え? あ、いや、何でもなくて……」


「? あ、もしかして……わたしの格好、ヘン、かな……?」


「! そんなことないって!」


 思わず早口で言ってしまった。


 が変だとしたら、俺なんて、何ていうかもう、珍妙なウーパールーパーだ。


「そ、そう……かな?」


「あ、ああ、変なんてことはぜんぜんなくて、何ていうか……」


「……?」


「その……すごく似合ってると、思う……」


「ほ、ほんとっ?」


 その言葉に、がぱあっと笑顔になる。


 その笑顔もまた向日葵ひまわりが咲いたみたいな鮮やかで魅力的なものであって……うう、やめて、頬がだらしなく緩んでキモい感じになっちゃうから。


 そんな俺の前で、カシャッという機械音が響いた。


「?」


 見るとが、スマホを構えて何やらカシャカシャと撮影している。え、な、何……? もしかして俺のだらしない顔が犯罪レベルで気持ち悪かったから証拠として残しておこうとか……?


「あのさ、、今のは……?」


「ん、記録だよ?」


「!」


 公判記録……!?


 や、やっぱり……?


 すでに逮捕・留置・起訴後も見据えられているのかと恐れおののく俺に、は言った。


「ん? 記録じゃなくて、記念? ほら、あれだよ。せっかくせんせーとお出かけできたんだし、記念に残しておこうと思って。えっと、メモリアル?」


「え……」


「だってわたし、今日のお出かけすっごく楽しみだったんだもん。楽しみで楽しみで、昨日は三時間しか寝られなかったくらい。えへへ」


 後々の裁判のための記録じゃありませんでした。


 というか……そこまで楽しみにしていてくれた?


 俺なんかとの出かける予定を……?


 や、そんなこと言われたら……ただでさえ醜悪なクリムゾンみたいに崩れた俺の顔がさらに気持ち悪くなってしまう。


 浮かれかける心を隠すために、マイコプラズマ肺炎になったみたいにゴホゴホとせきばらいをして言った。


「──そ、それじゃあ、行こうか」


「うんっ♪」


 我ながらさらにかなりキモい感じに照れた顔をらすようにして、といっしょに歩き出したのだった。






 ・ざかの秘密⑯(秘密レベルC)


 私服姿も常軌を逸してかわいい。


 ・ざかの秘密⑰(秘密レベルC)


 メモリアルを大事にしている。


 ・ざかの秘密⑱(秘密レベルC)


 今日のお出かけが楽しみで三時間しか眠れなかったらしい。

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