第一話 10-14


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「……うん……うん……そうだよ。今日から月曜日まで。だいじょぶだよ。信頼できる人だからおかーさんも心配しないでね……うん……また連絡する……ん、じゃあね」


 そう言って通話を終えると、ざかさんはスマホを耳から外して指でオッケーサインを作った。


「無事に許可はとれたよ。これで月曜日の朝までだいじょうぶ」


「そ、そっか……」


 まさか……ざかさんがうちに来ることになろうとは。


 常日頃から見られたくないもの(ちょっと肌色成分多めの雑誌とか)は片付けておく習慣があってよかった。それに幸いなことにというか何というか、うちの両親は仕事が忙しくてめったに帰ってこない。ゆえに余計な勘繰りは受けなくてすむ。


 ただ、一点だけねんすべき要素があって……


 と、そうこうしているうちに、家に着いてしまった。


 築十五年二階建てのどこにでもあるような一軒家が、俺たちの目の前にある。


「ここがせんせーの家なの?」


「あ、うん」


 興味深そうにいてくるざかさんにうなずき返して、玄関の鍵を開ける。


「ただいまー」


 奥に向かって呼びかけると、すぐにぱたぱたという小さな足音が近づいてきた。


「おにーちゃん、おかえりなさい!」


 やって来たのは妹のすずだ。


 としは七つ離れた九歳。両親が帰ってくるのはほとんど三ヶ月に一回くらいなため、実質的にはこの妹と二人暮らしなのである。そのためうちで合宿を行うためにはすずの許可を取らなくてはならないわけであって……


「……って、あれ、おにーちゃん、そっちの人は……?」


 すずざかさんを見ると、戦慄の表情を浮かべた。


「え……う、うそっ……お、おにーちゃんが、ふゆちゃん以外の女の子をおうちにつれてくるなんて……っ……!」


「……そんな、飼い猫がアブラゼミをくわえてきた時みたいな顔をするなって」


「……しかもこんなきれいな人を……きょ、きょーはく? そんたく?」


「違うよ!?」


 兄を何だと思っているんだ、この妹は……


 心の底からため息をいていると、隣のざかさんがくすりと笑った。


「仲、いいんですね」


「え、ああ、まあ……」


「はじめまして。私はざかといいます。さわむらさんとはクラスメイトで、同じ部活のお友だちなんです。今日はいっしょにお勉強合宿をさせてもらうために来ました」


「あ、そ、そーなんですね、ほっ……」


 あからさまに安心したような顔をするな、妹よ。どうしておにーちゃんのことを信じてくれないのかな……


「あ、わたしはさわむらすずっていいます。小学四年生です。おにーちゃんがいつもおせわになっております」


「いいえ、こちらこそよろしくお願いしますね」


 自己紹介をし合ってお互いに頭を下げ合う。ちなみにタイミングがぴったりすぎて、おでこをぶつけ合って「あうっ……」「い、いたたー……」と声を上げていた。


 あ、何かこの二人、相性良さそう……


「それじゃあ俺たちは部屋に行くから、何かあったら呼んでな」


「あ、うん」


 すずはそううなずくと、とことこと俺の隣にやって来て、耳打ちをした。


「おにーちゃん」


「ん?」


「ふしょうじは、おこしちゃだめだよ?」


「……」


 妹(小四)にここまで心配される俺って一体……

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