第14話 結の決断と二人のフレンチ
シケ長の腹に触る言い方が、私の決心を固めた。
「うーん、悪いけど、私もシケタイからは抜けるわ。地方出身の人でも確かな力がある人はいるし、正直私は、ロボットサークルの活動で忙しいから、自分のことで手一杯だしね」
シケ長の額から脂汗がにじみ出る。
「そう言わずに、頼むよ、結ちゃん。君自身がまとめたノートを、ワンドラとラインに流すだけでもいいからさ」
「はっきり言うと、私自身その制度を使う気がないのよ。使わないのに、一方的に情報を提供したところで、私のためにはならないでしょ?
それなら、お互いに実力を認め合える相手と勉強会でも開いた方が、よほど意味があるというものね」
「仮に結ちゃん自身が使わないとしても、それで救われる子が何人か出てくるかもしれないんだよ?
君は、そっちの想のように自分勝手に人を見捨てて平気なのかい?」
「本来なら自分でしっかりやればとれる点数なのに、自ら他力本願でしか取れないようなライフスタイルにしたうえで、助けてくださいなんていう人に手を差し伸べたところで、何にもならないじゃないの。
それは、完全に自業自得よね」
「そこまで言うんだね、君は」
「ええ、言わせてもらうわよ。そして、これ以上私にシケタイ参加を無理強いしようとするなら、私は本郷祭の企画代表をボイコットさせていただくわ。
代表なくして交渉なし、私が動かなければ、クラスの文化祭への参加は厳しくなるわね」
シケ長の顔が青ざめる。
「おい、分かったから、それはやめてくれよな。せっかく何回かの飲み会の軍資金を稼げるいいチャンスなんだから」
「本来ダメな年齢の癖に、もう飲むことしか考えてないのね。呆れたけど、まあいいわ」
「いや、担当は成人済みのオリ長だから、俺は関係ないし」
「そういう割に、この前の入学コンパではべろべろに酔ってたじゃないの」
「ああ、もう、頼むから、それは言うなよ」
「そうね。別に私もあなたを停学にしたいわけじゃないから」
「全く…」
歯ぎしりしながら、シケ長は下がっていった。
私は、思わずため息をついて、一部始終を見ていた想に向かって、言った。
「これで、私もクラス内では孤立しそうね。まあ、いいけど」
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僕は、結が予想通り、いや、予想以上に素晴らしい切り返しで、シケ長を退散させたのを見て、内心で喝采していた。
「別に、無理につながらなければならない訳ではないと思うよ」
ため息をつく結に向かって、僕が言うと、彼女は、返す。
「それもそうね。全く、これでちょっと出遅れた分、食堂は殺人的に混んでしまっているわね。
どうしたものか…。
そうだ、良かったら、キャンパス内にあるちょっとしたフレンチにでも、二人で行かない?」
「コース料理でも食べるの?」
「そんなところね。私は、三限に入れていないから多少はゆっくりできるけど、想は大丈夫かしら?」
幸いにも、僕も三限は興味がある科目が見つからずに、開けていた。
「ああ、別に大丈夫だけど」
「なら、行きましょ」
フレンチならそう安くはないだろう。だが、それでも、つまらない予備校育ちの学生が群れている食堂よりは、結との食事は、よほど魅力的だ。
僕の出身地方では、レストランに二人で行くだけでデート扱いなので、ちょっとだけ緊張はするが、僕の想いははっきりしているし、首都圏出身の彼女にとっては、食事ぐらいは何のことはないお誘いのはずだから、乗っても問題はあるまい。
そうして、僕らは、銀杏通りの食堂とは反対方面を通って、旧制高校時代の同窓会に使われていた建物を改修したというファカルティ―ハウスにあるフレンチレストラン「ラ・フェネートル・ド・コマバ」に向かった。
外装は、飾らなければ直線的過ぎてあまり派手ではないが、内部に入ると、グッと歴史が感じられる空間に切り替わった。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「二人です」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
愛を再現できたら、キャンパス内のささやかなフレンチを楽しむのも、本来やってきたであろう思い出を取り戻すいい手段になるかもしれないと思いながら、僕は案内に従って、日差しの差し込む窓際の席に、結と向かい合わせで腰をかけたのであった。
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