日溜まりの彼女

たままる

日溜まりの彼女

 今日は土曜日。昨晩までしとしとと降り続いた雨が止み、朝から優しい日差しが窓から部屋に差し込んでいた。彼女はいそいそと日の当たるところに行って、目を細める。彼女は日溜まりが殊の外好きで、この時期に日差しが差し込むと必ずそこへ行く。


 僕が日の差し込む窓に近づくと、外には淡紅色の花が満開になっているのが見えた。この景色を彼女も気にいるだろうかと、ここへ引っ越したのだが、「花より団子」ならぬ、「花より日溜まり」で、時折花びらが散っていくのを目で追う以外は、興味なさげに日溜まりで目を細めて、じっとしていることのほうが多い。

 そうしてじっとしていると、やがて彼女はウトウトし始める。僕はそっとフリースのブランケットをかけて、コーヒーを淹れに台所に向かった。


 コーヒーの香ばしい香りで彼女が少し目を開ける。だが、彼女はコーヒーが飲めないので、そのままスッと目を閉じる。それを眺めながら、ゆっくりと琥珀色の液体を味わうのが休みの日の僕の楽しみなのだ。部屋に珈琲の匂いとゆっくりとした時間が充満していく。そのままお昼くらいまで、ボーッと何となくでつけたテレビを見ながら過ごす。もちろん、彼女を起こさないような音量で。


「ごはんにしようか。」

 僕がそう声をかけると、彼女はスッと起きてきて、テーブルの定位置に座る。僕は自分と彼女のごはんを用意して、彼女の真向かいに座って一緒にごはんを食べる。ご飯に満足すると、部屋の中で運動を始めるのが彼女のいつもで、僕はそれに少しだけ付き合う。

 それが終わると、彼女はまた日溜まりのところへ行って、ウトウトしはじめた。彼女にフリースのブランケットをかけて、僕は彼女の頭をそっと撫でる。ふわふわとした感触が手のひらに心地いい。彼女は一瞬目を開けたが、すぐに目を閉じて、すやすやと眠り始める。そんな彼女の様子を見ていると、僕の方も眠たくなってくる。僕は彼女のお昼寝に付き合って寝てしまうことにした。


 しばらくして僕は目を覚ました。日溜まりはもうかなり位置を変えていて、取り残された僕を尻目に、彼女はちゃっかりと残り少ない日溜まりでウトウトし続けている。なんとなく微笑ましい気分になりながら、僕は彼女が悪魔の機械だと思っているアレ、つまり掃除機をかける。その音でパッと起き出した彼女は恨みがましい目をこちらに向けながら、名残惜しそうに殆ど無い日溜まりから立ち去った。


 ほとんどの家事を終えて、夕食の準備である。もう日溜まりは家の中にはなく、そっと夜が近づいてきている。

 土曜日の夕食は冷蔵庫にある食材で適当に済ませて、明日の日曜日にまとめて買い込むのが、いつもの僕の習慣になっている。ポイント多くつくし。

 準備が終わってテレビをつけると、夕食が始まる合図であることを知っているので、僕が準備している間ソファで何度目かの睡眠を楽しんでいた彼女は、何度目かの起床をしてゆっくりと優雅にテーブルに着席した。彼女の分の夕食も勿論用意してある。

 彼女は夕食を食べ終わると、しばらくテレビを興味深そうに見ていた。


 夕食が終わって、後片付けをする頃には窓の外はもう夜の帳が降りていた。僕と彼女は一緒にネットを見たり、映画を見たりする。

 映画は途中で彼女が飽きたのか、睡魔との格闘に敗北していて、スヤスヤと寝始めてしまったので、僕はブランケットをかけつつ、触り心地の良い頭の感触を楽しんだ。


 お風呂には寝る前に僕1人で入る。入浴剤の黄緑色の湯がなみなみと湛えられた湯船にゆっくりと浸かって、1日の疲れを癒やす。彼女のお相手は精神的には楽しく癒やされるものだが、同時に肉体的には疲労があることは否めない。肉体の方の癒やしはお風呂ともう1つに求めるしかない。


 そのもう1つ、つまり就寝である。時計の短針が頂上を指してから少し経った頃、ベッドに入って今日の僕の一日が終わる。

「今日も一日楽しかったかい?」

 僕がそう聞くと、彼女は僕の頭の隣で丸まりながら、可愛い高めの声で

「ニャウ。」

 と答えるのだった。

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