第9話

 シャドウ・エクスが想区を去った後、一行はそのままそこに立ち尽くしていた。

 エレナは今にも泣きだしそうな顔で自分の髪をくしゃっと掴んだ。


「こんなのって……ないよ……。エクスさん……『後悔はしてない』って言ってたけど、すっごい後悔してるよね。それはわたしにもわかる」

「……分かってる。僕たちは一体どうすれば……」


 エレナの言葉にレヴォルも同調する。ある選択を後悔して悩むというのはレヴォルにもよくあることだ。だからこそ、彼の気持ちが痛いほど伝わってくる。

 アリシアたちも表面上は何ともない風を装っているが、実際はエクスの胸の内を聞いて動揺しているだろう。

 と、そんな中でシェインが口を開いた。

 いつもの飄々とした口調で、きょとんとして。こう言い放つ。


「どうすればいいかって、そんなの決まってるじゃないですか。……エクスさんをぶっ飛ばしに行きますよ」


 それを聞いた一行は目を丸くして黙りこくる。

 シェインはそれでいいんだろうか、大丈夫なんだろうか。そんな考えが頭をよぎるが、それはレイナの笑い声によってかき消された。


「ぷっ、あははは! シェインらしいわね、まったく。でも私も同意見よ」


 努めて明るく言うと、今度はにっと笑って見せた。

 伝説の『調律の巫女』がこんな顔もするのかとアリシアたちはその様子に目を奪われる。


「私たちだって、何度も後悔してその度に立ち上がったわ。悩み上等、後悔のない人間なんていないもの」


 はっきりと、強い信念を持った瞳で一行にそう告げる。うんうんと頷くシェインとただ呆気にとられる一行を横目にレイナは言う。


「エクスを迎えに言ってあげましょう。それで、「馬鹿なことしちゃ駄目だ」って叱ってあげなくちゃ、ね」


 昔は自分の方がエクスに助けられていた。進む道を教えてもらっていた。何より、未来への希望をもらっていた。

――今度は私の番だ。

 何度拒まれようと、何度追い返されようと、それが彼を取り戻すことを諦める理由にはならない。かつてエクスがそうしてくれたように、レイナもまたエクスに新しい運命の可能性を伝えたい。


 レイナとシェインは顔を見合わせるとこくんと頷いた。

 アリシアたちに向き直ってにっと笑ってこう告げる。


「さあ――喧嘩祭りの始まりよ」

「さあ――喧嘩祭りの始まりです」

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