第7話

 再び辺りに霧が立ち込め、混沌の気配が近づいてくる。


「気をつけろ、みんな。シャドウが近いぞ……っ!」


 ティムが一行に注意するや、またシャドウの記憶が一行とレイナに流れ込んでくる。


◆◇◇

「レイナから離れろおおおおおおおおおおお!!」

「グゲッ⁉ バタン、キュ~~~~~~…」


 叫びながら、エクスがハッタに体当たりする。ハッタは不思議な言葉を発しながら地面に倒れこみ、レイナの拘束を解いた。


「エクス! ああ、よかった…! ジャバウォックから逃げられたのね…! …あれ、でも、タオとシェインは? 一緒じゃないの…?」

「あの二人は…ジャバウォックを食い止めてくれてる…僕だけ逃がしてくれて…」

「そんな…あのカオステラーを二人だけでなんて無茶よ!! すぐに戻らないと…!」


 エクスの言葉にレイナは血相を変えて叫ぶ。『調律の巫女』だからこそ分かる。あのカオステラーは今まで戦ったカオステラーたちとは格が違う。四人なら何とかなるかもしれなくても、二人なんて絶対に無理だ。


「ダメだ…あの二人は先に森を抜けろって言った…絶対に戻るなって…」

「なに言ってるの…タオたちを見捨てるっていうの! 無茶よ!! すぐに戻らないと…!」

「レイナを守りきる…それがタオたちの選択なんだ! あの二人が作ってくれた道を、無駄になんてしたら絶対にダメだ!!」


 レイナを制するエクスの表情も悔しそうで。きっと彼は、レイナがいなければすぐにでも戻って彼らを助けるという選択をするのだろう。

 エクスの悔しそうな、痛そうな表情を見たレイナは冷静になり、ため息を吐く。


「…そう。結局また私は…誰かの選択によって生かされたというわけね…」

「クルル、クルル…」


 いつの間にか現れたヴィランがエクスとレイナを取り囲む。二人は背中合わせにして立って空白の書と導きの栞を構えた。


「レイナだけじゃない…僕だって逃がされた…君を守れって役目を託されて、逃がされたんだ…!」

「絶対にここは二人で切り抜ける…仲間を信じるなら…一緒に来るんだ、レイナ!」

「エクス…!」


 ジャバウォックなんていう怪物と戦っている二人に比べれば、これくらいのヴィランなんか訳もない。二人はヒーローとコネクトして周りのヴィランたちを全て倒した。


「…………………」

「…もう少し待とう、レイナ。きっと二人は来るよ…あの二人が、そう簡単にやられるはずない…」


 ヴィランとの戦闘が終わり静かになった森の中で、タオとシェインを心配しているレイナにエクスが声をかける。が、エクスの言葉にレイナはふるふると首を横に振った。


「…いいえ、誰かが死ぬときなんてあっというまよ。みんなそうだった…王国のお父様も、お母様も…家臣も…お友達も…アラジンだって…。…みんな…あっというまに…いなくなる。私だけを…置き去りに…して…」


 自分の故郷がカオステラーに滅ぼされたあの日。

 アラジンが自分をかばって死んだあの日。

 思い出して、レイナの表情がどんどん曇っていく。声が擦れ、震え、消え入りそうな、泣きそうな声でエクスに話す。


「それでも…私は…逃げちゃいけない…私はみんなからの想いを託されてる…だから、カオステラーを『調律』する使命を、全うしなくちゃいけない…」

「…そうか。それがレイナの戦う理由なんだね」


 エクスがいつもより一層暖かな声で、レイナに言う。それからレイナの手をぎゅっと握った。


「…だったらその想い、僕も一緒に背負うよ。僕はあっというまにいなくなったりしない…絶対に、レイナを一人にしたりしない…」


 ありったけの自分の気持ちを込めて。今までのレイナへの感謝を込めて。何より、心の底から思ったことをエクスは口にした。この重責を背負った少女を絶対に一人になんてするもんかと、そう強く決意した。


「エクス…ありがとう…あなたがいてくれて、私―――」

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