第9話 始まりは悪ふざけ。

 図書委員の放課後は、結構暇だ。



 月曜日


 他の高校の図書室もこんなもんなんだろうか?

 我が高校の図書室は、結構暇だ。利用者が極端に少ない。


 前半週の図書室当番は、私と1年生の2人。

 あまりに暇なので、隣で文庫本を読んでいる1年生の横顔をじーっと見る……


 黒髪の三つ編みに白い肌。

 眼鏡の下は、意外にパチッとした瞳、長いまつげ。

 鼻筋もすっと通ってるし、可愛い唇をしている。


 おいおい、意識してなかったんだけどさ……

 この娘って地味だけど、ちょっと可愛くない?

 2人きりの図書室。

 ちょーっとだけ悪ふざけをしてみたくなった。


 ちゅっ……ほっぺにキスしてみた。


 後輩が驚いた顔でこっちを見る。

 してやったり。私は後輩の方を見てニッコリ笑う。

 当番の時間が終わるまで、真っ赤になってる後輩を見てニヤニヤしていた。


 火曜日


 昨日は悪いことしちゃったかな?ちっと悪ふざけが過ぎたかも……

 図書室に入ると、すでに1年生が来ていた。

「あー木下さん、昨日はちょっとふざけちゃってごめんね?」

 木下さんが顔を赤くしてこっちを向く。

「あ……気にしないで……下さい……」

 2人は黙って受付に座る。


 しばらくすると、木下さんが私にもたれかかってきた……

「え?き……木下さん……どうしたの?具合でも悪い?」

「先輩……」

 木下さんは顔をあげて、私の瞳を見つめる。

「やっぱり先輩、昨日のキスは悪ふざけだったんですか?」

「え?あ……あの……えーと……」

 私は返答に困った。

 「当然悪ふざけだった。ごめんなさい。」と答えるはずが、言葉がでてこない。


「私は……先輩の事が……好きです……」


 何故か拒否できない私……この子の瞳に逆らえない……

 そのままゆっくりと……唇を奪われた……


「ん……ちゅ……んっ……」

 唇を離して……

「だ……だめだって……ヤバいよ……誰か来たら……」

 木下さんがニコッと笑った。

「誰も来ませんよ……キスをやめたのは『誰か来たらヤバいから』なんですか?」

「う……」

 木下さんが再びニコッと笑った。

「キスをやめたのは『女の子同士はイヤ』だからじゃないんですか?」

 木下さんに見つめられる……

「じゃ……ない……木下さん……とは……」

 予定していなかったた言葉が私の口から漏れる……

「私、名前『春香』っていうんです。」

 じっと見つめられる。私はその瞳にあらがえない……何故?


「名前を呼んで……キスして……先輩……」


 ああ……

 そうだったんだぁ……

 悪ふざけをしたかったんじゃない……

 それは無意識の言い訳だったんだ……


「春香ちゃん……」

 私は、春香ちゃんの眼鏡を外して、キスをした……


 水曜日


「んんんん……」

 前半週の図書室当番は本日で終了

「やらかしちゃったよ……」

 昨日の濃厚なキスを思い出し、真っ赤になる私……


 隣で文庫本を読んでいる春香ちゃんが、本を閉じる。

「どうしたんですか?先輩」

「いや……勢いで……あんな事……しちゃった感が……」

 春香ちゃんがこっちを見る。

「結衣先輩、私のことキライですか?」

「…………好き……」

「え?よく聞こえなかったです」

 恥ずかしいので、私はうつむいたまま応える。

「好き……大好き……春香ちゃん……」


 春香ちゃんがニコッと笑った。

「結衣先輩、今日は私の両親、親戚の家に行っちゃってるんです」

「え?」

「図書室当番終わったら、家に来ませんか?」


 真っ赤になって応えた。

「うん……」

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